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魔女と報復の生贄

「とりあえず、……オレの工房へようこそ、グリフォ・ドゴール」


「な、なぜ、俺の名前を……?」


「不思議か? 魔女はなんでもお見通しだ。現在は勿論、遥か未来もな」


 ――――魔女。

 曰く、魔術師の中でも異端に異端を重ね上げ辿り着いた境地に立つ者の総称であると奴は説明した。


 そう言えば噂話で聞いたことがある。

 この世界のどこかには『魔女』と言われる存在がいると。


 恐ろしい力を秘めており、魔王以上の脅威になりかねないとか。

 勇者レクレスもいつか見つけて退治すると言っていた。

 

 これが本当なら、とんでもない話だ。

 目の前のこの女はレクレスに並ぶ、いやそれ以上の怪物ということになる。


 よく見ると、アルマンドの後ろにフードで全身を包んだ女性がいるのがわかった。

 彼女も魔女なのだろうか?

 だがこちらに哀愁漂う視線を送るだけで一言も喋らない。


「申し訳ない、彼女の紹介は本題に入ってからだ。これはアンタにとっての人生の転換期になりうる」


 アルマンドと名乗る魔女はこちらをからかうような態度を崩さず、近くにあった椅子に座り、台に寝かされているグリフォと目線を合わせる。


 人生の転換期と言われて思わず生唾を飲むが、放たれたのは最悪の一言だ。

 

「アンタをある発明の為の材料に使わせてもらう。わかりやすく言うと、生贄?」


「な、にぃ!?」


 驚愕の際の僅かな筋肉の動きが、身体に電流として響き痛んだ。

 ある程度の治癒は施されてはいるものの、動くにはやや不足している。


 なるほど、生贄がいつ死ぬかもわからない状態じゃあ確かに話にならない。

 その為の治癒措置か。


 しかし、こちらが無抵抗なのをいいことに生贄に選ぶとは……流石魔女だ、やり方があくどい。

 もっとも、魔女という存在に人としての配慮を求めるだけ無駄なのだろう。

 

 あのクソッタレ勇者の次はこのクソッタレ魔女か!

 しかも発明とやらの生贄ときた!

 なにが人生の転換期か!


 自分の運の無さと世の不条理を呪いつつ、勝手にしやがれと吐き捨てた。

 ヤケクソだ、未来も希望もありはしない。


「荒んでるなぁオイ。別に殺すって言ってんじゃねぇんだぞ? むしろ、アンタの報復の意志の手助けをしてやるってんだ」

 

「どういう……ことだ?」


「その為に、アンタは……()()()()()()()()


 アルマンドが指をパチンと鳴らすと、奥の方に明かりが灯る。

 八方からの白く眩い光が照らす中、巨大な肉塊のようなものが透明な筒状の物に入っていた。

 

 緑色の培養液で漂うソレは、爬虫類のような鱗に巨大な翼、尻尾らしき部位を持っていた。

 となるともう一方の長く伸びているのは首だろうか。


 だが、肝心の頭部はその首と繋がっていない。 


 腕や足も見受けられるが、どこもかしこも傷だらけで今の自分のように痛々しい。


 よく見れば、周りにもいくつもの小さな筒状の物があり同じく緑色の培養液の中に奇妙な生き物達が浮いている。

 いや、生き物と認識してよいのかすらわからない。


 森にいる虫のような、果ては海にいる甲殻類のような。

 見ているだけで脳みそをかき回されそうな気分になる。

 

 しかし、これはどういうことなのだろうか。


「アンタも名前くらいは聞いたことがあるだろう、――――ドラゴンだ。中でもコイツは"邪竜"というカテゴリーに存在する強力なパワーを持った存在。あぁ、安心しろ。液体の効果であれでもある程度生きてる」


「ドラゴン……ッ!? 嘘だろ……ッ!」


 グリフォは興奮にも似た感情を覚えた。

 小さい頃からその存在は物語の中でしか知らない。


 今このときになって出会えるとはまさに夢のようだ。

 もっとも、損壊の酷い状態であるのと、今のこの状況のせいで素直には喜べないが。


「このドラゴンは彼女からの提供品だ。彼女は《ティアマット》と呼ぶ。とある部族達の間では"やんごとなき御方"だった。感謝しろよ?」


「そ、そんな凄い人なのか。ど……どうも」


 ティアマットはグリフォのぎこちない一礼を受け取ると、そのまま踵を返して去っていってしまう。

 終始無言でクールな雰囲気を漂わせ、そしてどこか神々しい。


 ローブをまとっていてもわかるほどに、そのオーラが滲み出ていた。


「一体、彼女は……?」


「今は知らなくていい。だがアンタと同様、彼女は彼女で憎しみを背負い"報復"を誓ってるのさ。……さて、ここまで知っちまったからにゃあもうアンタはもう後戻り出来ないぜ? いいかい?」


「フン、どうせ拒否権なんぞないのだろうが。……説明を」


「OK。双方の持つ知能や骨格、果ては遺伝子に至るまで。人間の特性とドラゴンの特性を絶妙なバランスで融合させつつ、他の生命体の特性を混ぜ合わせる。融合して出来上がった生命体ハイブリットが……新しいアンタになるってワケよ」


 ドラゴンと人間、そして未知なる生命体共の因子を組み合わせた新しい生命体。

 それもただの融合ではない。


 その根本にある自分とドラゴンが持つ互いの"憎しみ"の感情。

 これがミソになる。



 となると、このドラゴンも憎しみの中で……。


「一番の注目は出来上がったときの"知能"だな。融合ということは、ドラゴンの脳と人間の脳も組み合わさるということ。当然、人間のときと比べれば思考回路に大きな齟齬が生まれる可能性もあるだろう。他の生命体共の因子でどこまで補完出来るかだが……」


「オイオイ……俺のままの人格じゃないのか? 報復を忘れてただ暴れ回る生き物なんざ嫌だぞ!」


「あくまで可能性の話だ。そういう負荷への考慮として他の生命体の持つ特性での補完対策だ。だがアンタが今持ってる人格や思考の著しい変化は覚悟しておいた方がいい。なにしろ邪竜と融合するんだ。最初は暴走するかもしれん」


 少なくとも人間だったときの良心や理性といった類に、いくつかの欠損が見られるだろうということだ。


 いいだろう……上等だ。

 覚悟を決める。


 アルマンドは、台に乗っけたままグリフォをあの筒状の所まで連れていく。

 不気味にそびえるあの筒状の物に、ドラゴンの死体モドキが培養液の中に浮いているのだ。


 未知の体験過ぎて、吐き気を催しそうだった。


 だが、ここで誓う。

 自分は生まれ変わるのだ。

 思い知らせてやる……この憎しみを、悲しみを!

 


「さて、もう1度眠ってもらうぞ?」


「え?」


 突如、アルマンドはグリフォの鼻に布を押し当てた。

 不思議な香りがすると同時に、強い眠気が襲い、再度意識が遠のいていく。


 一瞬抱いた困惑は消え、またあの暗闇の中へと落ちていった。


「実に検証のし甲斐がある……きっとこれまで以上の出来になるぞぉ……ッ」


 報復と慟哭を司る魔女アルマンドの新たな発明。

 ここに出来上がる新たな生命体が、報復によって世界に激震をもたらすのだ。

   

 



「期待通りに動いてくれよお二人さん。オレもきっちり働かせてもらうからよぉ」

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