7、絵の具
7、絵の具
「画材なんか送って来るなよ!こっちにあるだろ?」
「え?アンタまだニートやってたの?」
「はぁ?喧嘩売ってんのか?」
相変わらず癪に障る女だな!うちの姉貴は!
違う。違う違う違う!ニートじゃない!!芸術家なの!アーティスト!作品は売れた事は無いけど!
「どうでもいいけど、多分夏休みの宿題、先生にそっちに送ってもらうから、しっかりやらせといてよ?」
「知らねーよ。やる気があるなら自分で勝手にやるだろ。そうやって姉貴が世話ばっかり焼くから隼人が何もできないんだろ?」
「うるさい。アンタに口出しされる筋合いない」
まぁ……それは、その通りだ。
そりゃそうだけど…………実際こっちは迷惑してるんだぞ?そう言おうとしたけど、隣に本人がいたからやめておいた。
「隼人は?」
「隣にいる。代わるか?」
俺は隼人に携帯を差し出した。隼人は下を向いて、そのまま携帯を受け取らなかった。
「出られないみたいだぞ?」
「…………じゃあいい。また今度でいいよ」
姉貴が電話越しに空気を読んで、隼人によろしくと言っていた。
電話、代わらねーの?それでいいのか?
「そっちで何かあったか?」
「隼人から聞いて。隼人が話したくなったら話すでしょ。じゃ、よろしくね~!」
そう言って一方的に電話を切られた。
俺は段ボールに入っていた、クレヨンと色鉛筆、絵の具セットとスケッチブックを隼人に渡した。
「暇ならこれ、使えば?」
隼人はそれを受け取った。これは素直に 受けとるのか……。
隼人は絵の具セットを開けて、中身を確認していた。何色かは、ほとんど絵の具がなかった。
そういえば、確か何年も使ってない使いかけの水彩絵の具があったな……。
「ちょっと、こっち来い」
俺は、手招きして隼人を俺の部屋に来るように呼んだ。画材をしまっている引き出しの一番下が、いらない物で埋まっていた。
「隼人、ここ。ここの引き出しの絵の具、好きに使っていいぞ~」
「…………」
隼人は俺の絵を見ていて、全然話を聞いていないようだった。
「おーい!話を聞け!」
「え?何?」
やっとこっちを向いた。そんなに食い入るように見るような絵か?
「ここの絵の具、使っていいって言ってんの」
「…………いいの?」
「どうせ捨てるつもりだったし。好きに使え」
隼人は少し、少しだけ口元を緩ませて言った。
「…………ありがとう」
あれ?今、少し笑った?
そういえば…………こいつが笑った所、一度も見た事がない。以前に会った時は、親父の葬式だった。その時はまだ小学校低学年で、今よりもっとボケっとしていて、今よりもっと喋らなかった。
そう思えば……今の方が、少しはマシか?
「お前、少しは人間になったな」
「?」
でも…………まだまだ動物みたいだ。いや、動物の方がよっぽどしっかり生きてる。
動物…………!
「この動物は何でしょう!」
俺は、自分が描いた動物の絵を指差した。
「……?」
「正解は猫とタヌキのミックス!」
「こっちは何でしょう!」
「……?」
「正解は犬とタヌキのミックス!」
「こっちは何でしょう!」
「……ミックス?」
「象と、象のミックス?ミックスって言わねーよ!最初からどれもミックスじゃねーよ!突っ込めよ!」
俺の小ボケは不発だった。
「…………ごめんなさい。」
「何で謝るんだよ!お前が悪くない時は謝るな!思ってもない謝罪は逆にムカつく。」
「…………ご」
俺はごめんなさいを言われる前に口を手でふさいだ。
「次から自分で塞げよ!いいな?わかったな?」
「~!くるしひ!」
これは決して、いじめとか虐待とかじゃない。