表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/54

戯れ

 ティヨルは走る。

 高速で迫り来る触手を躱しながら、なんとか生き残った兵達が逃げられるよう手を尽くした。


 魔導ボウガンの残弾は残り少ない。

 触手にも何発か当てたが効果はないようだ。


(ちょこまかとよく動くな……。いいぞ、そういう獲物を仕留めるのは得意なんだ。ゲームと洒落込もう)


 巨怪(グリフォ)は触手を更に動かし、ティヨルの行動範囲を徐々に制限していく。

 触手に少しでも触れれば周りの兵のように肉体がズクズクになって苦しみ死ぬのだ。


 狭まっていく天と地にティヨルは焦りを覚える。


「徐々に追い詰めて……動けなくなったところを仕留める。まるで狩人ね」


 だが考えている余裕はない。

 1箇所だけの活路をすぐに見出す。

 

 だが一か八かの賭けだ。


 魔導ボウガンを投げ捨て、その方向へ全力で駆ける。

 そしてその1箇所……飛び越えられるかギリギリの高さにある空間に、走り高跳びの要領で軽やかに飛び越えんとした。


 だがそれと同時に、まるで狙い澄ましたかのように触手が彼女を貫きにかかる。


 彼女の思考や行動パターンを短い間隔で読み取り、上手く自分の支配(ホーム)に誘導した。

 

 巨怪は静かに少女の死を確信する。

 高速で放たれた矢の如く飛翔する触手は、切っ先を煌めかせながら的確に向かった。


「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」


 それは切っ先がもう貫くのではないかという間隔。

 ティヨルは強引に身を捩りそれを回避したのだ。


 柔らか且つ軽やかで大胆な身のこなし。

 だが、それは着地のことは一切考えていない。


 触手を躱したはいいものの、勢いのまま地面に落下して派手に転げ回る。


「あ……ぐ、ぁ……ッ!」


 右足の骨が折れ、あらぬ方向へと曲がっている。

 耐え難い激痛が走り、もう身動きは取れない。


(……あそこで俺の一撃を回避するとは)


 その健闘は讃えよう。

 だが無駄に終わった。


 逃げろと命じたはずの兵は完全に腰が抜けてその場にいたからだ。


 彼等は死ぬ。

 そしてこの少女……いや、王女も。


(ティヨル王女……謁見のとき以来か。変に首を突っ込まなければ早死せずに済んだものを)


 まぁゲームにしては楽しめた方だ。

 ゲームの対戦相手には敬意を払う。

 それは人間のときから変わっていない彼の流儀だ。


 触手を元の長さまで収縮し、ゆっくり歩み寄る。

 迫り来る巨大な死の影に、彼女の呼吸と鼓動が更に酷いものになっていくのがわかった。

 

(復讐相手ではないただの邪魔虫であったが、健闘を讃え比較的楽に殺してやる)


 拳を振り上げる。

 痛みを知覚出来ないほどの速度で殴れば死ぬはずだ。


 まぁそれがどれくらいなのかはわからないが、全力で叩き込めばなんとかなるだろう。


「グリフォ……ドゴール……ッ」


 振り降ろそうとした直後、彼女がか細い声で名前を呟いた。

 アルマンドの報告通り、ある程度は調べたらしい。


 自分の名前にまで辿り着いたことは称賛しよう。

 だが、そんなものは慈悲の理由にはならない。


 痛みと恐怖でティヨルの身体の力が抜けていき、徐々に意識が薄らいでいく。

 あとはもう残忍な死を待つのみとなった。


(――――……ッ!?)


 だが、その直後に巨怪グリフォは遥か北の方角から強い力を感じた。

 テネシティのときと同じ生理的な嫌悪を覚えるほどの気配だ。


(そうか……ドローススめ。次はお前か。ノロノロ浮いてるだけのお前がこんなにも行動が早いとは思わなかったぞ)


 テネシティと同格かそれ以上の"なにか"を感じる。

 これはとんでもなく面白い復讐になりそうだ。



『アルマンド、どうやらドローススの奴が動き始めたようだ』


『みたいだな。ハハハ、すっげぇもん導入しやがったぞ? 恐らくテネシティの魔術工房とは比べ物にならないほどの規模のな』


『……凄い信仰の力を感じる。こんなのは初めて』


 アルマンドがせせら笑う中、ティアマットが念話で怯えたように告げる。

 女神であるはずの彼女がここまで戦慄するほどの力とは一体……?


 なにはともあれ今は復讐が最優先だ。

 

 こんな小事にかまっている場合ではない。

 

(……命拾いしたな、ティヨル王女)


 完全に興味を失った彼女を一瞥しつつ、グリフォは翼を広げ大空へと舞い上がった。

 

(……グリ、フォ……なぜ、私を……?)


 彼の意図が理解出来ぬまま、ティヨルは完全に気を失った。

 最後に見たのは駆け寄ってくる生き残った兵士数人だった。






「勇者レクレス殿の御心を穢さんとする悪魔め。我が奇跡の力を以て貴様を葬ろう。……このドローススがなッ!!」


 老僧侶ドローススの言葉が響くと同時に、その奇跡は現れる。

 信仰と魔術が合わさった究極の奥義が発動した。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ