炸裂! 超振動破壊粒子砲
エルフの魔力を宿した矢が放たれる。
空中で分身するかのように増え、無数の矢となって巨怪に降り注ぐ。
側近の魔術攻撃。
炎を使用した光線じみた攻撃がエルフの次に放たれた。
唸りを上げて巨怪に直撃するも、身体を滑らかに伝って別方向へと受け流されていく。
巨怪はなにごともないかのように直立していた。
彼女等の攻撃は並ではない。
それこそ人間の軍と戦っても余裕で勝てるくらいだ。
だが、意にもかえしていないその様子を見て流石の魔王も攻撃態勢を取る。
「荷電粒子砲……という奴じゃ!!」
宙に浮く雷を帯びた無数の魔法陣。
狙いは全て巨怪に向けられている。
(ほう、凄まじい魔力量だな。……よし、ちょっとした手品をしてやる)
巨怪はまず触手から電流を流させいつものように電磁波による結界を張る。
しかし、今回は自分から半径3m程の範囲。
これには魔王も違和感を感じる。
避けるそぶりもなく、ただ電磁結界を張ってこちらを見ているだけなど。
(なにかある……だが、我はレクレス殿の妻として……この城を残し、ゆくゆくは子を成し、レクレス殿の創る平和な世に奉仕せねばならぬッ! 巨怪よ、貴様になにがあったかわ知らぬが……ここで死ねッ!)
魔法陣にてチャージした荷電粒子砲の一斉掃射。
宙を駆ける無数の流星群となって一瞬の内に電磁結界に直撃した。
だが次の瞬間、王の間は城と共に大きく崩壊した。
荷電粒子砲が電磁波による結界に当たった瞬間に反射したかの如く方向を変えたのだ。
一発一発の威力は凄まじく、城はおろか遠くの山々にまでその被害が及んだ。
強烈な爆発に巻き込まれ4人はバラバラに吹き飛ばされる。
彼女等の受けたダメージが想像を超えるほどに尋常ではなかったのは言うまでもない。
あの至近距離から魔術による荷電粒子砲を弾き返されたのだ。
当然こちら側にもその猛威が振るわれた。
「あが……が……」
「ま、魔王、様」
倒れ伏す魔王に側近が這うようにして近づく。
だが両足があの凄まじい威力により吹っ飛んで消失していた。
女騎士は胸から下を跳ね返った荷電粒子砲で粉々にされており絶命。
エルフは無事だったが死んだ女騎士の姿を見て完全に戦意を消失していた。
『悪いな……テネシティやドローススとは別のベクトルでテメェ等にイラついてんだ。特に魔王……死んでもらうぞ、この国ごとな』
「ま、待て……ッ! なぜじゃ……? なぜそんなにもレクレス殿を……我等を憎むか巨怪よ! 我等はただレクレス殿と平和に生きたいだけじゃ! もう魔物だの人間だので争わずともよい、なのになぜ!?」
必死になって弁明しようとする魔王に巨怪は心底呆れ果てた。
そも、魔王がいなければ魔王討伐の為にあんな地獄を味わうことはなかっただろう。
『憎しみだ……生まれて初めて俺は世界というものを憎んだ』
「……な、なに?」
巨怪がその想いを念話で吐露する。
人間らしい感情は最早見られず、深淵より響く悍ましい言葉を連ね始めた。
『奴と出会い……喪失と憎しみが、俺に語り掛けてきた。平和だの秩序だのは結局は他者を憎み排除することでしか創造出来ないのだと』
「違う……それは違うぞ。それは暴力による統制国家でのみ起こることだ。世界は違う……世界はレクレス殿の意志でひとつとなるのだ!」
巨怪の呪詛に思わず涙を流しながら反論する魔王。
だがその巨躯から放たれる憎悪は彼女等の意志を阻むかのように君臨した。
『レクレスの意志? 奴が裏表ない清廉潔白な存在とでも?』
「なにをいうか! レクレス殿は立派な御方じゃ! あの御方こそこの世の調停者にして裁定者。冷酷な判断を下すときはあろうがそれは世界を思ってのこと! あの御方こそ世界の王に相応しい!」
あの悍ましい男の意志そのものが世界と同一化する。
それは奴を全なる神と認める行為だ。
それに関してなんの疑念も抱かない。
これこそが世の真理と言わんばかりに。
――――嗚呼、嘔気ッ!
だがそれでいい!!
もうどうあがこうと世界はレクレスの全てを許している。
侵略も凌辱も全てが神聖なる行為に他ならない、と。
巨怪グリフォ・ドゴールは果てしない孤独をその身に感じた。
同時に胸の内に芽生えるは復讐者として破壊者としての大火。
そうだ、自分はもう悪なのだ。
悪は憎まれる、こちらの憎しみなど関係なしに。
レクレスを真理とするがいい。
レクレスを正義とするがいい。
レクレスを神と崇めるがいい。
レクレスを永遠に信じ続けるがいいッ!!
今更考えることなどない、イラつくことも。
自分から全てを奪ったレクレスを世界が善とし、復讐を誓う巨怪を悪とするのなら、その結果を受け入れよう。
これがこの世の不条理だ。
不条理には不条理を以て還そう。
『それが貴様等の正義であるのなら……俺は更なる悪でそれを破壊するッ!』
大口を開くと熱光線を吐こうと力を溜める。
だがそれは今までのより遥かに逸したものだ。
周りの空気、否、光さえも捻じ曲げるほどに強い重力場がエネルギー集束点である口腔内に生まれる。
魔王も側近もエルフもその圧力に耐え切れず吸いこまれそうになった。
吸いこまれる手前で突如放たれたのはただの熱光線ではない。
異常な重力によって集められたエネルギーが勢いで超振動を起こすや巨大化した黒い破壊粒子砲となって、魔王達諸共影の国全てを消し去っていく。
それは隣国にまでおよび中には地図から消失した所もある。
被害は甚大で遠く離れたグルイナード王国もかなりの被害を受けた。
円を描くように且つ乱雑に顔を振り回し光線を手あたり次第辺りにぶつけていく。
星の形の一部が著しく変形するほどの威力はかつてない破壊を生んだ。
海も山も果ては空を超えた宇宙にすら『超振動破壊粒子砲』は影響を及ぼした。
星々を貫通させ、遥か別次元の宇宙空間にまでの到達に成功するほどにまで。
発射地点である"元"影の国では遥か遠方からでも目視できるほどのプラズマ現象が起きている。
赤黒い稲妻が天に迸り、大地は煮えたぎっていた。
その空間のみが死で覆われたかのように。
果てのない怒りのエネルギーを誰もが感じ取る。
畏怖または歓喜を以て。
「巨怪め……派手に暴れてるな。勇者である僕の邪魔ばっかりしやがって……ッ! 僕の理想が遠のくじゃないかクソッ!」
「王女様、あれを!」
「まさか……グリフォ・ドゴールッ! なんて恐ろしい……ッ」
「憎しみが奴の進化を加速させてるってのか!? 素晴らしい……今までにない最高のデータだッ! 短期間で成長する奴はゴマンと見てきたが……あれは完全に規格外だッ!」
「……綺麗。とっても綺麗な光線よグリフォ。アナタの憎しみに女神の加護を」
恐怖に包み込まれた世界は一気に破滅へと追いやられることとなった。
巨怪の放った超振動破壊粒子砲の威力に恐れをなした国々は、この世の終わりと言わんばかりに混迷へと陥る。
そしてグルイナード王国は決断を迫られることとなった。
あれほどの威力に対抗するには勇者か神罰兵器を使う他ない。
それも早急な判断が必要だ。
残された時間はあとわずか……。




