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かつてのたからもの

(おかしい……確かに感じたはずなのだが)


 気配を感じた北の方まで一気に飛ばしたのだが、忽然と消えてしまった。

 周囲を見渡すもドローススの姿や奴の放つ力の波動は一切感じられない。


 否、ここへ来る前にそれは途切れてしまったのだ。

 3日ほど飛んではいるが完全に見失った。


 北の地方にある山岳地帯。

 一番高い所に着地し、広大なる大地を見渡してみる。

 

 この地方は雲が多く大部分が隠れてしまっており、途切れ途切れでしか見られない。


(クソ……奴め、どこに行きやがった)


 内心ため息を漏らす。

 もどかしさが心に残る中周りに意識を集中しているとき、自分の体の中から光の球となってなにかが出てくる。

 

 同一化したはずの女神ティアマットだ。

 光の球からヒトの形へ。


『なんだアンタか……どうした急に?』


「別に。外へ出たかっただけ。……あと、いつまでも"アンタ"って呼ばないで」


『……ティアマット』


「……それでいい」


 ティアマットは手を後ろで組みながら彼の隣へ。

 山岳に吹く大風が彼女の髪を優しくたなびかせた。


 太陽の光で反射して、彼女の姿はより神々しさを増す。

 こんな化け物の自分でなけりゃ、きっとロマンチックな雰囲気になっただったろうに。


「とても綺麗ね……そうは思わない?」


『俺にはもうわからんよ。なにが綺麗でなにが綺麗じゃないのか……悪いがアンタだけで味わってくれ』


「もう、またアンタって言ってる……それにこういうのは2人で見るからこそいいものなのよ?」


『……さっぱりわからん』


 感傷に浸る心すらも今では遥か彼岸の彼方。

 心が冷えて固まってしまったかのようだ。


「焦りは禁物よ、復讐を成し遂げたいのなら」


『……ありがとよ』


 自分は大丈夫だと思っていても他人から見れば焦っているように見えるのはよくある話だが……。

 まぁ彼女なりに気を使ってくれているのなら無碍にするのは無礼というモノだろう。


「まだ復讐は始まったばかりよ? 少し休憩しましょ。私は大丈夫だから、ね?」


『……ま、ただ動き回っても仕方ないしな。いいだろう』

 

 ゆっくりと腰を下ろし、岩壁にもたれかかる。

 ティアマットはまだ大地を見渡していた。

 

「こうして2人でいると、昔を思い出すわ」


邪竜(ダンナ)のことか? こうやって大地を見下ろして人々を見守っていたのか』


「えぇ……私達は言うなれば古い神。自然現象は勿論、そこに向かう民族達の誇りや価値観。ときに有益な存在でもありときとして有害な存在でもあったわ。そこに単純な善悪の区別はない。……確かに不条理や理不尽は生まれた。でもその度に教訓や戒めを作り上げ、生きること死ぬことへの敬意を信仰者である部族達こどもたちは払い続けた」


『自然の恩恵と厳しさ、それらと共存し生き抜く人々か』


「えぇ、私とあのヒトはそんな彼等が大好きだった。部族同士でぶつかり合うこともあったけど、誇りと相手への敬意に満ちた正々堂々の戦いだったわ。生き残った方は死んだ者の意志と命の重みを背負い生きていく。彼等はどんなときでも自らに課した約束を違えなかった。……イイ男達だったわ。きっと私が人間だったら惚れていたかも」


『……イイ男か。女神にそう言わせるんだ、スゲェ部族達だったんだな』


「アナタはどうなの? 村一番の弓使いだったんですって?」


 ティアマットは歩み寄るや、フワリと彼の膝に座る。

 にこやかにこちらに好奇心を向けるティアマット。


 バラバラになりつつある人間の頃の記憶を整理して次のように話す。


『あぁそうだ。弓矢取らせりゃ村随一の使い手ってな。……俺がガキの頃、ある伝説に夢中になった。"ロビンフッドの伝説"だ。……村を蹂躙しようとする暴君と側近の魔術師率いる軍勢にたったひとりで挑んだ義賊さ。そいつも弓の名人でな。撃てば百発百中、まさに神業ってやつだ。最後は処刑されちまったんだが……当時の俺にとっては最高に"イイ男"だった。いつか俺もあんなカッコイイ男になりたいって子供ながらに思ったもんさ」


 ティアマットは微笑みながら聞いていた。

 グリフォが自分に心を開いてくれたようで嬉しそうだった。


『……だが、あの旅でなにもかもが変わっちまった。俺は守るべき友も女性も喪った』


 その結果がこれだ。

 なにもかも恨んで、悪の泥沼にその身を沈ませていく。

 

 ヴィランなら誰もが通るであろう、背に負いし哀しみの末路みちだ。


『憎しみに囚われた地点でイイ男じゃない。……まぁ今となっちゃどうでもいい話だ。俺は俺の復讐を成し遂げる、それだけだ』


 そう言って顔を背けた。

 未練があるわけではない。

 

 この道は自分自身で決めたことだ。

 決めたのなら終いまでやる。


 この憎しみは俺だけのものだ……。


「アナタのそういうスタンス、嫌いじゃあないわ」


『光栄だよ。……むッ!?』


 突如脳内に声が響く。

 アルマンドからの念話だ。


『朝っぱらからのランデブー邪魔するようで悪いね。グリフォ、アンタいい所にとまってんじゃん』


『どういうことだ?』


『いいか、あと1日そこにいろ。そしたらドローススが面白いモンぶっこんでくっから! 目ん玉引ん剝くぞ~?』


『なに! あと1日もここにいるのか!? ……チッ、まぁいい。本当にドローススの野郎が現れるんだな?』


『正確には大人数だけどな。フフフ、あの王女を殺さなくてよかったな。計画が早く進みそうだぞティアマット』


『本当?』


『本当だ。いいか? あの城には"神罰兵器"ってヤツがある。初代の王がある場所で見つけて何代にもわたって大事に保管させた兵器だ。……あれを利用する』


 そんなものが城にあったのか。

 これは歴代の王と一握りの重鎮のみしかしらぬ極秘事項らしい。


 もっとも、アルマンドならすぐにお見通しだ。

 この魔女の侮れないところはそこである。


『利用ってどうやって?』


『それはまた話すよ。今報告すべきことはそれだけだ。明日まで待ってろよ? いいな!』


 そう言って一方的に念話が切れた。

 相変わらず騒がしい女だ。


 これは言われた通り待つ他ない。

 睡眠や休息を必要としない肉体ではあるが偶にはいいだろう。


 次の日、グリフォそしてティアマットは本当に驚くことになる。

 

 その、圧倒的なスケールに。


 


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