31、チャンス
31、チャンス
美紀を見た瞬間…………
何が起こったのかわからず、しばらく呆然とした。
明らかに、心に頭が追い付いていかなかった。それでも、とっさに思った事は1つ。
その手を掴むチャンスは今しかない!!
美紀がこっちに気がついて、走ろうとした瞬間、俺は美紀の腕を掴んだ。
なんとか捕まえた!!間に合った!!
その手を振りほどいて逃げようとする美紀の腕を強く引いた。
「ちょ、待てよ!」
「ちょ、それ…………キムタク?」
「…………。」
キムタク?ちょ、待てよ?今の流れは確かに。
ここで、キムタクのモノマネができるほど余裕はなかった。
美紀が黙ってこっちを見て来たので、気まずくなって、一度もやった事ないけど、やった事ないけど一応やってみた。
「ちょ、待てよ~!」
いや、無理があるって。
「似てな!!」
「お前がやらせたんだろ!?」
そう言うと、美紀は声をあげて笑った。
「あはははははは!!この状況でそれ、やる?」
それは…………ずるいだろ?
美紀の…………笑顔だ。あの頃と何の変わりない。あの笑顔。
その顔を見たら、色褪せていた自分の世界が、鮮やかさを取り戻した。
その鮮やかさに浮かれていて、美紀の時間を買うと言って、抱き締めたら、ビンタをくらった。本気の重い平手打ちだ。
「なんで!?」
いや、調子に乗ったのは悪いけど……
「みんなの前で何やってんの!?そうゆう所が嫌なの!!」
美紀はそう言って怒っていた。
俺の中では、美紀はいつも我慢した笑顔だった。
良かった。俺の前で、もう我慢してない。
「…………ごめん。」
俺が謝ると、美紀は驚いた。
「今、謝った?」
「俺、お前がいなくなった後、色々反省した。色々考えた。俺の何が悪かったのか、美紀が何が嫌だったのか……。」
俺は、必死だった。
自分自身がカッコ悪い。でも、カッコ悪くても、必死にならなきゃ何も変わらない。
あの時必死にならなくて、後悔した。
「本気なの?私の時間を買うって、本気?」
「……本気だ。」
それで美紀がここに残るなら……。
「…………じゃあ利息分、住み込みのアシスタントとして働く。悪まで、アシスタントだからね?」
すげー何度も念を押された。
「ただのアシスタント、家政婦、お手伝いさんだよ?」
「どれも一緒だよ!わかったよ!わかったから!」
なんでこっちが下手に出なきゃいけないんだよ……。
あの頃、俺は自分に才能があると思っていた。正解を描き続けていると思っていた。人に対しても同じだった。自分は悪くない。自分は正解なんだと思っていた。
でも、絵は評価されず、美紀も出て行った。
それでも、俺にはまだチャンスがある。復縁のチャンスもあるかもしれない。もしダメでも、せめて理由を聞くチャンスはある。
失って気がついた。まだ、チャンスがあるのは、こんなにもありがたい事なんだ。




