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つかの間の夢の中で

 グリフォ・ドゴールは今尚休眠状態にあった。

 グルイナード王国には神罰兵器が撃ち込まれ大爆発と共に凄まじい衝撃波が天地を巡っている。


 それでも尚不動の状態で佇み、ピクリとも動かない。


 そんな彼の中ではある現象が起きていた。




(……ここは)


 そこは暗黒が支配する世界。

 灼熱と言える温度と硝煙のみが僅かな色彩としてあるだけで、その他にはなにも見当たらない。


 敵の気配も無い。

 完全なるひとりだ。


 自分ひとりだけがこの世界に置き去りにされたかのような感覚に陥る。


(俺の知ってる世界じゃあない。あの世……ってわけでもなさそうだ)


 あの激戦の後自分は休眠状態に入った。

 目覚める頃には全て終わっているだろうと思い……。


 いつの間にか連れてこられたこの妙な空間。

 いっそ熱光線でも吐いて滅茶苦茶にでもしてやろうかと思った直後。


『聞こえるかグリフォ』


 アルマンドからの念話だ。


『あぁ、聞こえる。……どうやら俺は知らない間に迷子になってたらしくてな。妙な空間に突っ立ってたんだ』


『安心しろ。アンタは迷子じゃあない。そこはアンタの夢の中さ』


『夢? 化け物の俺が?』


『そうだ……アンタの潜在意識の中といった方がいいかな? ……これからアンタは決めなくちゃならない』


『決める……、なにを?』


 グリフォは訝しむ。

 潜在意識の中とは言っていたが、そこで決断しなくてはならないとはどういうことだ。


『そのまま真っ直ぐ進め。行けばわかるさ』


 アルマンドはそう告げると念話の通信を切る。

 内心溜め息を漏らしつつ言われた通り真っ直ぐに進んだ。


 この先になにがあるというのだろう。

 見渡す限り暗闇と硝煙だけだ。


 進んでも進んでも先の見えないこの世界は本当に地獄にさえ感じた。

 これは自分の夢。


 しかしこの殺風景さにはげんなりする。


 そう思っていると突如目の前に"あるもの"が立ちはだかる。


(これは……まさかッ!)


 目の前に現れたもの。

 それは人間かつてのグリフォ・ドゴールだった。


 

 夢の中である為かその身長は今の自分と同じくらいデカい。

 否、自分が人間サイズにまで小さくなっているのだろうか。


 まぁそれは些細なことだ。

 問題は目の前に現れたかつての自分。


 人間の頃の自分は、今の自分を睨みつけたままずっと立っている。


(そうか、そういうことか……)


 グリフォは意図を理解する。

 これは今自分の中に残っている人間性の部分だ。


 人間の頃の良心、常識、その他全て。

 

『懐かしいだろう? 人間の頃のアンタの姿だ』


『……あぁ』 


『人間のアンタの後ろ……その先は地獄へ通ずる道だ。人間の頃に持ち得ていた全てをアンタは失い、憎しみが紡ぐ歴史を築く運命に晒される。憎しみの系譜の使徒として更なる悪へ墜ちる。……例えいつかその身を八つ裂きにされようともだ』


『……踏みとどまればどうなる?』


『いい質問だ。……人間に戻してやろうと思うんだがどうだ? ここまで大掛かりな復讐を頑張って成し遂げ、このオレを十分に楽しませたアンタへの御褒美だ』


 人間に戻す。

 その言葉に一瞬身体が反応した。


『どうだぁ? いい提案だろ? ……ティアマットは見事グルイナード王国を滅ぼし、約束通りオレがかつての神格と信仰を取り戻させた。だが信仰者であった部族達の復活までは契約には入ってなかったもんでね。代わりに今までずっと迫害されてきた獣人種の奴等が彼女を崇拝することとなる。ティアマットは元グルイナード王国を獣人種達の楽園に創り変えるらしい。それだけの力が今の彼女にはある』


 なるほど、アルマンドの力を借りたか。

 この女にかかれば無理なことでも可能になってしまう。


 ティアマットは目的を果たし過去を取り戻した。


 では……自分は……。


『好きな方を選べ。だが決めるのは今だ』


 そう告げられグリフォは人間の頃の自分を再度見据える。

 すると彼はゆっくりと自分に手を差し伸べてきた。


『……』


 表情は穏やかなものとなり口元が緩んで笑みが零れている。

 もういいのだ、全ては終わったのだと。


 巨怪グリフォはふと己の手を見てみる。

 何度も見た化け物の手だ。


 そして化け物の顔、化け物の肉体だ。


 人間の頃のグリフォは今の巨怪じぶんに手を差し伸べたままその手を握るのを待っている。

 きっとこの光景はアルマンドもどこかで見ているだろう。


『……』


 巨怪グリフォはゆっくりと人間グリフォの手へと、その手を伸ばし始める。

 人間グリフォは安堵を含んだ笑みと柔らかな表情で巨怪グリフォを迎えた。


 ……ふたりの手は今繋がれる。 






 ――――だが直前で巨怪グリフォの手は握り拳へと変わった。


 驚愕する人間じぶん

 振りかぶられたその握り拳は人間グリフォの胸を貫き、彼をガラス細工のようにバラバラに打ち砕いた。


 周囲には人間じぶんだったものの破片が散らばり、最早面影すら残っていない。


 暫く自分の握り拳を黙って見つめていると、アルマンドからの念話が来る。


『……それがアンタの答えか。なるほど。どうやら鼻っから決めていたらしいな』


『……』


 アルマンドへの返答はせずグリフォは自分から念話の通信を切った。

 そしてそのまま真っ直ぐ進み始める。


 更なる暗黒、更なる地獄への道。

 地響きでこの世界を轟かせながら凱旋する。



(……)


 触手を不気味にうねらせ尻尾を雄々しく揺らした

 牙は輝きを増し、見開いた瞳には狂気すら感じ取れる。


 憎しみの系譜の使徒。

 更なる悪の高みへ。


 ふと周りを見ると煙の中に無数の人影らしきものが見える。

 自分と同じ方向を歩いていた。


 グリフォはすぐに感じ取る。

 彼等もまた自分と同じだ、と。


 どこの時間軸、どこの世界の者達かはわからない。


 だが確かに感じる。


 彼等も憎しみより悪へと堕ちた者達。

 世界を憎み、善を憎み、悪を憎み、挙句の果てには自分自身すらも憎んでしまった者達。


 

 ――――いつか堕ちるであろう地獄へと、休まずに薄ら笑いを浮かべながら誰も彼もが行進していく。



 グリフォはそれ以上の深読みはしなかった。

 これ以上は関わりのないことだと。


 そして、彼の意識は元の世界へと繋がっていく。

 

 新たな自分を祝福しつつ……休眠から目覚め始める。


 



 ――――俺にはまだやらねばならないことがある。

次回投稿は10/1の夜中となります。


最終話も残りわずか……。


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