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最悪の事態へ!

 城の裏にある巨大な塔。


 5人の兵に魔導ボウガンを持たせ引き連れたティヨルは、塔の前で凄惨な光景を目の当たりにする。



 ――――Fuck off(失せろ)!!


 壁に血で描かれた大きな文字。

 その下にはこの塔に向かったはずの騎士が首無し死体で転がっていた。


「なんて……酷いことを……ッ!」


 ティヨルの顔が悲痛に歪む。

 むせ返る程の死肉の酷い臭いと飛び回る蠅共に胸を悪くした。


「……セバス、聞こえますか? たった今塔に付きました」


 魔石を取り出しセバスに連絡する。

 目の前の惨状に目眩がしそうなのを我慢し具に伝えた。


『なんと……ッ! どうやら敵も本腰のようです。くれぐれも御無理をなさらぬよう』


「そうしたいのは山々ですが……タダではすまなさそうです。一旦通信を切ります、またなにかあれば連絡しますので」


『かしこまりました。お気をつけて』


 通信を切りふと塔を見上げる。


 塔に邪悪な気配が立ち込めている。

 南西部でグリフォと出会ったときとはまた違う感覚だ。


 別のベクトルでの怪物がこの塔の中にいる。

 そして父である国王も……。


「最早一刻の猶予もありません。魔術師アルマンドにより国王陛下が塔内部に囚われています。我々の任務は国王陛下救出と神罰兵器起動の阻止、並びにアルマンドと女神ティアマットの捕縛若しくは誅殺となります!」


 感情を圧し殺したティヨルの声に兵達は身を引き締め、支給された魔導ボウガンを握りしめる。


「塔内部は複雑に入り組んでおります。見取り図は確認しましたね? ――――では行きましょう。これより、"魔女狩り(ウィッチキラー)作戦"を開始します!!」


 ティヨルの掛け声のもと、兵達と共に塔内部に速やかに入り込む。


 塔内部は薄暗く明かりは外からの光だけだ。


 棺桶の中のように古臭くもヒンヤリとした空気が包み込み、静かな時間の流れを刻んでいる。


 各々ボウガンに取り付けられている魔石に光を灯した。

 扇状に光が広がり前方を照らす。


 (この中にアルマンドとティアマット、そして父上が……。どうか御無事で!)


 ティヨルは父の無事を祈りつつ慎重に進んでいった。 

 アルマンド達が目指すは最上階。


 神罰兵器の装置がある場所だ。

 しかしあれから大分時間が経っている。

 

 もうかなり上まで登られたかもしれない。


「少しペースを上げます。……途中、罠があるかもしれないので油断はせぬよう!」


「ハッ!」


 彼女等の足取りは速く、徐々に階層を踏破していく。

 いいペースではあるのだが逆に不気味だ。


 塔の中腹部まで辿り着いたが、ここまでなんの妨害もない。

 ただ薄暗闇が6人を冷ややかに包み込むだけなのだから。


「道が2つに分かれてる……。見取り図には記されていない道、かしら……」


 広間の先にあった不可解なもの。

 どちらかがダミーという可能性もなくはない。


「罠かどうかはわかりませんが……ここは二手に分かれましょう」


「でしたら我々3人は左の道を」


「そうですね。……予備の魔石をアナタに渡します。10分置きに連絡を取り合いましょう。異常がなければ異常無しで構いません。ですが道中なにかあれば直ぐに連絡を」


「ハッ! ……よし、俺に続け!」


 ベテランの兵士が2人を引き連れ左へと進んだ。

 警戒強く光で前方を照らしながら彼等は闇の中へと消えていく。


 ティヨル達も足を進めようとした直後、魔石に反応が見られた。


 セバスからの通信だ。


「セバス、私です。どうかしましたか?」


『王女様! 緊急事態です! やはり奴等が一歩上手であったようです』


 セバスの慌てた声に胸のざわつきを抑えられない。

 だが王女としてそれをグッと堪えながらセバスに落ち着くよう促した。


「セバス、落ち着いて話して下さい。なにがあったのかわかるように!」


『ハッ、申し訳ありません。……起動、致しました』


「え? ……き、起動、とは?」


 ティヨルの心が心臓の鼓動と共に激しく揺れ動いた。

 頭をよぎったのは想定していた最悪の事態。


『塔のてっぺんから膨大なエネルギーが天空に昇っているのが目視出来ました。そして空には巨大な魔法陣らしき紋様……恐らく、狙いは……ッ!!』


 遅かった!

 奴等はこの城を中心に王国を消し炭に変えるつもりだ!


「急がないと……ッ! 彼女等は撃つ気だ!」


『王女様、神罰兵器は起動したばかりです。恐らく本格的な発動にはまだ時間が掛かる可能性があります。……その前にッ!』


「わかっています、私が必ず止めます! セバス、アナタは国民の避難を!」


『ですが王女様。これだけの規模ともなれば数万にのぼる国民全員の避難は不可能です! 周辺諸国も我々のことに関しては消極的な意見ばかりです。とても受け入れ要請を受諾してくれるとは……』


「それでもやるのです!! ……もしものことがあってからでは遅い……だからせめて民達だけでも!」


 それはティヨルの深い願いだった。

 自分は最期まで任務を全うする。


 愛する国や民を失うなど以ての外だ。


『……かしこまりました。尽力致します!! 王女様、御武運をッ!』


「アナタも……セバス!」


 互いに通信を切り、人生最大の任務に取り掛かる。

 報復と言う名の怪物から国や民を守る為に。


「……これより右の通路に突入します。こちらがダミーであったり、罠が多数仕掛けられている可能性は大いにありますが、決して取り乱すことなきよう。いいですね!?」


「ハッ!」


 兵2人が敬礼する。

 彼等の瞳にもまた、国の守り手たる覚悟の火が宿っていた。


「出撃!」


 ティヨル達は塔の最上階へと再度進撃する。

 恐怖を圧し殺し、前へ前へと進んでいった。











「レクレス軍とグリフォがぶつかったか……。んじゃ、オレも遊ぼうじゃあないか。この報復と慟哭を司る魔女アルマンドがたっぷりと可愛がってやる……ッ!」


 

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