決戦のとき
右の通路。
ティヨルは一旦立ち止まって、魔石で左側の通路を進んだメンバーに通信を送っていた。
だが一向に応答する気配はなく、無音の状態が続く。
「10分置きに連絡とのはず……なにかあったのでしょうか」
胸騒ぎが止まらない。
もしもなんらかの攻撃にあっていたらと。
「仕方ありません、このまま進みましょう」
兵士に声を掛け再度奥へ進もうとしたとき魔石に確かな反応が。
「あっ! こちらティヨルです。聞こえますか? ……どうしました、応答を!」
必死に叫ぶも繋がったままなんの応答もない。
不思議に感じたティヨルは魔石の反応を見る。
驚くことにそれは今ティヨル達がいる所からかなり近い場所だった。
「お、王女様……向こうでなにか音が……」
兵士のひとりが指を差す方向を見ると、遠くに小さく光るなにかがあった。
ティヨル達は慎重に進みながら近くまできてそれを光にて照らす。
「こ、これは……ッ!!」
「な、なんて酷いことを……ッ!!」
「う、うぷッ!」
その凄惨な光景と人肉の臭いに思わず脳みそがショートしイカレそうになった。
こんなことが現実として起きていいはずなどない。
人の頭が3つ。
それぞれが別々の苦痛の表情を浮かべ、彫像の頭部分のように地面に鎮座して並べられていた。
高温の熱で急速に炙られたことによって炭化した頭2つの間に入るように、まだ新鮮な状態での頭がある。
その口の中に無理矢理あの魔石が詰め込まれていた。
目玉は両方とも抉り取られ、流血が涙となって生者に自らの苦しみを訴えている。
――――私のせいだ。
ティヨルの心に自責の念が生まれる。
あのとき全員で行動するようにすればこんなことにはならなかった。
呼吸が乱れ足が震える。
いっそこのまま逃げ出してしまいたい。
だが、あと一歩の所でティヨルは踏みとどまる。
ここで諦めてはならないと。
「ここで立ち止まってはいけない。……彼等の死を、無駄にしてはいけないッ!!」
勇気を以て恐怖と絶望を振り払う。
自責の念に負けてはいけない。
「私はこのまま進みます。彼等の死は全て私の責任です。だからこそ退くわけにはいかない。……アナタ方は好きになさい。この先更に危険な罠が待ち受けているでしょう。咎めはしません」
「王女様……。いえ、我々も行きます!」
「そうです。我々の命は常に王国と共にあります! 任務を途中で投げ出すようなことは絶対にいたしません!」
兵士達は再び勇気を取り戻した。
王女ひとりに全てを背負わせるわけにはいかないと言わんばかりに、彼等の瞳に戦士の炎が宿る。
「よし、では行きましょう!」
再度決意を固め奥へと走り抜く3人。
だが、これは彼女等にとっての序章に過ぎなかった。
巨大な広間、最上階へと繋がる道。
「もうすぐで最上階ですッ!!」
「このまま一気に進みます!」
あと少しで神罰兵器のある最上階へと辿り着く。
希望が見えてきた。
だが――――。
「これは……歌?」
「なんだ、一体どこから?」
この薄暗闇と緊迫した状況には全く合わないであろう陽気なメロディ。
聞いたこともないような歌詞と言葉に困惑しつつ周囲に注意を払う。
「王女様! あれをッ!!」
兵士が指を差すと、階段の方に人影が見える。
爛々と目を光らせこちらを睨みながら陽気に歌を歌っていた。
「……アルマンドッ!」
ティヨルの声と共に全員がボウガンを彼女に向ける。
光に照らされアルマンドの姿が露わになった。
ユラユラと踊るように階段を降りながら邪悪な笑みを浮かべている。
血で描いた道化師の化粧がなんとも不気味さを演出していた。
「ようティヨル。……キャンディ食べるか? 美味いぞ~」
そう言って投げ渡してきたのは赤い包みと青い包みに入った"目玉"だった。
目玉を抉り取られた兵士のものだ。
「ひっ!」
ティヨルは思わず飛びのく。
道化のように振る舞う彼女はまるで別人のようだった。
人間の皮を被っただけの別のなにか。
「貴様動くなッ!」
「あの3人の仇ッ!」
しかしケラケラと嘲笑いながらこちらに近づいてくる。
それに逆上した兵士達が思わず引き金を引いてしまった。
「あっ!!」
ふたつの弾丸がアルマンドに直撃し、貫通した後彼女は後ろへ仰け反るように吹っ飛ぶ。
「や……やったか!?」
兵士のひとりが興奮のあまり仰向けに倒れるアルマンドに近づいていく。
ティヨルは突然あっけなく終わったこの状況が上手く呑み込めないでいた。
「へへへ、大丈夫です王女様! この女死にましたよ!」
確認をとった兵士が王女の方を振り向いた。
――――そのとき。
大きな炸裂音が響くと同時にアルマンドの近くにいた兵士の胸に風穴があいた。
突然の凄惨な光景にティヨルは瞳孔を極限まで収縮させる。
「いっで~、アハハ……アハハハハハハ……ッ! やっぱドンパチは楽しいなぁオイ」
アルマンドがゆっくりと立ち上がった。
その手には魔導ボウガンが握られている。
「そ、それは……ッ!」
「あぁ、左側の通路の奴等が持ってたボウガンだ。……良く出来てんなぁ。いや、この時代でこれだけの出来なんてなぁ大したもんだ」
再び口が裂けているかのような笑みを浮かべる。
兵士がティヨルを守るように前に出てボウガンを構えた。
「……オーケー。ガンマン同士の早撃ちと洒落込もうか」
ふざけた態度を崩さないアルマンド。
兵士はその瞳に心を大きく乱される。
その結果、ティヨルが止める間もなく兵士は頭蓋を撃ち抜かれた。
あまりにもあっけなく、そして迅速に死んでいった2人。
「HA-HAHAHAHAHAHAHAHA!!」
腹を抱えて大笑いするアルマンド。
それと向かい合うように憤怒で表情を歪めるティヨル。
「ふたりっきりだなぁティヨル。ママは嬉しいぞ?」
「アナタが母を語らないで。……もうアナタは許しません」
「オイオイそんな顔するなよ。パパが悲しんじゃうぞ」
「……お父様はどこ?」
「今朝アンタと出会うより前に逝っちまった」
驚愕の真実に息を詰まらせた。
それではあのときいたのは……。
「あのスケベオヤジの心臓を媒体に本人そのものになりきれる術をティアマットにかけた。その後はもうわかるな?」
「そんな……。酷い……ッ!」
「ヤバいオレちゃんその顔大好き最高にセクシーだ」
性倒錯者め。
兎も角この先に行かなければならない。
早くしないと神罰兵器が完全に発動してしまう。
「偽装神格付与による偽装登録。神々の権能網に侵入しちょいと改悪してやった。今あの神罰兵器の所有権と発動権を持っているのはティアマットだ。邪魔は入らない、神如きにオレの邪魔は出来ない」
「この……外道ッ!!」
「いいねぇ、最終ラウンドだ!」




