【風神雷神】と呼ばれた双子、意外とあっさり魔法が使えるとわかる
お待たせしました。
「ちょっ、待ってください! いくらなんでもそれはダメですよ! 第一王女なんですよね!?」
神剣を自身の首元に宛がったフィルミーナを必死に止めるコウ。
しかし、フィルミーナの目が納得いかないと訴えてくる。
「第一王女と言っても、女兄弟の中で一番上だから第一王女と言っているだけで、上に兄が三人おりますから、わたくしがいなくなってもどうということはありません」
「いや、そういう問題じゃないですよ! これで貴女が死んだら、僕とユズ、殺人犯として一生追われることになるんですから!」
「ですが、こうでもしなければ、ユズ様の気が収まらないのでは?」
そう言いながら、フィルミーナはユズの様子を窺う。
「コウが許すのなら私も許す。でも、さっき言ったのは本音。変わりの罰として、私とコウの案内とこの世界についての説明と……めんどい、今後ずっと私とコウの言うことなんでも聞いて」
指折り数えながら言おうとするも全部言うのが面倒になったユズは簡略化した。
しかも、〝今後ずっと〟と付けているため、どちらかが死ぬまで有効である。
だが、フィルミーナはなんの躊躇もなく首を縦に振った。
それで許してもらえるなら、どんなことを命令されようと受け入れる覚悟でいるからだ。
「コウ、これでいい?」
「えっ? あ、まぁ、うん……。それはいいんだけど、一応王女様だから、あんまり無理言わないでよ?」
「なに言ってるの? この人の手綱はコウが握るんだよ?」
「えっ、僕? というか手綱って……王女様だって言ってるのに……」
「コウ様、お気になさらず。なにを仰られても受け入れる覚悟はできております。ですから、お好きなようにわたくしをお使いください」
そう言ったフィルミーナの真剣な表情に押し負けたコウは、「じ、じゃあ、お言葉に甘えて……」と言ってまずはなにを頼もうかと考える。
しかし、先程からコウはそれよりも重要なことを気にしていた。
先の戦いでは、フィルミーナがレベル90以下であったがために障壁が発動し攻撃を受けなかったが、今後どうなるかはわからない。
今後の為にも、どうにか魔法が使えないか試す必要がある。
コウは、そこを気にしているのだ。
よって、まずはこの世界における魔法のことについて尋ねることにした。
「魔法、ですか?」
「はい。どのように行使するのか気になったので、教えていただけないでしょうか」
「そんなに畏まらなくてもいいのですよ? わたくしとしては、命令口調くらい妥当だと……」
「くだらないこと言ってないで、いいから教えて」
フィルミーナがグダグダしたのを見てイラついたユズが叱責する。
フィルミーナはすかさずユズに謝り、魔法について話し始めた。
「この世界での魔法は、詠唱を行うことで使うことができます。体に巡る魔力を手に集中し詠唱を行えば良いのですが、魔法名が持つ意味を理解し明確にイメージしなければ、正しく発動しません」
そう言いながらフィルミーナがコウとユズから見て右を向くと、掌を前に突き出した。
すると、突き出したフィルミーナの手が淡く光り始めた。
「炎よ、槍となりて貫け! 【ファイアランス】!」
フィルミーナがそう言うと、掌の先から魔法陣が浮かび、細長い炎が3本放たれた。
魔法陣が浮かびそこから魔法が放たれるのは、ゲーム内でコンソールを用いた時のものと同じ仕様だった。
「【ファイアランス】は、炎の槍という意味を持つので、それを明確にイメージしなければ使えない、ということです」
「なるほど」
とは言ったものの、【炎槍】はコウ達のゲーム内では初級魔法だ。
マジックポイント(MPのことではない)1で覚えられる。
〝魔法詠唱者〟であるコウとユズにとって【炎槍】は、初歩の初歩の魔法であり、MP消費が5で済むくらいお手軽魔法なのである。
ちなみに、ゲーム内では初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法、神級魔法があり、それぞれの消費MPは順に5、15、30、45、75となっている。
ちなみに、融合魔法の消費MPは、それぞれのプレイヤーから必ず30ずつ消費される。
そういった点では、消費MPが最も低い初級魔法は、魔法を試行する際に有効だ。
加えて、〝魔法詠唱者〟であるコウとユズのMPは、二人とも二十万あるため、何度試行しても有り余るほどある。
しかも、〝魔法詠唱者〟の優遇その3、MP消費マイナス10%により4、13、27、40、67となるため、やはり初級魔法は有効だ。
取り敢えず、見よう見まねでやってみることにしたコウは、フィルミーナが向いた方向に同じように掌を突き出す。
魔力と言われてもよくわからないコウは、手に魔力を集中し明確にイメージする過程をすっ飛ばし、そのまま【炎槍】と唱える。
すると、フィルミーナと同じように掌の先に魔法陣が浮かび、炎の槍が3本放たれた。
魔法を行使した瞬間、なにかが減る感覚を覚えながら。
これは恐らく、MPを消費する感覚だろうと当たりを付ける。
魔法を使って減るものはMPしかないのだから、至極同然の結論だが。
「……使えちゃった」
「さすがコウ。天才」
あっさりと使えることがわかり困惑するコウと、魔法が使えることを証明したことを褒めながらパチパチと拍手するユズ。
そしてもう一人、困惑している人物がいた。
「えっ、今、手に魔力を集中しないで魔法が発動しませんでしたか? しかも、無詠唱でしたし……」
現在頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされており、完全に困惑顔のフィルミーナである。
「珍しいですか?」
「珍しい以前にそんなことできません。熟練の魔法使いであれば、手に魔力を集中させる時間を短縮することはできますが、集中させずに魔法を使うことなどできるはずがありません。異世界から召喚された勇者様でも、そんなことできませんから」
「それはたぶん、僕とユズがゲームの世界から直接この世界に転移したからじゃないかと思います。僕とユズの職業〝魔法詠唱者〟なので」
「そういえば、〝ぶいあーる〟なる意識のみを別世界に送り込むものがあり、それでげーむとやらをやっていたらこの世界に来たと仰っていましたね……。そうですね、その影響を受けているという可能性は、大いにあると思います」
フィルミーナが考え込むポーズをしながらコウの意見に賛同する。
そこへ、退避していた騎士達が戻ってきた。
「団長、ご無事で!」
「あぁ、心配をかけたな。もう大丈夫だ。このお二方は、邪神の使徒ではなかった。我らの勘違いだったのだ」
「なんと……! しかし、国で最強の一角を担う団長の神剣の一撃を無傷で凌ぐのならば、やはり邪神の使徒なのでは?」
疑り深い部下に叱責を浴びせるフィルミーナの傍ら、コウとユズは同時に同じことを思っていた。
――えっ、最強の一角なの? と。