9、効果あり?
9、効果あり?
石守さんの友達が来てからというもの、石守さんは悩んでいた。
帰り際、石守さんの友達が僕に話しかけてきた。
「君、石守の甥っ子だよね?」
「……」
僕は黙って頷いた。
「君からも説得してくれないかな?意外と家族から言ってくれた方が効果あると思う」
「……」
僕はどうしていいかわからなかった。石守さんが、絵画教室の先生をやった方がいいかどうかなんてわからない。正直どうでもいい。
僕が黙って迷っていると、石守さんの友達が言った。
「ま、今回は、子供は許容範囲内って事がわかったからいいや。また来るよ。お邪魔しました。」
そう言って帰って行った。
それからというもの、石守さんは何をやっても上の空だった。
「石守さん、これ……。」
「…………あ、ああ。悪い。」
僕は石守さんに、ピーラーで剥き終わった人参を渡した。
「お前……剥くの遅っ!」
石守さんに言われたくない。僕に野菜の皮剥きを押しつけて、ずっとボーッとしてたくせに……。
なんて事は、言えなかった。
僕はまるで、この家に丁稚奉公に来ているみたいだった。食事の支度や洗濯や掃除、色々な家事を石守さんに命じられた。
「下ごしらえできたか?次、作り方読め。」
僕はカレールーの箱の後ろを読んだ。
「①炒める。厚手の鍋にサラダ油を熱し、一口大切った具材を炒める。」
「じゃ、鍋はそこ。油はそっち。」
石守さんはいつも隣にいて、たまに文句を言うだけで、手伝ってはくれなかった。
でも、たまに…………
「よし、いい感じだな。」
とか、
「よし、できたな。」
そう言うのが…………何だか嬉しいと思った。
カレーを煮込む間、石守さんに聞いてみた。
「絵画教室…………」
僕の言葉に、石守さんは無言で驚いていた。
「絵画教室が何だ?やるかどうか聞けって木下に言われたか?」
僕は慌てて首を横に振った。
「…………わからない。お絵描き教室の先生なんかやったら、絵で食ってくのを諦めたみたいで……正直、迷ってる。」
「先生をやると、諦めた事になるの?」
思わず、そう言ってしまった。
「それは…………」
石守さんの友達の言っていた事を思い出した。
『意外と家族から言ってくれた方が効果あると思う』
効果、あったのかな?
だって、石守さんは、僕の事を家族だなんて思ってない。一番最初に言われた。他人だから、石守さんって呼べって。