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凱旋は続くよどこまで……も?

「女神ティアマット……まだ僕に逆らう神がいたんだ」


「……というよりも、この国自体に憎しみを抱いているようでしたが。彼女はかの巨怪グリフォ・ドゴールと縁を結んでいることは確実です」


「その蛮族共の女神がこの国に? ……バカな」


 レクレスは報告を聞くも、特に興味なさげだった。

 国の一大事であるにも関わらず、呑気なのかどうなのか。


「確かに我が国はかの部族達を殺してきた。だがそれは王国の繁栄にとって当然の行いであった。なにより、彼奴等は教養の無い汚らわしい蛮族。それを誅すは我等が正当なる神の意志である!」


「父上、その主張のすれ違いこそが報復の火種を生んだのです。今や王国は滅亡の危機に瀕しているといっても過言では……」


「僕が来たんだ。滅亡なんてありえないよ。しかし、そうか……グリフォがねぇ。ま、別にいいや。殺せば皆一緒だ。それよりもさ、ティアマットって女神様、どうだった?」


「どうだった、とは?」


「綺麗だった? 身体はどんな感じ? 興味があってね」


 元々女癖が悪いことは知っていたが、よもや復讐者の女神おんなにまで手を出す気か。

 婚約者と半強制的に決められたとはいえ、ティヨルは彼のこういう部分を嫌っていた。


 そして元仲間であるグリフォに対してなんの感情も持たないその態度。

 ティヨルは彼が違う意味での化け物にさえ感じた。

 

 冷徹、冷酷、暴君さながらの容赦の無さ。

 彼に惚れる女性は多いと聞くが、彼のどこに惹かれたのか未だティヨルにはわからない。


「……すみません、実体はよく見えませんでした。実際に会われた方が早いかと」


「あっそ残念。……王様、至急兵の準備をお願いします。なるべく多い方がいい」


「うむ、そうですな。貴殿がおれば心強い。……ただ、武器や鎧の装備の準備もあるので出陣は明日となりますが」

  

「ありがとうございます、必ず倒してみせますよ」


 夜明けと共にレクレスは兵を引き連れ巨怪へと攻め征くこととなった。

 だがティヨルは迷う、レクレスは確かに人智を超えた力を持つ勇者。


 グリフォ・ドゴールもまた同じ存在。

 彼の破壊力は最早地上の全戦力を用いても敵う相手ではないだろう。


 そして女神ティアマット。

 2つの復讐がこのグルイナード王国を特異点とするように複雑に絡み合っており、王国やそれに携わる者全てを異様な空気で包み込んでいた。


 

 勇者レクレスがこうしてやって来たからといって、こんなにもあっさりとした解決方法でいいのだろうか。


 いくら考えてもティヨルにはその答えを見出すことは出来なかった。

 通常であればレクレスが悪なる者を倒してそれで終わる。


 例え幾重にも絡み合った思惑が彼を雁字搦めにしようとも彼は全てを断ち切って見せる。

 それだけのカリスマ性とパワーを持った存在だ。



 ()()()()()()()()()()()


(胸騒ぎがする……なにか重要なことを見落としているような)


 


 その後流れるようにレクレスの提案が可決されていく。

 グリフォ・ドゴール討伐はレクレスの指揮のもと行われることになった。


 勿論アルマンドが発明したあの疑似聖剣とやらも使用される。

 そしてティヨル達はというと女神ティアマットの捜索に乗り出すこととなった。


 ジュウジロ作戦は、後は最後の条件である『国王直々の神罰命令』のみとなっている。

 なにかあっても即座に対応出来るよう全てが整っていた。


 捜索は夜通し行われることとなり、ティヨルも参加しようとした。

 だがそれをレクレスは止める。


「ティヨル。君がそんなことする必要はないよ」


「ですが女神の方も捨て置けません。なにより不安です。今回の件、なにやら只事ではないような気がして」


 謁見の間での会議が終わり、セバスと共に巨怪対策本部へと戻ろうとする最中、レクレスはずっと彼女の後ろを歩きながら話しかけてくる。

 なぜ着いてくるのかわからず、その行動に恐怖を覚え始めた。


 さっきから手を繋ごうとしてきたり、肩を寄せようとしてきたりとスキンシップが激しくなってくる。


「あ、あの……レクレス様、今は国の大事となっています。どうか御自重を」


「つれないこと言わないでよ。僕達はお互い想い人じゃないか。……ねぇティヨル僕はね? ()()()()()()()()()()()()()()()


 そう言ってレクレスは心配そうにしているセバスを余所にティヨルの髪を触りだす。

 その所作に、その言葉のイントネーションに思わず鳥肌が立った。


 これがこの男の本性かと。

 

 ティヨル自身その美しさは勿論身体つきもまた良い。

 レクレスからみても彼女は自分の女に相応しいと考えるほどにだ。


「い、いやっ!」


 思わず飛びのいて距離を置いた。

 レクレスは一瞬ムッとした表情になるが、怒りを隠すようにすぐに微笑んだ。


「……またねティヨル。帰ってきたら、たっぷりと可愛がってあげるから」


 彼が去っていってもティヨルの呼吸と心拍は乱れて落ち着かない。

 内面的に言えばグリフォ以上の化け物だ。


「お、王女様、大丈夫でございますか!?」


「え、えぇ、大丈夫。心配しないで」


 務めて笑顔でいるようにするティヨルだが、あの気持ち悪さがどうにも拭えない。

 今日はとりあえず休むこととした。


 捜索に関しては明日から自分も参加する。

 女神ティアマットの行方が気になった。


「お休みになられるのですね。でしたら薬の準備を……」


「そうね……。いや、待ってッ!」


 突然セバスの言葉を遮る。

 ティヨルの脳裏に浮かんだある提案。


「セバス……睡眠導入剤のみ私に下さい。あの薬は要りません」


「え、それはなぜ……?」


「わかるかもしれない……今互いの緊張が高まっているときなら」


 そう、彼女は薬を飲まなければ悪夢を見る。

 他者の思念の強さが夢として顕現するのだ。


 もしかしたら女神のことやグリフォのことでなにかまたわかるかもしれない。


「なるほど……ですが、危険ですぞ?」


「わかっています。ですが……それ以上に嫌な予感がするのです。ですので知り得る情報は知っておきたい。それは私の使命でもあります」


「かしこまりました。ではそのように手配いたします」



 今夜、王女は再度夢を見る。


 地獄に彩られた夢を。


 立ち向かわねばならない、この現実に。

 


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