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いつかの魔法  作者: 紀之貫
第5章 真実
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第222話 「これからの仕事①」

 3月19日8時。宿でみなさんと朝食を取っていると、戸をノックする音が聞こえた。俺の客だろう。皆さんがこちらを見てくる。その反応になんだか懐かしさを覚えて微笑むと、みなさんも笑みを返してくれた。ただ、ちょっと心配そうにしている感じもある。俺の客というと、硬めのお役所ってこともあるからだ。

 しかし、リリノーラさんが応対に向かうと、外に立っていたのはギルドの受付の方だった。彼女はリリノーラさんと短く言葉を交わした後、俺の方に手を振って去っていった。

 再び食卓についたリリノーラさんが、彼女の来意を告げる。


「リッツさんに、お仕事の件でお話があるので、ギルドに顔を出してほしいとのことです。なるべく早めだと助かるそうで」

「わかりました」


 昨日もギルドに顔を出したけど、挨拶だけで終わっている。不在時に色々あっただろうし、そもそもあの戦いだって途中で抜けてしまったから、まだ正式に終わったわけじゃない。仕事が終わった時の、諸々の手続きが完了していないからだ。

 だから呼び出しを受けるのは、別におかしなことじゃなかった。「早めだと助かる」とのことだけど、そこまで強制されてる感じもない。色々と配慮してもらえているのだろう。

 でも、卓を囲むみなさんは若干不安そうだった。そんなみなさんを見ていて、俺が脳天気すぎるだけなのかと、かえって少しだけ不安になった。


 朝食の後さっそくギルドに向かうと、受付はジェニファーさんだった。すでに話は把握されているらしい。軽い挨拶の後、すぐに奥の応接室に通された。

 その応接室の中にいる顔ぶれを見て、一瞬だけ頭がフリーズした。ラナレナさんと、ウェイン先輩と、ギルドマスターがおられる。たじろぐ俺に、にっこり笑ってラナレナさんが着席を促した。

 テーブルを挟んでソファが2つ並んでいる。そして、3人が並んで座ってらっしゃる向かいに、俺が1人で座る形になる。しかし、開放感よりも圧迫感の方が強い。ギルドマスターは、威厳たっぷりだった。決して俺みたいなぺーぺーを威圧しようだなんて考えておられないだろうけど、それでも勝手に縮こまってしまう感じがする。

 なんだか、一挙手一投足を品定めされているような気がして、恐る恐るソファに着くと、ウェインさんが笑いながら言った。


「やっぱ、緊張するか?」

「ええ、まぁ……」

「マスターに目隠しでもしようか?」


 耳を疑って先輩の方を見ると、彼はニヤニヤ笑っていた。それから、マスターに顔を向けて言い放つ。


「もう少し、こういう場ではにこやかにしてもらわんとですね」

「すまなんだな……ワシのことは置物とでも思って話を進めてくれ」

「剣呑な置物ね~」


 ラナレナさんからも茶々が入り、マスターは腕を組んで少しそっぽを向いた。そういう素振りを見て、結構気持ちがほぐれた気がする。

 そんなやり取りの後、ラナレナさんは微笑み、書類を1つ差し出してきた。表題を見ると、あの戦いでの報酬関係のもののようだった。手で促され、書類を取って確認する。その報酬金額は、予想以上の数字だった。


「普段の月収の3倍近いんですけど、もらっていいんですか?」

「それだけの仕事をしてくれたもの、堂々と受け取って」


 報酬の内訳を見ると、普段の基本的な月収をベースにして、色々と危険手当がくっついていた。あと、夜間の緊急出動だのなんだの。

 でも、一番大きい項目は、功労についてのものだった。俺の働きで士気を高く維持できたおかげで、相手に主導権があったあの戦いでも、どうにか瓦解せずにやりきれた――そう評価してもらえたようだ。まぁ、転移でふっとばされてからは良くなかっただろうけど、そこは本営の指揮がうまいことごまかしてくれたようだし、戦闘も終わりがけだったから、そこまでの悪影響はなかったようだ。

 こういう評価をいただけたことに俺は満足だったけど、査定を下した側は色々と悩んでいたらしい。俺の様子を見て、どこかホッとした様子のラナレナさんに視線を向けると、彼女は困ったように笑って言った。


「働きに対する値付けをどうするか、かなり悩んでいたのよ。なにしろ、初めての試みだったから」

「そうですね、他の機関も関わってますし」


 俺の指摘に、向かいのみなさんがうなずいた。完全にギルド単独の戦いであれば、話はスムーズだったんだろうけど、実際には魔道具を貸与してもらってるし、借りたのは最新鋭のだったり半分禁制品みたいなシロモノだった。そういう道具あっての戦功に、どういう評価を下すべきかってのは、対外的にも難しいんだろう。


 実は、今回の呼び出しは、そういう諸機関との協働についてのがメインだったようだ。報酬についての話が一段落し、ちょうど話がつながったところで、ウェイン先輩が口を開く。


「すでに、結婚式のアレをやってもらってるけど、今後もそういうの増えそうな感じだろ?」

「……断言できませんけど、何か一緒に仕事するってのは、ありそうですね」


 魔法庁からブライダル事業で仕事を受注してるけど、あちらは事業をいずれは内製化したいと考えている。そのために、俺に複製術の指導に当たってもらいたいという意向がある。それに、俺に複製術を使ってもらって、得られた知見を共有したいという考えも。そのあたりのことを考えると、魔法庁と一緒に仕事することは増えそうな感じだ。

 工廠も、対瘴気用の研究開発で関わりがある。実戦投入まではこぎつけたけど、これからのブラッシュアップでお声がかからないとも限らない。それに、工廠以外の人間の中では、数少ないほうきの実戦使用者になってしまった。そのことで、何かしらありそうな感じはある。

 あとは……殿下と宰相様から、おそらく目をかけられているってことで、今後なにかあるかもしれない。そのことは、この場でもちょっと明かしづらいけど。

 頭の中で、今後ありそうなことを列挙していくと、ウェイン先輩は「もう十分」みたいな感じのジェスチャーをして笑った。


「色々あって大変そうだな」

「まぁ、自分で蒔いた種というか、首を突っ込んだというか……」

「それで、そういう他のところとの仕事は、個人で受注するのもいいけど、そういうときもギルドには一応話をしてほしいって思ってな」


 ウェイン先輩は、いつもよりも少し真面目というか、硬い感じで話を進めた。

 ギルドに話を付けて欲しい理由ってのはいくつかあるらしく、1つ目が俺の昇給・昇進の査定のためだ。ギルドとは完全に無関係に話を進められたのでは、査定のしようがない。でも、話さえしてもらえたのなら、仕事ぶりについて評価できるとのことだ。

 ギルドを通さない依頼でも評価対象になるようで、そのことは少し疑問に思わないでもないけど、外で実績や実力をつけた構成員を安く働かせたのでは、逆に恥ずかしいそうだ。

 2つ目の理由は、他の冒険者も一緒に働かせられるかもしれないから。そうやって仕事に適した冒険者を加えることができれば、仕事の成功率は上がるし、参加者には経験を積ませられるし、ギルドの影響力と他機関との連携力も増して言うことなしだ。


「特に、魔法庁とは関係が良くなってきてるからな。お互いに、もうちょっと一緒に仕事したいなって気持ちはあるんだ」

「なるほど」

「でも、下手に出るのもな~って感じで、ちょうどいい案件が降って湧くのを、お互いに待ってるってわけだ」


 なんか、素直になれない系のラブコメじみてきた。

 魔法庁とギルドの関係はそんなところだけど、工廠とも関係性を強化したいとのことだ。というのも、ほうきの実地利用に向けた訓練とか飛行ルールの制定について、ギルドも話に加わるようになったらしく、現場レベルでのやり取りがあると好ましいようだ。上だけで色々合意に至っても、下が初対面同士だと初動でつまずくだろう。


「そういうわけで、今後は他のところと仕事をする際、ウチの受付を通してもらえると助かるな。情報のやり取りが日常化するだけでも、仕事全体が少しはやりやすくなるだろうし」

「わかりました」

「それに、目を離すと心配だしな~」

「うっ“」


 痛いところをつかれ、思わず変な声が出る。すると、みなさん笑った。マスターも含み笑いを漏らした後、咳払いをして居住まいを正された。すると、ウェイン先輩がマスターに、にこやかに話しかける。


「通達は一通り終わりましたけど、マスターからは何か?」

「そうだな……」


 マスターは腕を組んで考え事を始められた。それからややあって、ちょっと優しげな微笑みを俺に向けられ、仰った。


「秋口から少しずつ、諸機関との関係が改善されてきている。その背景には、お前の働きも1つの要因としてあるだろう」

「……でしたら、大変うれしく思います」

「……それで、なんだ。今後とも、仲良くさせてやってくれ」


 ちょっとだけ口下手みたいな感じで、でも素朴な意思を伝えられ、俺は笑顔でうなずいた。そんな俺に、マスターは満足げな笑顔をされた。

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