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いざ南西部へ

 朝食後、部屋に戻ったティヨルはセバスの集めた情報に耳を傾ける。

 

 セバスの持つ独自の情報網の正確性は毎度のこと驚かされる。

 いっそ軍師になればよいのではと思うほどに。


 彼の集めた情報によって助けられた戦は多いという噂があるらしいが……。


「勇者御一行がある町を訪れたときには、人数は5人だったそうです」


「ひとり足りない……、戦死かしら?」


「原因ははっきりとはしていません。……次にある船に乗ったときには、御一行のひとりが海へ自分から落ちたことが水夫達からの証言で確認されております。……獣人種の奴隷育ちの少女だったとか」


 ティヨルの表情が曇る。

 部屋に差し込む光が、より顔に影を落とした。


「少女は酷く疲れ切った様子で、まるで屍のようだったと。……彼女が海へ落ちたとき、助けようとした人物がいました。その人物は彼女を愛する人と言っておりました。……その人物こそ弓の名手」


「――……グリフォ・ドゴール」


 憎しみの人の名を呟く。

 きっかけはわからないが、彼はその獣人種の少女を愛していた。

 大人の男性と奴隷の少女、禁断のラブストーリーを彷彿させるような関係だ。


「セバス、彼女が死んだときレクレス様はどういった反応をとっていたかわかりますか?」


「はい、水夫達の話によると……さほど気に留めてはおられなかった御様子。奴隷の所有権はレクレス殿にあります。恐らく物が失くなった程度にしか考えてはおられなかったと……」


 一見薄情にも見えるレクレスの態度。

 ――――だが()()()()()()()()()()()


 貴重な労働力ではあるが、大抵ぞんざいに扱われる。

 人の形をした人ならざる者、否、"物"。


 絶対服従こそが生きる価値であり存在意義。

 それが出来ない者はゴミ、廃棄処分。


 例え死んでも同情の余地はなし。

 

 勇者レクレスもやはり彼女をぞんざいに扱ったのだろう。

 だが誰も責めない、責めることはない。

 

 それがこの世の"普通"だ。

 奴隷は虐げられる、働く為に。



 だが、ティヨルは考える。

 その普通を超えた視点で情報を整理し状況を思い浮かべた。


「グリフォ・ドゴールは愛する彼女を喪い、それに対してなにも言わないレクレス様に強い憎悪を抱いた」


「王女様?」


「ただの憶測です。だけど情報を基に考えると……やはり愛する人を喪ったならそう考えるのが自然では、と」


 では、それが憎悪の理由としてグリフォはその後なにをしたのだろうか?


 勇者レクレスを襲った?

 いや無謀だ。


 彼の戦闘能力は最早人類の域ではない。

 彼には無数の加護がある。

 普通の人間が挑んだ所で、それは自殺行為だ。

 

 それに気になる。

 あの夢でグリフォ・ドゴールは巨大な化け物に変質した。


 あれが指すものとは一体……?


「憚りながら王女様、情報には続きがございます」


「続き?」


「はい、最新の情報によりますと勇者御一行が昨日ある村へ辿り着いたようなのですが……人数は3人であったと」


「3人!? また減ってる……まさかグリフォ・ドゴールが?」


「可能性は十分かと」


 頭が混乱する。

 一体あのパーティーになにが起こっているというのか。


「そしてもうひとつ……。グリフォ・ドゴールが消えたのとほぼ同時期に例の巨怪が出現しました。更に昨日の南西部での大爆発……偶然としてはあまりにも」


「巨怪の話は聞いています。まさか彼がその巨怪であると?」


 にわかには信じられない話だ。

 だが……彼女には確かな予感がした。

 グリフォ・ドゴールと巨怪はなにか関係があるのでは、と。

 

 だが考えても詮無きこと。

 時間の浪費だ。


 今は自分のすべきことをしよう。

 まず気になるのは……。


「セバス、今から南西部の方へ行きます。支度を」


「あの場所へ? 恐れながら、陛下がお許しにはならぬかと」


「かまいません、父上もお忙しい身。私は私の出来ることをやるだけです」


「かしこまりました、ではすぐに支度致します」



 ティヨルは勉学のみならず武芸にも通じている。

 剣に槍、弓等の技術を身に着け、若くして戦場へ出ては兵を指揮することも多かった。


 そんな彼女の出立はこの国では珍しいものだった。

 上級騎士のような華やかな鎧ではなく、ある国で採用され始めている"軍服"をモチーフにした軽装甲の戦装束である。


 黒色のそれをまとった彼女はまさに荘厳なる戦乙女に他ならない。

 だが腰には剣を携えず、違う物を身に着ける。


「王女様、予てより改良に改良を重ねた"魔導ボウガン"です」


「ありがとうセバス。……父上や重鎮達は"そんなもの王道ではない"って毛嫌いするけれど、こういう高性能な遠距離武器が戦場で役に立つと思うの」


「王女様の発想力は飛び抜けておられます。御自身で魔導ボウガンの設計に取り組まれようとされたときは驚きました」


 ティヨルは微笑みながら専用の鞘に入れられた魔導ボウガンを装着する。


 その外観はあまりにも時代を先取りしていた。

 言うなれば、遥か未来にて現れる"ライフル銃"に近いようなデザインだ。


 魔導ボウガンの全長はライフル銃と比べるとやや短め。

 弾は鉄球、魔力によって飛距離や威力・命中率を上げている。

 

 専用のスコープを取り付けることにより更に命中率は上がる。

 戦場では、これで敵将の頭を遠距離から次々と撃ち砕いた。


 最早ボウガンと言ってよいのかわからぬほどにその性能は桁違いだ。


 しかし、成果とは裏腹に周りからの評価は散々だった。

 あまりに強すぎた為、その1丁のみでこれ以上の製造を国王自らが禁止したほどだ。


「さて……これより出陣します。セバス、後をお願い」


「ハッ! 承りましてございます」


 ティヨルは馬に跨り、外で待機させていた騎兵部隊と数人の魔術師に命を下す。

 目指すは南西部の例の爆心地。


 大地を轟かせながら、かの地へ進んでいった。







『……あぁ、オレだ。アンタのことを嗅ぎ回ってる奴が現れたぜ?』


『そりゃ俺が有名人だからだろ? 俺がどこへ行ったのか調べようとする奴だって現れる』


『違う、そうじゃない。……巨怪(アンタ)の正体がグリフォ・ドゴールじゃないかって疑ってる奴さ』


『ほぅ……その話、詳しく聞かせろ』


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