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【風神雷神】と呼ばれた双子、国王に会う


 コウとユズが信じられないとばかりの目を向けると、フィルミーナがそれに気づいた。


「あの、コウ様、ユズ様? その信じられないと言いたげな目をやめていただきたいのですが……これでも、魔王四天王を相手取れる実力を持っているのですよ?」


 部下の騎士達に聞かれたくないのか、コウとユズに近づきヒソヒソと言うフィルミーナ。


 しかし、それでもコウとユズは、一向に疑いの目をやめない。


 早とちりするような王女がそんな実力を持っているはずがない、と本気で思っているからだ。


 しかも、魔王四天王を相手取れると自分で言ったのだから、疑いが深まる。


 ――ジー……


「と、とにかく! お二方は邪神の使徒ではなく異世界人であるため、相応のもてなしをしなければならない。それ故、これから城へ連れていく。いいな!」

『はっ!』


 疑いの目に耐えられなくなったフィルミーナの一声により、コウとユズはフィルミーナ達と共に城へ向かうこととなった。


 ◆


 城に到着したコウとユズ、そしてフィルミーナ達。


 しかし、何事もなくとはいかなかった。


「おかしい! どう考えてもおかしい! なぜ魔法使い(マジックキャスター)のお二人があんなに速く走れるのだ……!?」


 騎士団長口調で頭を抱えるフィルミーナ。


 なぜフィルミーナが頭を抱える事態になったのかと言えば、大草原から城に向かう時のことだった。


 コウとユズをどうやって連れていくかという話になったのだが、フィルミーナの部下達全員が乗せたくなさそうにした。


 それを察したコウとユズは走ると宣言し、大草原から城まで走ったのだが、それがフィルミーナが頭を抱える原因になる出来事の始まりだった。


 走り出す一行。


 それに続いてコウとユズが走り始める。


 するとなんと、馬より速く走ったのだ。


 当然フィルミーナも部下の騎士達も驚く。


 しかし、答えは簡単なことだ。


 コウとユズが、自身に身体強化系の魔法を使ったからである。


 それに、元々レベルもステータスも何もかもがカンストしているコウとユズの身体能力は、新幹線と競争ができるくらいに高い。


 馬より走るのが速くなるのは必然である。


 しかも、城に到着した後のコウとユズは息切れひとつしていない。


 この世界の魔法使い(マジックキャスター)は、身体能力が低く、本当に魔法しか能がない存在だ。


 馬より速く走れるなど、あり得ない。


 それ故に、フィルミーナは理解が追いつかなくなり、城に着くなり、厩戸にてこうして頭を抱えているのである。


 そこへユズが声をかけた。


「いつまでコウを待たせるつもり? これ以上待たせるなら……実力行使に入る」


 そう言って両手をワキワキさせ、フィルミーナににじり寄るユズ。


 それに気づいたフィルミーナは困惑する。


「へっ? ゆ、ユズ様? なぜゆっくりと迫ってきているのですか!? それにそのワキワキさせている両手は!? ま、待ってください! コウ様、ユズ様を止めてください!」

「今、コウに命令した? ならもうやめる理由はない」

「すみません、ミーナさん。洗礼だと思って受けてください。死にはしませんから」

「コウ様が匙を投げた!?」


 ちなみに、なぜコウがフィルミーナのことをミーナと呼んでいるのかというと、フィルミーナは王女という身分を隠して騎士団に入団し、努力と功績を重ねて騎士団長に上り詰めた。


 その為、コウとユズに王女ということは秘密にしてほしいから呼ぶときはミーナと呼んでほしいと言ったのだ。


 ユズは呼ぶ気皆無だが。


「おとなしくして。天井のシミを数えている間に終わる」

「それ使いどころがおかしいと思うのですが!?」

「まぁ、それどころじゃなくて数えられないだろうけど」

「不穏なことを言わないでください! あ、待って、やめてください! 謝ります、謝りますから! 無表情で両手をワキワキさせながら近づいてこないでください!」


 イヤイヤと首を左右に振りながら後退りをするフィルミーナ。


 しかし、最終的には厩戸の壁に阻まれ後退りできなくなってしまい、ユズが迫る。


 そして、厩戸にフィルミーナの悲鳴があがったのだった。


 ◆


「ひどいです、ユズ様……まさか、あんなことをなさるなんて……もう、お嫁に行けません」


 城の中を歩きながらげっそりとした顔のフィルミーナが愚痴る。


「ただくすぐっただけで大袈裟。でもミーナの体、至福のさわり心地だった。見直した」


 フィルミーナの後ろをコウにピッタリとくっつきながら歩き、艶々した顔をしたユズが満足げにそう言う。


 フィルミーナとユズの顔を見ると、完全にそういう行為をした後のそれだ。


 問題は、どちらとも女だということなのだが……。


 いや、それ以前に、フィルミーナの方は笑い疲れによるものだとわかるが、くすぐっただけでユズがこの顔になるのはおかしい。


「すみません、ミーナさん。ユズって、怒りを爆発させるとああなるんです。僕はやられたことないんですけど」

「コウをくすぐるなんてしない。なぜなら、コウになにされても、私は頭に来ないから。むしろバッチ来い」


 そう言ってどや顔をするユズ。


 そんなやり取りをしているうちに、とある一室の前に着いた。


 フィルミーナがその部屋のドアをノックし「ミーナです」と告げる。


 すると、中から「どうぞ」という女性の声が聞こえてきた。


 それを聞いたフィルミーナが「失礼します」と言いながらドアを開けて中に入る。


 コウとユズもそれに続いて中に入る。


 中は、両サイドに本棚、一番奥にいわゆる社長机があり、その上には書類がタワーのように積まれている。


 そして、辛うじて書類がない真ん中に、この部屋の主はいた。


「せっかく来ていただいたのにこのような有り様で申し訳ありません。コウ様にユズ様でしたね。報告は聞いております。わたくしの娘が大変な失礼をいたしたようで……この場を借りて謝罪いたします」

「えっ、ミーナさんのお母さん? ということは……」

「はい。この国の女王を務めております。ネルドラ・パロ・ルードニアと申します」


 やっぱり! と思ったコウは頭を下げる。


 それに対してユズはふーんと心底興味なさげにしている。


 慌ててコウが頭を下げさせようとする。


「その様に畏まらずともよいのですよ? ご迷惑をおかけしたのはこの愚女なのですから。黒髪黒目は確かに邪神の使徒の特徴ですが、額にこのくらいの大きさのホクロがあります」


 そう言って、親指と人差し指でビー玉くらいの大きさの丸を作って見せるネルドラ。


「再三言い聞かせていたはずなのですが、早とちりしたようです。本当に申し訳ありません。お詫びと言っては難ですが、娘をもらってください」

「お、お母さ……いえ、陛下! それは……」


 フィルミーナは、そう言いながらチラリとユズを見る。


「それは、ミーナをコウのお嫁さんにするってこと?」


 ゴゴゴゴゴゴ…………ッ!!


 という効果音が聞こえて来そうなほど、俯きながら怒りを孕んだ声を発するユズ。


 ほら見たことかとフィルミーナが顔を青くする。


 一方、ネルドラは、さすがは女王と言うべきか、ユズが放つ威圧に耐えていた。


「いえ、そういう意味で言ったのではありません。娘を騎士団長から外してお二人のお付きとしますので、好きにお使いください。よいですね、フィルミーナ」

「はい。元からそのつもりでしたので、問題ありません」


 ネルドラが下した処遇を当然のように受け入れるフィルミーナ。


 いつの間にかフィルミーナを押しつけられたことに気づいたコウは、先が思いやられるのだった。



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