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振り回される世界、グリフォの再臨

 あの会議、あの夜より2週間たったある日。


 巨怪が現れずひとときの長閑な時間を味わった。

 その間も会議は行われており、2つの案が可決されることとなる。


 ひとつは勇者レクレスに討伐してもらうこと。

 やはり奴の力に対抗するには彼の力を借りる他ない。


 もうひとつはアルマンドが言ったあの件。

 "神罰兵器"の使用である。


 後者は使用条件のクリア並びに王の許可がなくば発動は出来ない。

 これはあくまでも最終手段となる。


(神罰兵器がどれほどの威力かはわかりませんが、使用する場合の民達の避難場所を模索しなくては……。隣国への避難要請も視野にいれて……えぇっと)


 グルイナード王国の射撃訓練所で、ティヨルは弓ではなくボウガンを構える。

 だが以前もっていた魔導ボウガンではない。


 彼女が新たに編み出した魔導ボウガンより遥かに威力の高いモノ

 そこにいる誰もが見守る中、ティヨルは的に狙いを定め引き金を引く。



 次の瞬間、ドンッ! という激しい炸裂音と共に弾が飛び出て、的を貫通しその先に会った木にめり込む。


「な、なんだ今のは!? 大砲みたいな音がしたぞ!?」


「また王女様が違う武器を作ったのか?」


「怖ぇ~……あんなの鎧着てても貫通して死ぬぞ」


 騒めきの中、ティヨルは深い呼吸をして精神を落ち着かせた。

 試し撃ちは成功。


「流石でございます王女様。新たなボウガンの使い心地はいかがですかな?」


「えぇ、大陸の魔術師達や錬金術師達に頼んだのは正解でしたね。彼等は"火薬"の扱いに非常に長けています。……それにしても凄いですねセバスは。まさか大陸の方にもツテがあるだなんて」


「フフフ、お役に立ててなによりでございます」



 新たに作ったボウガンは魔力で飛ぶのではなく火薬を用いて飛ぶという異例の方法を用いた仕様になっている。

 王女が以前より考えていたものを短期間で製造し、今日この日に使用可能としたのだ。


「魔導ボウガンは魔力による補正を大きく受けていた為魔力を封じられればたちまちただのボウガンとなってしまいましたが、王女様が御考案なされたこれは火薬の力で凄まじい速度と威力を発揮しております。多少魔力による補正はかかっておりますが、例え無力化されても使用に大事はありません」


「フフフ、もうボウガンと言ってもよいものかもわかりませんが」


 そう言ってティヨルはセバスを従え射撃訓練所を離れる。

 新しい武器が手に入ったのはよいが、これではまだダメだ。


 根本的な解決には至っていない。

 それにアルマンドの言葉がずっと脳内で響く。


 人間如きの知能と異能では敵わない、と。


(父上はもうボウガンの開発はするなとは言われているけど……。もう、騎士の力ではどうにもならない。このままいけばきっとこの王国は火の海に吞まれる。あのときの夢のような)


 少し陰鬱気味になっていると前からアルマンドが歩いてきた。

 正直まだ彼女のことが気に入らない。


 軽く会釈した後そのまま去ろうとしたがすぐに止められた。


「おいおい王女様よぉう、そんなツレない顔で挨拶ってのはそりゃねぇぜ」


「ごめんなさい、今は気分がすぐれなくて……」


「ハハハ、別にムリすんなって。オレ人に好かれんのも嫌われんのも得意なんだ。アンタに嫌われたってそれはオレの性ってもんよ」


 そう言って豪快に笑う彼女に苦笑いを浮かべた。

 国王はなぜこんな女が気に入ったのだろうか。


「あ、そうそう、ビッグニュースだ」


「……はい?」


「……オレの予想だが、今日の晩にでも奴は帰ってくる」


 その言葉に表情を困惑と驚愕で歪めた。

 今夜にグリフォ・ドゴールが!?


「それは本当ですか!?」


「確率は非常に高い」


「なぜもっと早くに報告しないんですか!?」


「ついさっきわかったんだ、オレを責めるな」


 無責任極まりない発言ばかり。

 だがそんなことを言っている場合ではない。


 戻ってくるというのなら一体どこに降りてくる?

 この王国か、それとも国外のどこかか。


 もしもこの城下町に降りてくるというのなら大惨事だ。


「グリフォはこの地へ戻って来た後、彼は復讐の為に動くと思いますか?」


「……だろうな。それが今の奴の存在意義だろうぜ? その過程でなにが死のうとなにが壊れようと知ったこっちゃねぇって話だ」


「彼を止められるのは、今この地にいるレクレス様だけ……」


「あぁ、そういやアンタ婚約者なんだっけ? どうよ復讐者が未来の夫を殺そうとしてるのを眺めてるしか出来ない気分は? ん?」


 こんなときでも嫌味を欠かさないアルマンド。

 なぜこんなにも人を小馬鹿に出来るのか理解に苦しむ。


 だが、ティヨルはなにも言い返せない。

 彼女自身感じていたのだ、レクレスの中にあるあまりにも黒い本性が。


 父である国王は結婚に乗り気ではあったが自分は気が進まない。

 セバスにその気持ちを明かしたとき、彼は優しく事実を受け止めてくれた。


「少なくともレクレス様が負けることはないとは思います。あの人は無敵と言って差し支えないですから」


「おー、チートってやつか」


「チー……なんです?」


「いんやこっちの話。……実はな王女様、オレは職業柄っていうか性格上色んな復讐者を見てきたのさ。復讐相手の大半は無敵か最強か……果ては神すら一撃で倒しちまうほどの実力の持ち主だったりする」


「そ、そうなん、ですか……」


「だがな……オレが見てきた復讐者の大半は、そんな連中を打ち負かしてきた。そういう奴等にはある共通点があるんだ」


 共通点?

 まるで復讐者のなんたるかを知っているような口ぶりだ。


 しかし妙だ、アルマンドという魔術師の名でそう言った経歴は存在しなかった。

 セバスの情報網を以てしても裏の世界での行いも感知出来なかったのだ。


 この世には復讐譚がゴマンと存在している。

 だがそこにアルマンドが絡んだという記録はない。


 もっとも、この女がこの世界とは別の場所で復讐の手助けをしていたのなら話は別だが……。


「……その共通点、もしかしたらグリフォともう一度出会うことでわかるかもしれないぜ? なぁに、そんな特別なものじゃあない。もっと原始的で、当たり前のものだ」


 そう言ってティヨルの脇を通り去っていった。

 ますます怪しい。


 まるでこの世の者でもない存在と会話しているかのような気分だ。


 もしかして彼女はこことはまるで違う世界から来た異質な存在ではないか?



 ティヨルはそう思えてならなかった。





 そして時間は過ぎ、運命の刻が来る。



『……こちらグリフォ、アルマンド聞こえるか!? これより大気圏に突入する!』


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