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エピローグ:こころないドラゴン

 ――――とある世界。


 城内にて巨大な魔法陣が展開し、この世界を救う勇者の召喚を試みている。

 しかし魔法陣を敷いた魔術師達がある異変に気付いた。


「……なんだこの急激なエネルギー反応はッ!?」


「なにかが来る……術式で開けた次元の壁の隙間を通って……ッ!! いやこの感覚は。無理矢理こじ開けているんだッ! 力任せにッ!! 召喚ではなく、召喚する為に開けた次元の裂け目を!」


 この謎の反応に全体に緊張が走る。

 恐怖半分好奇心半分といった所か。


 そして彼等はその正体と相まみえることとなる。


 空間に裂け目が出来上がり、内部から両手でこじ開ける巨怪。

 這い上がるように出でて、地に足をつけるや人間達を見下ろす。

 

 7mほどのヒト型に似た巨躯を持つドラゴン。

 頭部はゾンビのように醜く歪み、焦点が定まっていないかのような小さくも鋭い瞳。

 後頭部あたりから触手のようなものがいくつも生えて蠢いていた。

 

「な、なに……これ?」


「でけぇッ!!」


「これ……勇者?」


「んなワケないでしょ! アンタ何者よッ!?」


 魔術師や騎士達が巨怪の前へ躍り出る。

 それぞれの力を顕現させ威嚇していた。


 強大な力だ。

 彼等が本気になれば国を塵と化してしまうだろうというほどに。


 だが、それすらも巨怪グリフォにとっては空虚に感じた。



 さて、俺は何者であるか……?


 俺は全ての不条理。

 

 煮え滾る憎悪カオスと侮蔑に満ちた虚無コスモスよりの使者。

 

 憎しみの系譜の使徒。

 魔物や神、人間という概念を越えた彼岸に立つ者。


 

 俺は、グリフォ・ドゴールッ!!


 待ちかねて力を行使しようとした直後、巨怪の口から莫大なエネルギーが熱光線として放出された。


 故郷であった世界のときとは比べ物にならないほどの威力が破壊の一撃となって彼等に襲い掛かる。


 命を砕き、城を砕き、国すらも砕いていく憎しみの力。

 瞬く間に爆炎と風圧によって被害が増していく。


 人々は恐怖し混沌と炎の渦に沈んでいった。

 ある者は人々を逃がし、戦える者は武器をとり魔術を唱える。


 巨怪グリフォ・ドゴールは嘲笑にも似た咆哮を上げながら城下町へと進んでいった。

 戦う者達が集結し始め魔術や遠距離武器等で一斉攻撃を浴びせる。


 しかし遠距離攻撃の全ては強靭な外殻によって弾かれ、魔術は外皮を滑るようにして受け流されていった。


 あらゆる抵抗が無為になっていく中で被害はより甚大になっていく。

 無数の触手が更に蠢きを増しながら電気を帯びていった。


「……なッ!? 魔術が……使えない? 加護スキルも全て……ッ!!」


「回復……誰か回復をッ! くそ、どうなってんだ!?」


 異能の力全てを無力化させる電磁シールド。

 その規模は更に進化しグリフォ・ドゴールを中心に半径50kmにも及ぶ。


 物理攻撃も効かず、異能による全ての支援・攻撃も無力化された。

 そのチャンスを、最悪ヴィランである彼が逃すはずがない。


 無数の触手が凄まじい速度で伸びて一気に襲い掛かる。

 かつてのグルイナード王国の兵士達のように丁寧に串刺しにされ、病のような症状に侵されて薙ぎ倒されていった。


 一通り片付ければ今度は城下町全体に触手を伸ばしていく。

 逃げ遅れた者、隠れている者を見つけ出し破壊していくのだ。


 比較的遠くにいる者や城下町を抜けたであろう者達には熱光線を。

 ただし皆殺しにはしない。

 

 


 彼等に憎しみを抱かせなければならない。

 憎しみが正義の炎を滾らせ、憎しみが悪の叡智を授ける。


 突如現れたこの理不尽とも言える破壊を行使する自分によって崩される日常。

 世界は……憎しみの系譜は巨怪グリフォ・ドゴールという特異点を経て、新たな極地へと歩みだすのだ。





 破滅が謳う。

 誰もが苦しみ咽び泣き、この世と巨怪じぶんを呪った。


 その中で確かに感じる。

 混沌の中で逃げ惑う人々の中に潜む意志の波動。


 この無慈悲な破壊を憎み平和への想いをより強固なものにする意志の光。

 破壊の中で無力さを呪うも『我もまたあれ以上の』と力を求める野心の闇。


 まだ未熟ではあるが確かに芽生えている。

 憎しみから生まれた意志はきっと将来また更なる憎しみを育んでくれることだろう。


 

 グリフォはこの上ない歓喜を覚え、天高く咆哮した。

 火の海と死体の山々の中で、この人ならざる意志はこの世界に確かな手応えを感じる。


 ――――この姿になってよかった。

 ――――この力を得てよかった。


 人間グリフォの心はすでになく常に虚ろな空のみを瞳が捉えていた。

 最早この世全てが祝福に思えてならない。


 グリフォ・ドゴールは別の国へと足を進める。

 今度はもっと破壊しよう。

 

 もっと皆が憎しみで心が砕けてしまうほどに。

 神も、人も、魔物も、空も、大地も、全てを敵にまわそう。



 嗚呼――――。



 憎しみの男はヴィランへと堕ちる。

 また新たな憎しみを生み出す為に。


 全ての宇宙が『誰かや、なにかを憎む心』でいっぱいに、それはもういっぱいになって溢れかえってしまうように。 

 



 いつの日か自分ヴィランと対を成す存在が現れるそのときまで……。







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