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殺戮の怪竜

『もうじき目標地点に降り立つ。……無数の気配を感じる。ドラゴンの感覚なのか、それとも他の生命体の感覚なのか』


 風を切りながら凄まじい速度で接近中のグリフォ。

 異形の肉体であるからこそ出来るこの超音速飛行に、内心度肝を抜かれている。


 アルマンドと、あのティアマットとという女性に感謝せねばなるまい。


『そこが戦場だな。……魔王軍が劣勢って所か』


『わかるのか?』


『魔女は未来だって見れるし行くことも出来る。そして遠い場所を見ることも出来る、いわゆる透視ってやつだ』


『便利なもんだな』


『オレはなんだって出来る。なんでもしようとは思わないだけだ』


 適当だなこの女。

 だが、優秀なのには違いない。


 彼女のバックアップは自分の復讐には必要不可欠だろう。

 ……そういえば、あのティアマットもまた復讐の機を狙っていた。

 彼女は今どうしているのだろうか。


 気にはなったが、すぐにそれを振り払う。

 かの戦場、その上空。

 その数百m上から勢いよく降りることにした。





「おい、なにか降りてくるぞ!!」


 地上にて魔王軍と戦っていた兵士のひとりが天空を指差す。

 つられてひとり、またひとりと見上げていった。

 魔王軍の兵である魔物達も然り。



 ――――轟音を上げ、巨怪は戦場のど真ん中へと舞い降りた。


 激しい揺れと風圧でその場に居た者達が恐れ戦く。

 砂埃が舞う中、その正体に誰もが目を凝らした。

 

「あれは……なんだ?」


「新たな魔物か!? く、魔王軍の増援か」


「我等魔王軍の一員でもない、初めてみる顔だ……誰だ?」

 

 グルイナード王国軍、魔王軍の間に緊張と混乱が走る。

 なにせ、突如現れたのは実に完璧なプロポーションをしたドラゴン。


 人間のようなフォルムに、その悍ましい形相は魔物でさえ戦慄するほどだ。


「……」


 ドラゴン……グリフォは黙ったままギョロつく瞳で全体を見渡す。

 誰も彼もが自分に注目し、恐怖を抱いているのが分かった。

 

「貴様、何者だ……?」


「おのれ魔物めぇ! 神と王国の名の下に成敗してくれる!」


 両軍の殺気がこちらに向けられる。

 最早全員がグリフォ・ドゴールを狙っているのだ。


 だが、そんな状況を彼は内心ほくそ笑んだ。


 完全に包囲状態にあるにも関わらず、全くと言っていいほど()()()()()()()

 あるのは"破壊"の意志だけだ。


 半開き状態の口が大きく開かれ、一瞬にして内部にエネルギーが収束する。

 アルマンドの工房のときのような不慣れで不安定なものではない。

 

 熱光線が横一閃に薙いだ、次の瞬間。

 巨大な爆炎と共に人や魔物が天空高く舞い上がる。

 


 空まで埋め尽くさんとする炎の渦と煙は、打ち挙げられた生命をことごとく燃やし尽くした。

 外皮から臓腑、身にまとっていた鎧等に至るまで、大いなる灼熱がのみ込んでいく。


「な……なんだ、今の威力は……ッ!?」


「バカな……魔王様でも、これほどの威力は……ッ!」


 爆風に気圧され、完全に戦意喪失した者共がグリフォの放った熱光線に戦慄する。

 一瞬にして大勢の命が散っていった。


 大魔術でも行使したかのような威力が、奴が現れてものの数秒で"現実"として顕現したのだから。


(あぁ、こんなにも簡単に……死ぬんだな。人間や魔物ってぇ奴は。弓矢で必死になっていた頃が嘘みたいだ……。――――もっと、殺さなきゃ)


 これは狼煙だ。

 憎くてたまらない世界、そして勇者への叛逆。

 誓いと共に燃え上がる怒りの炎。


 だが彼等もやられっぱなしではない。

 王国軍の矢や砲弾、魔王軍からはふんだんに魔力を注ぎ込んだ魔術がグリフォへと放たれた。


 彼の周りは巨大な砂埃が立ち昇り、攻撃が凄まじい威力を持っていることがうかがえる。

 しかし、グリフォの驚異的な外殻が全ての攻撃を弾き返した。

 

 魔術にしてもそうだ。

 彼奴の外殻を這うように、否、滑るようにして別の方向へと流されていく。


 一切のダメージは入っていない。


(異能の力は俺には効かない。……だが少々目障りだな)


 触手から紫色の電流が流れ始める。


 途端にグリフォの半径数m以内に一切の魔術が届かなくなった。

 電磁波が一種の結界のような役割をして、異能の力を無力化したのだ。



 そして更に後方へもう一閃。


 同じように戦場の生命達が無惨に爆音と炎の中へ消えていった。

 逃げ回る兵士達、恐れのあまり発狂する魔物達。

 悲鳴と怒号が爆音の余韻と混じり、戦場は度し難い混沌へと陥る。


 こうなれば命令による統制などとれない取れやしない。

 彼等は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


 グリフォはそのままゆっくりとした足取りで、焼けた土と肉の臭気が漂う大地を進んだ。


 あまりの劫火で包まれているせいか、上手く逃げることの出来ない彼等は巨怪グリフォが動き出したことで更にパニックになる。

 誰もが戦うことを放棄し、炎と巨怪から逃げようとしていた。


 だが、グリフォがそれを許すはずがない。

 今度は後頭部あたりから伸びる無数の触手を動かす。

 触手は伸縮自在らしく、蛇のように這いまわり、鷹のように素早く、虎のように鋭い一撃を逃げ遅れた彼等に見舞わせてやる。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 炎を掻い潜る触手の鋭い薙ぎ払いが、人間や魔物達の重い身体を右へ左へ吹き飛ばす。

 触手の先端の、槍のように鋭い器官は鎧はおろか魔物の硬い表皮までいとも容易く貫いていった。


 触手の一撃を躱せても、少しでも掠れば、その部分から肉がズクズクに爛れていき、やがて全身へと至る。

 鋭い激痛と凄まじい痒み、その他症状が身体を蝕んでいき死んでいくのだ。

 それは魔物も例外ではない。

 


 まだ5分も経っていない今この瞬間。

 両軍は、突如現れたたった1匹によって壊滅した。


 戦場は更なる凄惨な様を大地に残している。


 ただの肉塊と化した者。

 炎と爆発の高温で身体を炭化させた者。

 身体が文字通りズクズクになり、のたうち回って死んだ者。


 魔物も人間も、同じように死んでいった戦場を一瞥した後、グリフォは悲しみにも怒りにも似た竜の咆哮を上げる。


 灼熱の大地と化したこの場所に君臨するは、この世の不条理、全ての憎しみの化身となった生命体ハイブリット

 しばらく佇んでいると、アルマンドから念話の通信が入った。


『ウォーミングアップとちゃあ上出来だ、御苦労さん。これで両国にアンタの存在を知らしめられるだろう』


『国なんぞよりも勇者だ……。早くレクレスの野郎を血祭りに上げなくては……』


『待ちな、物事にゃあ段階ってのがある。まぁオレに任せとけ』


『段階? フン、なにを企んでる?』


 彼女がなにを考えているのかわからない。

 データを集めるなどと言ってはいるが、どこまで本当なのか。

 そして殺したはずの奴が今どこでなにをしている?


『オレを疑ってんのか? 信用してくれやまったく。……こちとら2人分の報復手伝ってやってんだからよぉ』


『2人分……あぁ、確かティアマットと言ったか』


『あぁ、……この際だから教えてやる。……()()()()()()()()()()



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