恐るべき復讐計画
時間は遡り……。
レクレスが軍を率いて出陣したその1時間あたり。
城の中は騒然としていた。
国王が消えたのだ。
消えたのならまだしも、次々と妙な場所から目撃証言が上がる。
宝物庫に魔術師達の工房、更には厨房。
様々な場所からの目撃証言に情報網は混乱。
しかもどの証言にも必ずアルマンドの姿があった。
(あの女狐……!)
ティヨルは錯綜する情報を統制していき、各所に残った人員を向かわせた。
ティヨルはアルマンドが幻術かなにかでこちらを惑わそうとしていることに薄々勘付いていた。
だが、彼女の行動の意図がわからない。
国王を巻き込んでなにをしているのか。
「王女様、今度は城下町にある池の畔に国王陛下の御姿ありとの情報が!」
「あれ? さっきは城門と聞いてましたのに……。どんどん離れてる?」
目撃証言は城を中心に距離を離していっている。
これに違和感を覚えたティヨルはしばらく考え込んだ。
幻術を使ってまで国王を巻き込んでこちらを惑わせたい意味とは?
傍にいたセバスは心配そうにティヨルを見守っていた。
事態の混乱が増す中、彼女にかかる重圧は計り知れないものだろう。
「……セバス」
「はい王女様」
「神罰兵器がある例の場所の調査はどうなっているかわかりますか?」
「え? ……あぁ、国王陛下が確か腕利きの騎士を何人か出動させたとのことですが……今の所なんの報告も上がってはおりません。……しかし、なぜ急に?」
セバスが聞く前にティヨルは最新式のボウガンをいつでも撃てるよう準備し始める。
火薬を利用した更に強力な代物だ。
「セバス、留守を任せます。いつでも通信出来るよう魔石は持っておいてください」
「な! まさか御一人で乗り込まれるおつもりで? なにゆえそのような……!」
「アルマンドは父上を利用し神罰兵器を動かそうとしているのかも。……彼女はスパイよ」
「スパイ? まさか……確かに怪しい御仁ではありますが……確証が得られません」
確かに証拠はない。
だがティヨルはこれまでの出来事を振り返ってみた。
「今考えれば偶然にもほどがある。グリフォ・ドゴールで慌てふためいてる中、第二の復讐者ですって? それも神罰兵器起動手前の時期に。そして今大方の戦力はグリフォの方へ行っています。……これが絶好のチャンスでなくてなんです?」
「た、確かに……」
「それだけじゃありません。私が南西部へ赴いたとき、なぜグリフォはあそこに戻ってきたのです? あれほど圧倒的に破壊した場所にわざわざ戻ってくる理由は? ……あるはずがない。最初から私と兵達を殺すつもりで来たのです。……自分の正体に勘付いた存在を消す為に」
「つまり……そういった情報をリークしていた者がいたと?」
そういうことだ。
なによりティアマットがこの2人と出会ったときの会話の中にあった。
『報復はもうじき終わる……誰も止められないわ。アナタ、報告でちょくちょく聞いてたけど結構頭良いんですって? でも無駄よ。この国も民も、歴史も全ては無に還るわ』
つまりティアマットは初対面ではあったが情報としてティヨルのことを知っていたことになる。
そんな情報を伝えるなど、ずっと外にいたグリフォ・ドゴールには無理だ。
なにより、2人の言動や性格からしてここまで連携して計画を練るなんていうのは無理だろうと考える。
この2人には協力者がいる……。
その可能性が最も高い人物。
今この騒ぎの中心人物と言っても過言ではない存在。
流星の如く現れた謎の魔術師。
「――――アルマンド。彼女は初めからグリフォとティアマットと繋がっていた。全ては奴の計画通りに動かされていたのです私達は……ッ!」
「ま、まさか……! であるのなら御一人で行くのは余計危険です!」
「わかりました、では今城に残っている兵の中でボウガンの扱いに長けた者を5人ほど集めてください。魔導ボウガンを持たせ出動します」
「ハッ! かしこまりました!」
こうしてティヨルは5人の兵を引き連れ、例の場所へと向かう。
そこは城の裏にある巨大な塔。
神罰兵器が眠る神聖なる場所。
(アルマンド! ティアマット! アナタ達の思い通りにはさせない!!)
例え僅かでも可能性があるのなら決して諦めない。
なんとしても神罰兵器起動を食い止めなければならないのだ。
ティアマットの復讐とティヨルの思いが今ぶつかる。
「さぁて、そんな簡単に上手くいくかな? ……最後の勝負だ。最高のパーティーにしよう!」




