49、笑顔
49、笑顔
小さな小さな頭、小さな小さな手、僕の妹は何だか怖いくらい小さかった。
僕達が妹に初めて会ったのは、ガラス越しだった。ガラスの向こうのケースの中に、妹はいた。
まるで人間じゃないみたいだった。小人?人形?まだ小さくて、ケースの中からは出られないんだって。お父さんがそう言ってた。
お母さんは元気がなかったけど、ガラスの向こう側で笑って手を振っていた。
みんな、笑顔だった。
お母さんも、お父さんも、おばあちゃんも、石守さんも、真緒さんも、隆人も、みんな笑顔だった。
その後、僕と弟は石守さんの家に帰った。
石守さんの家の前には、何故か水野さんが待っていた。
「隼人!お帰り!!」
「水野さん、どうしたの?」
僕がそう訊くと、隆人の荷物を降ろしていた石守さんが言った。
「いや、お前を待ってたんだろ?」
僕を待ってた?どうして?
「隼人、ベーゴマ、見つかったよ!」
「本当!?」
良かった!!やっぱり木下さんの家にあったんだ!!
「…………。」
僕が手を出すと、水野さんは何故かベーゴマをなかなか返してくれなかった。
「隼人、これ返す代わりに、お願い聞いてくれる?」
「え?どうして?」
「じゃ、返さない。」
えぇ~!そんな~!!
「それって…………僕に聞けるお願い?瑠璃ちゃんを倉庫に足止めするのは嫌だよ?あと、隣の家に行って猫を捕まえて来るのも嫌だ。あと…………」
「待って!違うよ!そんなお願いするわけないでしょ!?」
水野さんはいつも悪い事をして、1人で逃げてしまう。だから、いつも僕だけ怒られる。
「あの…………あのね、東京に行ったら、同じ中学校に行って欲しいの!!」
「え?そんな事?別にいいよ?」
「え?……そんな事?」
別に僕は、やりたい部活がある訳じゃない。友達と同じ所に行きたい訳でもない。中学校なんか、どこでもいい。
こうして僕は、水野さんからベーゴマを受け取った。久しぶりに見たベーゴマは、キラキラ光っているように見えた。
良かった!!東京では何の手がかりは無かったけど、何だか…………やっぱりまだ、諦めなくていいんだ。そう思えた。
世界がまるで、ピカピカ、キラキラ、色鮮やかに、彩り豊かに、輝き始めた。
残りの夏休みはあっという間に過ぎて、僕と弟は、東京に帰る事になった。帰りは、お父さんが迎えに来てくれた。
別れ際、石守さんは、僕に紙に包まれた絵をくれた。龍の絵の半分くらいの大きさで、僕の体くらいある絵だった。
「これ、開けていい?」
「待て、帰ってから開けろ。」
「うん、わかった。ありがとう。石守さん、さよなら!」
石守さんと真緒さんと木下さんに挨拶をして、お父さんと駅に向かって歩いた。
お父さんが僕に訊いた。
「どうして謙治君の事を石守さんって呼んでるんだ?」
そう言えば…………
僕は戻って、大きな声で言った。
「ありがとう!おじさん!」
すると、2階の窓が開いて声が聞こえた。
「隼人!自分の絵は、自分で色を決めて、自分で責任を持てよ!」
「おじさん、元気でね!」
「お前もな!」
僕はお父さんと隆人が待っている所へ走り出した。両手に絵をかかえながら。
「隼人、その絵、持ってやろうか?」
「いい。自分で持つ。僕の絵だから。」
家に帰ってすぐに、絵の包み紙を開けた。
その絵は龍じゃなくて…………滝を昇る鯉だった。




