【風神雷神】と呼ばれた双子、絡まれる
受付にてプレートができるのを待つコウ、ユズ、フィルミーナ。
そこへ、見るからに荒くれ者な男が3人、絡んできた。
「おう小僧、ちょっといいか?」
「なんでしょう?」
ゲーム内でも絡まれることが多かったコウは、落ち着いた様子で応じる。
「いい女連れてんじゃねぇか。ちょっと貸してくれよ」
3人のうちのリーダー的な一人がそう言った。
その言葉に、周りの冒険者達がざわつく。
「おい、あいつらミーナさんのこと知らねぇのかよ? 誰か教えてやれよ」
「見たことねぇ奴らだから、他国から来たんじゃね?」
「だとしても、ミーナさん元騎士団の団長様で、しかも最強の一角だぜ? それを知らねぇって、無知にもほどがあんだろ」
などとヒソヒソと言い合っている。
そんなことには気づかず、男はコウに迫る。
「なぁ、いいだろ? 二人もいるんだ、どっちかだけでも貸してくれよ」
そう言いながら一歩近づいた途端、ユズとフィルミーナが間に割って入った。
「コウに近づくな。コウが穢れる」
「それ以上近づけば、斬る」
ユズは手のひらを向けながら男を睨み付け、フィルミーナは腰に提げた剣の柄に手をかけいつでも抜ける態勢をとる。
戦闘準備万端といった感じだ。
男は、一瞬だけポカンとした後、大声で笑いだした。
「女に守られてんのかよっ、だっせぇな!」
その一言でユズとフィルミーナが攻撃しそうになる。
が、そこでコウが口を開いた。
「わかりました。僕と戦って勝てたなら、好きな方を貸しますよ」
「コウ!?」
「コウ様!?」
思ってもみなかった言葉に、ユズとフィルミーナがコウの方へと振り向く。
「ほぉ? 俺様に勝てるとでも?」
「勝てますよ? なんなら、そこの二人も一緒にかかってきてもいいですよ」
笑顔でそう言ってのけるコウ。
それを聞いた男は青筋を作った。
「言うじゃねぇか、おい! だったらお望み通り、3人でやってやるよ!」
「ユズ、ミーナさん、どいてて」
そう言ったコウの声は、今までにないくらい冷たいものだった。
しかも、目付きは鋭く、殺気がこもっている。
「コウ様……?」
「ミーナ、これから起こることを見れば、私が怒ってくすぐったことなんて可愛く思える」
「ど、どういうことですか?」
「見てればわかる」
脇へ退きながらそんなことを言われ、ミーナは困惑ながらにコウを見る。
荒くれ者3人と対峙するコウ。
すると、なんの合図もなく3人が剣を抜き、コウに襲いかかった。
「【束縛】」
3人に手のひらを向けてコウがそう言うと、3人の体がピタリと止まった。
「な、なんだこれ!? 動けねぇ!」
もがこうとするがどこもピクリとも動かない。
焦る男の前にコウが立つ。
「誰が女に守られてる弱腰ハーレム野郎だ、誰が!?」
男の胸ぐらを掴んで怒鳴るコウ。
「そこまで言ってねぇよ!?」
男がツッコミをいれると、顔面に拳が飛んできた。
「口答えするな!」
顔面を殴ったコウが再び怒鳴る。
男が一言でも喋る度に、顔面を殴り怒鳴るを繰り返す。
そんな光景を、フィルミーナは、信じられないといった表情で見ている。
「見てわかったでしょ? コウは、怒ると気性が荒くなって容赦がなくなる。怒らせてはいけない。触らぬ神に祟りなし」
「はい。コウ様にあのような一面がおありだったなんて……ユズ様を怒らせる方がマシですね」
「……またくすぐられたい?」
「い、いえ、今のは言葉の綾と言いますか……申し訳ありません!」
ユズとフィルミーナがそんなやり取りをしている間にも、コウは男を殴っては怒鳴り、殴っては怒鳴りを繰り返している。
顔はパンパンに腫れ、鼻からは鼻血を垂らし、歯も所々欠けている状態だ。
繰り返しているうちに心が折れたのか、それまで反抗的な言葉を発していた男が、突如謝った。
「ず、ずまながっだ! 俺だぢが悪がっだ! ゆ、ゆるじでぐれぇ!」
すると、コウはすんなりやめ、ニッコリ笑ってこう言った。
「2度目はありませんよ?」
そう言った後、3人に向けて【解除】と唱えた。
すると、3人とも動き出した。
急に動かせるようになったため、バランスを崩して地面に倒れた。
無傷の男二人は、すかさず立ち上がって恐怖のあまり、悲鳴を上げながら逃げるように立ち去った。
一人とり残された顔が重症になった男。
顔の痛さに立てずにいると、突然液体を顔にかけられた。
「な、なにを……」
「完全回復薬です。自分でやっといて難ですけど、さすがにやり過ぎたなと思いまして。これで、欠けた歯も元通りになるはずです」
コウが言った通り、だんだんと顔の腫れがひいていき、鼻血も止まり、欠けた歯も元通りになった。
コウは鏡を取り出して男が見れるように持つ。
「どこか、おかしいところは無いですか?」
「すげぇ、元通りだ……。こんな上等な回復薬を俺なんかに、よかったのか? いや、よかったんですか?」
「持ち合わせは少ないですけど、自分の不始末ですから」
そう言いながら鏡を仕舞うコウ。
「いや、俺が失礼なことを言ったのがいけねぇんです。アニキが謝るようなことではねぇです」
「あ、兄貴?」
「はい、今日から俺、フザルダ・ロッドはアニキの下につかせていただきやす! よろしくお願いしやす!」
男――フザルダがそう言って頭を下げる。
そこへ、プレートを持ったソガンがやってきた。
「受付に呼ばれて来てみれば……なんだ、この状況……」