5、帰れない
5、帰れない
荷物を……外に捨てられた。
これは、出て行けという事?どうせすぐに送り返されると思って、荷物なんかどこに置いても同じだと思っていた。
でも、…………こんなに早く追い出されるとは思わなかった。僕は外に出てみたけど……荷物を拾う気にはなれなかった。
この荷物は…………何一つ、自分で用意したものじゃなかった。全部、お母さんが詰めたものだ。僕は本当はこんな所、来たくなかった。
ポツポツ雨が降って来ると、石守さんが慌てて玄関に降りてきて、僕の荷物を拾っていた。僕はそんな石守さんの姿をただ、黙って見ていた。
「何で俺が拾わなきゃなんねーんだよ!俺が投げたからか!いや、悪いの俺?!」
突然、ランドセルが飛んで来た。よろけながら何とかキャッチできた。
「お前の分!!早く中入るぞ!もっと降って来る!」
そう言って中に入ると、急に本降りになった。
「やっぱりな~!どうりで今日は蒸すと思った!」
石守さんは、2階に荷物を置いて下に降りてきた。
雨はどしゃ降りになった。
「本格的に降って来たな~!」
「…………」
僕が黙って玄関に座っていると、石守さんが隣に座って言った。
「どうした?もう帰りたいか?」
「…………」
僕は黙って頷いた。
「帰れねーぞ。本当は俺も帰したいんだけど…………ダメなんだよ。」
「…………どうして?」
「これ、姉貴に言うなって言われてたんだけど…………姉貴、入院してるから」
思わず立ち上がってしまった。
「入院…………!?」
急に、お母さんの事が心配になった。
「そんなに心配するな。すぐ死ぬとかじゃない。大丈夫だ。多分」
多分って何?どうして何も言ってくれなかったの?
「お腹に子供がいることは知ってるよな?前置胎盤ってやつなんだと」
石守さんが少し説明してくれた。お母さん本人は元気だけど、絶対安静、生まれるまで完全に管理入院らしい。お父さんはこんな時に、単身赴任で家にはいない。つまりは、あの家には誰もいない。
「さすがに夏休み中、ずっと1人で生活って訳にはいかないだろ?しかも、ほら、お前何もできないし。だから、お前はここにいるしかないんだよ。残念だったな」
正直、1人で家にいた方がマシだった。
こんな時、シェロがいてくれたら違ってたかな……?そう考えたらまた涙が出そうになった。