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私は輝く、太陽のように……

 最上階、神罰兵器操作室。


 まるでここだけは時間が遥か未来へと進んでいるかのような光景だった。


 空間一面が金属製で設えてあり中央には巨大な魔導装置が鎮座している。



『発射まであと1時間55分30秒……』


 けたたましく響く警告音の中でアナウンスが響く。

 なんということだ、あと2時間あまりで……ッ!


「クソ……ッ!」


 ティヨルは装置に駆け寄り備えられた無数のスイッチやレバーを眺める。


 緊急停止をする為のスイッチかなにかがあるはずだ。


『こちらセバス、王女様応答をッ!』


「セバスッ! ……大変です。神罰兵器の発射まで2時間を切りましたッ!」


『なんですと!?』


「教えてください、どうすれば止められます!? 緊急停止のスイッチも見当たらないの!」


 だがセバスもまたその方法を知らない。

 唯一止め方を知っているのは歴代の国王だけだ。


 その王は今日いなくなった。

 絶体絶命の危機に立たされる。


「神罰兵器の魔導装置を破壊すれば……ッ!」


『不可能ですッ! その装置はあらゆる衝撃に耐えられるよう設計されているとのこと。唯一破壊できるとしたら……それはもうその兵器の威力を遥かに上回る兵器でしかッ!』


 殺戮の力を止めるには更なる殺戮の力しかないのか。 

 そんなものどこにもありはしない。


 あるとしたら……。


「グリフォ・ドゴール……彼の熱光線、若しくは電磁波ならこの装置を……ッ!」


『……王女様、たった今入って来た情報によりますとグリフォ・ドゴールは勇者殿を打倒した後……その場にて停止したようです』


「なんですって!?」


『国民達の受け入れ要請を効率的に進める為世界中に魔術師達の使い魔を派遣しているのですが……そのときに使い魔の一匹が目撃したようなのです』


 あの夢の中で一度彼と繋がった。

 再度説得すればもしかしたらチャンスがあったかもしれない。


 だがそのチャンスもグリフォの復讐完了を以て露と消えてしまった。


『……王女様、最早これまで。お逃げくださいッ! その部屋には脱出用の魔導ポッドが備えられていたはず!』


「バカなッ!! 国を……民を……アナタ達臣下を見捨てろと言うのですか!?」


 これは戦争じゃない。

 正義という憎しみが、悪と言う憎しみが生み出した怨恨に満ちた殺戮。


 全てを捨てて自分だけが逃げるなどということは出来ない。

 

『しかし王女様! これより他に手はありませんッ! ……各国の受け入れ要請も未だに……』


「私に考えがあります。……まだ魔石の予備はかなりの数でありましたね?」


『え? ……ハッ、まだ残っております。しかしそれをどうするので?』





「それを各国の王に配布してください。――――私が直接話をつけますッ!」



 

 大至急それは行われた。

 魔術師達の使い魔達の動きは速く、瞬く間に各国の王達の元へと届けられる。


 だがその大半が受け取りを拒否する。


 関わりたくないという思いと巨怪グリフォの存在、そして勇者死亡の報が更に国々を消極的にさせた。



『……発射まであと1時間10分』


 無機質な声が空間内に響く中、嫌な汗を体中から吹き出しながらティヨルは受け取ってくれた王達に対し懸命に説得を続けていた。


 しかし、大抵の王達はティヨルの説得を最終的に拒み一方的に切った。


 それでもとティヨルは諦めず魔石越しに受け入れ要請を残りの国々にひとつずつ説得を試みる。


 いつの間にか大粒の涙が滝のように流れ出ていた。

 それを拭うこともせず、懸命に語り掛ける。


 そして、最後の一国となった。

 かの国は以前より戦にて覇を競い合ってきた強国。


 国王は苛烈にして勇猛果敢な益荒男。

 正直話が通じるかわからないが……。


『貴様がティヨル王女であるか。亡き国王に代わって駆けずり回っておるそうではないか』


 魔石越しに豪快に笑い飛ばす王。


 声だけでも圧倒されそうになったが、ティヨルは気をしっかりと持って要件を告げる。


「国王陛下、もう御存じの通り我がグルイナード王国はあと1時間もすれば滅ぶこととなります」


『そうなるな』


「単刀直入に申し上げます。……我が国の民達の受け入れ要請の受諾を願いたい。……彼等は私達王族が築き上げた血塗られた歴史とイデオロギーに巻き込まれただけの存在です。彼等の願いは常にひとつ……"今を平和に暮らしたい"……それだけなのに」


 朝起きて父母と共に食事をし、夜になればまた変わらぬ日常を夢見て眠る。


 当たり前のような安心と平和の中で生きていたい。


 誰もが願うそれは、今や神罰兵器の名の下に破壊されようとしている。

 なんとしても食い止めたい、だがもう間に合わない。



『それで我が国に転移魔術で国民全員を?』


「そうです。無理な注文であるということは十分承知しています。ですが……王族として民を守るのは当然の役目。例え他者にどのように映ろうとも、私は常に最善を尽くしたい。……もうこの方法しか残っておりません。御願いいたします、戦にて覇を競い合う仲であった陛下に対しこのような要請はちゃんちゃらおかしいとは思いますが……どうかッ!」


 覇王たる彼にはティヨル王女の献身的なそれの理由がわからなかった。


 他者に誠実であるのと自分に誠実であるのとは天と地の差がある。

 彼女の歩んでいる道は前者、――――殉教の道だ。


 彼女は王ではない、まだ歳若い王女だ。

 王女であるのならさっさと国外へ逃亡すればいいものを、なぜ?


「……この国には数知れぬ血が流れています。きっと私も知らぬ黒く悍ましい歴史も隠れているでしょう。そして……民達の平和もその上に築かれた産物でしかないのかもしれません。……ですが」


『……ん、なんだ?』


「それでも……それでも私はこのグルイナード王国が好きなのです。この国に住まう人々が、この国にある文化が、……愛おしくて堪らない」


 ティヨルの中の緊張が臨界点を越えた。

 涙声になり身体が震える。


 そこには軍服をまとった王女ではなく、ただ純粋に国と民を愛した生娘の姿があった。


「過去の怨恨とはいえ……私の愛する国が、塵と消えるのは耐えられない。ましてや日々を明るく生きていたいだけの人々を……死なせたくないッ!!」


『……それを受諾したとして、貴様はどうする?』


「私は……最期まで務めを全うします。最期の、最期まで……」


 それは無上の愛。

 国と民へ捧げる少女の想い。


 国王はティヨルの話に耳を傾けながら黙考する。

 そしてついに運命の決断を下した。


「皆の者! これより我等はグルイナード王国の民草の受け入れ要請を受諾するッ!! 魔術師達を集めよッ!」


 この言葉を魔石越しに聞いたティヨルの表情が明るくなると同時に困惑を隠せなかった。

 

『意外か? 我等が要請を受諾するのが』


「あ、はい……その、長らく敵対関係におりましたので」


 かの国を最後に回したのはティヨルにとって一番の難敵だったからだ。

 あれほど熾烈に戦い合った国が、こちらが滅ぶとわかって変に手を出すはずがない、と。


『勘違いをしてもらっては困る。確かに我等と貴様の国は戦にて雌雄を決する間柄だが……民草の死に数で雌雄を決しておるわけではない。快く受け入れよう』


「あ、ありがたき幸せにございます……ッ!」


『それに、貴様の意見を聞いたのもある。貴様の心が我等を動かしたのだ。……愛国の王女よ、今から我が国の魔術師長にこの魔石を渡す。貴様が指示を出すがよい』


 こうして舞台は整った。 

 互いに連絡を取り合いつつ、セバスにも詳しい支持を出していく。


 互いの魔術師達が力を合わせ、効率的な転移魔術を行使していった。

 大人数に対し行使可能な術式にて万を超える国民達を次々とかの国へと転移していく。



 作戦開始からおよそ1時間。


 それでも不可能だろうと思っていたグルイナード王国民全員の避難が完了した。


 理由としてかの国が動いたことで他の国も動いたからだ。


 最初は断っていた国々も含めて総勢30ヶ国以上が受け入れ要請を受諾した。





『発射まであと12分』


 アナウンスと警告音が響く中、ティヨルはひとり神罰兵器の魔導装置と戦っていた。


 だが止める方法は見つからない。


 ティヨルの気持ちは凄く穏やかだった。

 もうなにも心配することはない。


 臣下達も同じように避難した。

 この国にはもう自分ひとりしかいない。


 ……はずだった。



「王女様」


「え、……セバス?」


 ティヨルが振り返るとそこにはずっとそばにいてくれた老執事の姿が。


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