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アルマンド:疑似聖剣

 所変わってグルイナード王国。

 戦場にて巨怪グリフォ・ドゴールが現れたことにより自軍は壊滅。


 これによって城内にはただならぬ空気が漂う。

 巨怪のこともそうだが、なにより魔王軍の進行が今も続いているとのことだ。

 

 巨怪かそれとも魔王軍か、意見が大きく分かれる。

 

 そんな中、急遽国中から集められた魔術師達は研究と開発に勤しんでいた。

 城の工房を使うモノや、自分の工房にこもる者もいる。


 どうやら選ばれた魔術師だけが巨怪に対しての話し合いに参加できるらしい。


 色仕掛けで王をたぶらかしてもいいが、面白くないので無難に開発をした。

 そして出来上がったのが――――。


「これがオレの開発した"疑似聖剣"だ。見た目はただのロングソード。だが柄頭の所に魔石が取り付けてある」


 剣を持ち王や大臣、騎士や貴族達の前でのプレゼンテーション。

 口の悪さは御愛嬌……とはいかないが、王の許しは得ている。

 もっとも、メスを見る雄の表情であったが……。


「魔石からは柄を通して刀身に魔力を送り込む。刀身が折れても刃毀れしても即時再生。更に鍔部分に親指で押せる安全装置セーフティーをつけいている為ご覧のようにチョイと押せば……ホイ」


 カチリと音がして魔石が外れる。

 魔力切れを起こしても魔石の素早い取り換えが可能になるのだ。

 予備の魔石を持っていれば再度疑似聖剣として使える。

 

「通常の剣の製造工程にもさほど影響は出ない。柄の部分の工程を少しばかり弄るだけで、後は量産が可能! 作業の負担やコストはなるべく少なくッ! それがベストだ。魔石はある一定の基準を満たせるくらいに錬成出来ればそれでいい。その為の資料もこちらで用意している。……魔術師の給金も上がるぞ? 多分」


 ちょっとしたジョークを交えつつ彼女は疑似聖剣を披露する。

 疑似聖剣は魔力で剣の切味を保つだけでなく、魔力によるブーストも可能。

 巨大な岩をもバターのように切り裂いて見せた。


 これには騎士も王も笑顔で疑似聖剣を讃える。

 

 デザインにも気を配れば更に良いものとなる。

 王はこれの量産を命令した。

 

「そう! 刃を研ぐだの乱戦中に刀身を変えるだの……狂気染みたリスクは是非とも回避。武器は安全と安心が肝心。……以上で終わり」


 

 プレゼンテーションは成功。

 他のお偉いさん方も疑似聖剣を気に入ったようだ。

 

(……この時代の連中はやっすいもんだわ。あんな()()()()()()()()()()貰って喜んでんだから)


 実際アルマンドは『絶対に折れない剣』だの『あらゆる攻撃を防ぐ鎧』だの、神話めいた武器を作ることが普通に出来る。

 無論それを量産することも……。


 望むならこの時代にはあまりに不釣り合いな武器を作ることも可能だ。

 それこそ銃であったりビームサーベルのような熱光線で出来た剣等。


 だが、それをしなかったのには理由がある。


 まずメンドくさい。

 そして、あんな武器を作って渡しても誰も文句を言わないから。

 

 実際あの剣は彼女から見ればガラクタだ。

 魔力が切れればただの剣に逆戻り。

 魔術が来てもそれを防ぐ術はない。

 ブーストは魔力をかなり消費する。

 なにより本物の聖剣より遥かに劣る、等々。


 これらを鑑みれば、アルマンドからすれば不良品も同然。


 だが別に罪悪感もなにも一切ない。

 喜んでくれたなら、あとは自己責任だ。


 魔女特有の自分勝手の極みである。


「アルマンドよ。そなたの疑似聖剣、ありがたく使わせてもらうぞ」


「へへへ、そりゃどうもありがとさん。()()()冥利に尽きるって奴だ」


「貴様……国王陛下に対しあまりに無礼な口の利きようッ!」


「構わぬッ! アルマンド、そなたはありのままでよい……嵐のように猛々しく幼子のように無邪気な女……余は好きだぞ?」


「あっはは、こりゃどうも」


 コイツ女見る目ないな。

 密かにそう思いつつも王に連れられ王の自室まで入る。

 否、入らされた。


「アルマンド……そなたは美しい……」


「あー……そりゃどうも。王様、ひとつ頼みがあるんだが?」


「許す、申してみよ。金銀財宝が欲しいか? それとも新たな工房か?」


 王は完全にアルマンドの妖艶さと色香に惑わされ、彼女を自分の物にしようとしていた。

 あらゆる美女を見てきた王が彼女に一目惚れしたのだ。


「……謎の巨怪が現れたって聞いた」


「……ほう」


「オレを対巨怪のチームにいれちゃくれないか? オッケーしてくれるんなら……アンタの女になること、考えてやってもいいぜ?」


「……まことか?」


 考えるだけである、嘘は言っていない。

 思ったよりも簡単だった。

 もっと手順を踏むかと考えたが、まさか王が自分をロックオンしているとは予想外だ。

 なにより結果は出した、信用はある。


「ククク、わかりやすいんだよアンタ。出会ったときからずっと……オレの身体舐め回すように見てたよな? 特に胸なんて鼻の下伸ばしながら見てよぉ? 王様に見られるなんて興奮しちゃうじゃん」


 王の身体に密着し、その柔らかで豊満な胸を押し当てる。


「……ッ! ふ、フフフ、アルマンドよ。こういう話は酒でも飲みながらせぬか? 余は酒を飲みながら話したい」


「……あぁ、いいとも。好きなだけ付き合ってやるよ」


 欲望と情動が揺れ動く空間の中、日は落ちて夜の時間が埋め尽くす。

 そんな中魔女は嗤う。

 

 この城の内部にいともたやすく侵入出来たこと。


 そして、この城に隠された()()()()に近づけたことを。


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