宇宙戦線、崩壊
迫る小型の方舟達。
魔導砲台から熱光線を放射しつつ、グリフォを翻弄する。
数で劣るグリフォは物理法則から解き放たれたかのようなアクロバット飛行を繰り出し、触手で方舟を穿っていった。
「バカな……なんて機動力だッ! 化け物め」
母なる星を背に未知の巨怪と戦う信者達。
そして自らの憎悪を迸らせて破壊を続ける巨怪。
(見せてやる、熱光線にはこういう撃ち方もあるってな!)
大口から撃ち放つ熱光線。
真っ直ぐに伸びたそれは途中で無数に分散した。
まるで個々が意思を持っているかのように方舟達を追い回しては撃ち貫く。
一瞬にして宇宙戦線は爆炎の海と化した。
「あれだけの船団を瞬く間に……ッ! 一体奴は何者なんだ!?」
「うろたえるな! 我等にはレクレス様の加護がある、あんな化け物に負けるはずないんだ! でしょう教祖様!」
「……」
「教祖様?」
ドローススは黙ったまま炎が渦巻く宇宙戦線を見据えていた。
その頬には嫌な汗が流れている。
それは戦慄と不安の表れ。
あの巨怪に対する絶対的な恐怖。
魔術で映し出された映像越しに奴と目が合った気がした。
なにを考えているのかわからないくらいに見開いたソレが更に不気味さを増している。
「……主砲充填はまだか?」
「え、……は、ハッ! 現在96%!」
「よし、このまま待機。……アイツはこの世より生まれ出た醜い悪魔だ、地獄へと戻してやれ!」
ドローススの鼓舞が弟子や信者達への大きな励みになった。
このままいけば主砲は完全に駆動し、奴へ裁きの光を下せるだろう。
(鬱陶しい連中だッ!! とっとと墜ちろッ!!)
無数の触手をスクリュー状に回転させ、群がってくる方舟達を次々と破壊していく。
この宇宙においてもグリフォに傷をつけられる者はいなかった。
だが奴等にはまだ切り札がある。
あの切り札をまともに受けるのは流石に危険だ。
どれだけのダメージを叩き出せるのかまるでわからない。
あれほどの規模の砲台であればもしかしたら自分を粉々にすることは可能かもしれない。
(だが俺に逃げるなんて選択肢はない。そうだろうドロースス? 俺は狩人、お前は……死を前にした哀れな獣だ)
丁度全ての小型の方舟達を破壊した頃、母船たる方舟で動きがあった。
主砲の魔力充填が完了したのだ。
砲身がグリフォの胸に向かってゆっくり向けられる。
グリフォも真っ直ぐ向き合い身体の内側に力を溜めた。
互いの距離、おおよそ2000m。
「巨怪、身体から妙な光を放っています。……体内に高濃度のエネルギーを感知ッ!」
「どうやらあちらも切り札を撃ってくるようだな……教祖様、いつでも撃てます! 御命令をッ!」
ここであの巨怪を沈める。
その運命の決断ともとれる命令をドローススはついに下した。
「……――――撃てッ!!」
「主砲、発射ッ!」
主砲が七色の輝きに包まれ内部へと集中する。
ほんの一瞬の静寂を孕んだ直後、轟音を上げて比較にならないほどの威力と濃度を持った熱光線が放たれた。
放たれたと同時にグリフォも溜めに溜めた熱光線を放射する。
――――ギギギギギギギギギギギギッ!!!!
互いの高濃度のエネルギーがぶつかり合い宇宙を構成する次元の壁が軋みを上げる。
それこそこのままビックバンが起こるのではというほどにぶつかり合うエネルギーの集束部位が膨張し始めた。
「き、教祖様! これ以上はッ!」
「な、ならん!! このまま撃て! 怯むなァーーーーッ!」
方舟自体に凄まじい負荷がかかり、今にも粉々に砕けてしまいそうだ。
誰も彼もがこの壮絶なぶつかり合いに戦慄し、その場で動けなくなっていた。
ただひとりを除いて。
(こ、こんな所におれるか! 儂はひとりでも逃げるッ!! ……サラバだ弟子そして信者達よ。ワシとレクレス様の為に犠牲になってくれい!!)
皆が気を取られる中、ひとり脱出用の方舟のある場所へと向かう。
(つ、強い……流石はあらゆる奇跡で動く方舟。……だが、それだけだッ!)
結局は兵器の強さ。
お前達にはわかるまい……。
憎悪に身を委ねた人間の、無限に溢れる思念を。
憎しみの化け物となった、怒りと破壊の力をッ!!
(グオオォオォォオオオオオオッ!!)
グリフォの放つ熱光線が更に巨大化し、ついには方舟の熱光線を飲み込んでいく。
彼の昂り上がったポテンシャルが破壊の力を増幅させたのだ。
方舟は軋みを上げながらそのエネルギーに圧し潰され、ついにはグリフォの熱光線に飲み込まれ欠片ひとつ残さずに霧散していく。
グリフォ・ドゴール、宇宙においてもその憎悪は健在ッ!!




