【風神雷神】と呼ばれた双子、邪神の使徒扱いされる
感想でご指摘いただいた点は、今回で大方説明できたと思いますが、まだ何か不備がありましたら感想として送ってください。
近づいてきた騎士達がコウとユズの前で止まる。
「我々は、ルードニア王国の騎士である。私はその騎士団長、ミーナ・フレグレムだ。先程の強い光は、君たちの仕業か?」
金髪碧眼のいかにも女騎士といった装いの女性――ミーナがそう訊ねてきた。
強い光? と、コウとユズは全く身に覚えのないことを訊ねられて困惑する。
「その反応、やはり君たちがやったのだな?」
ただ困惑しているだけなのに、隠し事をしていると解釈したのか、ミーナが問い詰めてくる。
コウとユズはさらに困惑する。
「む、君たち、よく見れば黒髪黒目ではないか!」
コウとユズをじっと見詰めたミーナがそう言うと、他の騎士達がざわつく。
確かに、コウとユズの容姿は現実のものから変えていないため黒髪黒目である。
というのも、魔法職に就く条件が〝種族が人間であること・現実の顔であること〟であるため、現実の容姿のままというわけだ。
リアル割れ必至である。
素顔を晒したくないプレイヤーは仮面アイテムを着用したりするが、コウとユズは気にしていなかったため、思いっきり素顔を晒していた。
しかしその分、魔法職は色々と優遇されていたりする。
それにしても、黒髪黒目のどこにそんな驚く要素があるのかと疑問に思うコウとユズ。
その答えは、ミーナが勝手に答えてくれた。
「もしや、邪神の使徒なのか!?」
「「えっ?」」
急に邪神の使徒などと言われて唖然とするコウとユズ。
全くの予想外だった。
邪神の使徒とか言われても全くわからないのだが、ミーナや他の騎士達の反応を見るに、そういうことなのは明白だ。
「総員抜剣! ここで邪神の使徒を滅ぼすぞ!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
コウとユズの話も聞かず、勝手に邪神の使徒認定し、勝手に襲いかかってくるミーナ達。
コウは焦った。
ステータスなどは確認したが、魔法が使えるかの確認はまだしていなかったからだ。
そもそも、ゲーム内での魔法の使用はコンソールを用いたものであったため、コンソールが出ない現状では魔法が使えない、ということになる。
ちゃんと確認しておけばよかったと後悔するが、時すでに遅し。
コウとユズにミーナの剣が迫る。
すかさずコウを庇うように立つユズ。
コウは目を見開く。
そんなことはお構いなしに、ミーナの神剣がユズに迫ってくる。
ユズが斬られるかと思われた――その時だった。
――ガキィィン!!
ミーナの剣は、障壁に阻まれた。
「は?」
ミーナが唖然とする。
「あ、そっか、〝魔法詠唱者〟の特性で、レベル90以下の物理攻撃無効があったんだっけ」
そう呟いたのはコウだった。
優遇その1、レベル90以下の物理攻撃無効の障壁である。ただし、〝魔法詠唱者〟にならないと発動するようにならない。
レベル90は高すぎじゃないかと思うかもしれないが、コウとユズ達が遊んでいたゲームではレベル200が上限であるため、妥当な数字だ。
かといってレベル上げが簡単かと言えばそうでもないため、微妙ではある。
それはさておき、障壁が発動したということは、ミーナのレベルは90以下ということになる。
そして、そのミーナが騎士団長だということは、必然的に他の騎士達も90以下ということだ。
殺されずに済む。それがわかったコウは安堵した。
「フッ、計算通り。コウ、褒めて?」
そう言ってどや顔をしながらおねだりをするユズ。
「ゲームと同じように発動するかわからない現時点で庇うのは自殺行為だよ? わかってる? 結果オーライだけど、斬られてたかも知れないんだよ? 2度とこんなことはしないこと。いい?」
「はい……ごめんなさい……」
コウに言われ、謝りながらシュンと落ち込むユズ。
教養を身に付ける努力を怠らないユズだが、まだまだ論理的思考に欠けるところがある。
その為、確認作業でアイテムを確認した際、効果の説明を見ずアイテムがあるかどうかだけを確認してしまっていた。
しかし、コウはその点に気づき、抜かりなく確認している。
ユズの持つアイテムがどうかはわからないが、少なくとも自分のアイテムの効果が変わっていないことはわかっている。
最悪、ユズが斬られても回復アイテムがあるので大丈夫だったが、強く言って聞かせた方が今後のユズのためになると思ったコウの判断だ。
コウが説教を行っていると、我に返ったミーナが叫びだした。
「わ、私の剣が通らないだと!? そんな馬鹿な! この剣は神剣なのだぞ!?」
レベル90以下である物理攻撃は無効化される。
つまり、武器が神剣だろうが魔剣だろうが、使用者のレベルが90以下かどうかが、無効化されるかどうかの判断基準なのである。
現に、ミーナの神剣での攻撃を防いだことがなによりの証拠だ。
そんなことは当然知らないミーナは、まだ諦めない。
「やはり邪神の使徒か。防御力が相当高いようだ……」
「団長、どういたしますか!?」
「やむを得ん、神剣の力を開放する! 総員、待避せよ!」
『はっ!』
ミーナ以外の騎士達が離れていく。
「えっと……なんでこんなにラスボスと戦ってる感じなの、この人達……」
「私とコウが強いから、仕方ない」
呆れた物言いだが、ユズの表情は自慢気である。
そうこうしているうちに、ミーナの持つ神剣から光が発せられる。
その神剣を、ミーナは振りかぶって天に突き上げる。
「まさかここでこれを使う羽目になるとはな。邪神の使徒よ、喰らうがいい! 【天使の鉄槌】!!」
ミーナが技名を叫びながら神剣をコウとユズに向かって振り下ろすと、コウとユズの直上から光の柱が放たれた。
今度こそダメかと思われた――その時である。
――パァンッ!!
またもや障壁に阻まれた、というより、障壁に当たった瞬間に光の柱が霧散した。
優遇その2、レベル90以下の魔法攻撃無効化である。
「そんな……神剣の一撃すら、通らないなんて……」
再び防がれたことに、というより、神剣の一撃を防がれたことに、ミーナは驚愕しその場にへたりこみ絶望する。
心なしか、女の子らしい口調になっている。
頼みの綱である神剣の一撃を防がれたため、もう勝ち目はないと悟ったのだ。
みかねたコウがミーナに話し掛ける。
「あの、僕達のこと勝手に邪神の使徒扱いしたくせに、こっちの話も聞かず勝手に盛り上がって勝手に絶望するのやめてもらっていいですか? 不愉快です」
「そ、それは、その……」
「コウの言う通り。こっちは下手したら死んでた。謝罪すべき案件」
「で、ですが、その黒髪黒目は、邪神の使徒の特徴で……ヒィッ!?」
ミーナがまだグダグダと言うため、ユズがまだ言うかとばかりの目で睨み付ける。
驚きと怯えで言葉を途中でやめるミーナ。
体をブルブルと震わせている。
「ユズ、そのくらいで。えっと、ミーナさん、でしたっけ?」
「はい、ミーナです」
「異世界はご存知ですか?」
「あ、はい。魔王討伐のために異世界から勇者様を召喚いたしますので」
「そうですか。それなら話が早い。僕達、異世界人なんですよ」
「そうなのですか? それにしては、格好が……」
ミーナが言いたいのは、異世界から来たのなら、なぜコウとユズはローブを纏っているのかということだ。
確かに、コウは黒を基調とした、ユズは赤を基調としたローブを纏っている。
そして、実はコウのローブの背面には風神の、ユズのローブの背面には雷神の刺繍が、かなりの大きさで施されている。
【風神雷神】と呼ばれるようになってしばらくした頃、運営からこのローブをプレゼントされた。
恥ずかしいことこの上ないが、コウとユズは素顔を晒す胆力の持ち主であるので、気にせず着用している。
なぜコウが風神でユズが雷神かというと、融合魔法の時、コウが風魔法を、ユズが雷魔法を担当するからだ。
「あぁ、えっと、この格好なのはですね……」
そう言って、コウは今に至るまでの経緯を詳細に説明した。
「そう、なのですね……てっきり、邪神の使徒だと思ってあのようなことを……誠に申し訳ありませんでした。改めて、自己紹介を。わたくし、ルードニア王国第一王女兼騎士団長のフィルミーナ・パロ・ルードニアと申します」
思いの外すんなりと受け入れるフィルミーナ。
それよりも、まさかの王女様だという事実に、コウは驚いた。
「お、王女様だったんですか!? どうしよう!? 僕さっき偉そうなこと言っちゃった!?」
「コウ、落ち着いて。悪いのは全部この人」
「ちょっ、ユズ、なに言ってんの!? 王女様なんだよ!? 国家権力そのものだよ!? 不敬罪で死刑とかあり得るんだよ!?」
「いえ、コウ様、ユズ様の仰る通り、わたくしが全面的に悪かったので、気になさる必要はありませんよ? そもそも、その程度で不敬罪にはなりません。コウ様の中の王女とはどのようなイメージなのですか?」
コウがあまりにも焦り散らすため、フィルミーナは落ち着きを取り戻した。
が、ユズがそれを許してはくれない。
「勝手に邪神の使徒扱いして私とコウを殺そうとした、早とちり王女?」
「はうぅ!? そ、それはもう仰らないでください!」
涙目になりながら訴えるが、ユズの口撃は止まらない。
「ろくに話も聞かず」
「……」
「強い光は私とコウの仕業と決めつけ」
「……」
「さらには邪神の使徒認定までして襲いかかってくる」
「……」
ユズの口撃により、フィルミーナは俯いたままになる。
一方ユズは、やめないどころかトドメ級の口撃を放った。
「王女にあるまじき行い。コウを危険な目に遭わせた王女なんて、死んでしまえばいい」
トドメ級というか、トドメ(物理)だった。
「ちょっ、ユズ!? それは……!」
あまりの衝撃的な口撃に、コウが止めようとする。
しかし、コウを止めたのは、他でもないフィルミーナだった。
「コウ様、良いのです。結果的に死ななかったとはいえ、わたくしはコウ様とユズ様を殺そうとしたのです。それでユズ様の気が収まるのなら……」
そう言って、フィルミーナは神剣を自身の喉元に宛がった。