39、愛された
39、愛された
『石守君、君が思っているより、君はたくさんの人に愛されてるんだよ。』
田中先生…………田中先生が父親ならいいと思ってた。それは、あなたがいい父親だと思っていたから。
隼人が木下と帰った後、俺と真緒さんは学校に残された。
「嘘、ついてすみませんでした。」
そう頭を下げると、真緒さんは去ろうとした。
「待て。田中先生と暮らした事が無いってどうゆう事だ?」
俺は、真緒さんの前に立ってそう訊くと、真緒さんは足を止めた。
先生には確か、歳上の奥さんがいた。俺の知らない所で離婚してた?
「私が……愛人の子だからですよ。」
愛人!?嘘だろ?あの田中先生に愛人!?
「死ぬ間際に、突然無理やり病院で会わされて、石守さんに伝えて欲しいって言われました。」
真緒さんは振り返ると、踊場に飾ってある俺の絵の方を見て言った。
「あなたには才能があるって。悪いけど、私にはとてもあるとは思えませんけど。」
おいおい、言ってくれるじゃねーか。
俺は、さっき木下と話した事を思い出した。
大事なのは、絵じゃない。
「違う。そんなんじゃ無い。本当は…………絵なんか書き直せばいいと思ってる。」
「じゃあ、どうしてそんなに凹んでるんだよ?」
木下は破れた絵の穴に指を入れて、余計に破いていた。
「修復できない物もあるって事を思い知らされた……。美紀、結婚してたらしい。」
「ああ、その事か。」
木下が、さも当たり前かのように言った。
「はぁ!?知ってたのか!?何で言わないんだよ!!」
こっちはどんな思いで3年間いたと思ってんだよ!
「言ったら追いかけたか?美紀さんの式に乗り込んでたか?」
それは…………わからない。
「あのメンタルで言ったらお前死んでたな~!あははは~!」
「そこ笑う所じゃねーよ!お前、俺の友達だよな?だよな?俺、もう人間不振だわ~!真緒さんにまで嘘つかれて……」
「あー!サバよんでたやつ?あれ凄いよな~!見た目普通に高校生だもんな~」
そうゆう事じゃない。歳の問題じゃないんだよ。サバ読んでいたというよりは、俺達が若いと勘違いしていたが正しい。
確かに見た目は高校生…………そういえば、高校の時、田中先生がこう言っていた。
「君たちにはみんな才能がある。こんなに才能溢れる子達に出会えたんだ。こんなに幸せな仕事はないよ。って……田中先生よく言ってたよな?」
「田中先生、それみんなに言ってよな~!でも、それなんか嬉しかった。おかげで俺は、真に受けて勘違いしたけど。あはははは!」
俺は、木下が才能がないとは思った事はなかった……。でも、今の木下が幸せならそれでいい。今はそう思う。
先生…………才能って一体何ですか?
田中先生は俺達を通して、自分の子供の事を想っていたのかもしれない。俺達がもらった言葉はきっと…………本来は、彼女のものだった。
俺は、田中先生の言葉を、思い出を、彼女に返さなきゃいけないのかもしれない。
「君には才能がある。恐ろし絵で人を楽しませられるし、料理で人を死にそうにさせられる。」
「それ、全然良くないですよね?」
困った……褒め言葉が上手く出てこない。
田中先生はよく、俺達を誉めてくれた。暖かい言葉や厳しい言葉をくれた。俺達はその言葉を糧に、頑張れた。
「そうだ、君の笑顔は人の心を癒す事ができるんだよな。」
その言葉を聞いた真緒さんは、その目から涙が溢れ出ていた。
あ、俺泣かした?泣かしたよな?
「おーよしよし。」
俺が真緒さんの頭を撫でると……
「年下扱いすんな!」
手を払いのけられた。
「君も……たくさんの人に愛されてると思う。」
多分、田中先生にも……。
すると、真緒さんは俺の胸ぐらを掴んで言った。首が引っ張られ、頭を下げられた。少し、頭がぶつかった。顔が近い……。
「私は、多くの人に愛されたい訳じゃない。目の前の、ただ1人に愛されたいんです!」
化粧、落ちてて怖いから。
リアル貞子だから。
そもそも、それ、胸ぐら掴んでガンつけて言う言葉か?
ある意味…………ドキドキした。




