ヘイブンなきこの世界で
この物語は前作『サイコ勇者と心から愛した戦乙女に裏切られた騎士は、魔女の力を借りました』の続編のようなものですが、世界観は分けてあります。
是非そちらもご覧ください!!
2018'10'18
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『ゲスな同期と愛していた画家に裏切られた舞台女優は劇場の地下で魔女と出会う』
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「もう勘弁ならん……アンタは狂ってる。アンタのやり方は異常だ!!」
真夏の太陽が煌々と照らす平原のど真ん中、男が怒鳴り声を上げる。
名を《グリフォ・ドゴール》、34歳。
村一番の弓使い。
彼は勇者と共に魔王討伐の旅に同行していた。
勇者達と共に行くことが決まったその日は、天にも昇る気分だったのを思い出す。
平凡な自分が世界の平和を担う役割を与えられたことに、誇りを感じていた。
――――だが。
「今なんて言ったグリフォ? いいかい、このパーティにおける"法"は僕だ。僕の言うことに従ってくれ」
「レクレス……この際だから言ってやる、――――アンタおかしいぞ。もう何日も寝食抜きの歩き続けだ。それだけじゃない、敢えて魔物の出没しやすい場所ばかり選んでは自分から突っ込んでいってる。こんなの正気の沙汰じゃあないッ!」
温和そうな顔付きを苛立ちで歪ませながらグリフォを睨む白い戦装束の少年、《レクレス・イディオ》
彼は神に祝福されし勇者である。
圧倒的な才能と加護を武器に近年になって現れた魔王を討伐する為の任務を国王より仰せつかった。
彼自身、そのことを生まれてからずっと誇りに思っている。
だが、その性格はあまりにも歪んでいた。
自分に出来ることであればなんでも、他人にも同じ水準を強要し出来なければ制裁・拷問なんでもござれの顔に似合わぬ人でなし。
つい最近なぞ、矢でも届かないほどに上空にいる敵に対し、"気合で撃ち落とせ"等とのたまったほどだ。
コイツの頭の中はどうなっているんだ?
今更だが本当に疑問に思う。
「レクレス様がおかしいですって!? それは聞き捨てならないわ!」
「そうじゃ……ッ! お主、勇者殿がどれほど世界の為に身を削っておられるかわからぬのか!? その為に儂等もまた耐えて、苦労を分かち合うのは当然の理屈! 忍耐、忍耐じゃああ!!」
そして彼の熱狂的な信者である2人。
一流魔術師にして彼の全肯定者である少女、《テネシティ》
そして常に魔力で宙に浮いている老いた僧侶、《ドロースス》
勇者レクレスの行動や思考全てを肯定し賛美するこの2人は勇者以上に厄介だ。
こうしてこちらが苦言を言おうものなら、顔を紅潮させながら言葉で畳みかけてくる。
「忍耐だと……? 今まで散々耐えて来ただろうが! その結果、2人も死んだんだぞ!? コイツの無茶極まりない要求のせいで!」
実はあと2人仲間がいた。
だが、旅の途中で彼等は死んだ。
否、この目の前の男に……この3人に殺されたッ!
独裁的な判断による酷使に制裁。
嗚呼、思い浮かべただけでも嘔気ッ!
「……僕の方針に従えなかった。僕についてくることが出来なかった。即ち、役立たずだ」
「なんだとぉ!?」
「いいかい、僕達は魔王討伐の旅に出ているんだ。遊びじゃあないッ! 目的を達成するには絶対的な規範が必要だ。それに従えない奴はゴミだ。生きてる価値なんかない。……僕はそんな連中に役目を与えてやった。仕事をさせてやった。むしろ感謝して欲しいくらいだよ」
「レクレス様の言う通りよ! なんでレクレス様を悪者扱いするの? ……理解できない。これだからド低能は……」
「嘆かわしい……、なぜ皆勇者殿のように正しく美しく生きられんのか。世界のことを誰よりも大切に思い、誰よりも人間が出来ているこの少年のようにッ!」
――――絶句。
グリフォの顔は蒼ざめ、額や背中から汗が吹き出し悪寒が走った。
テネシティは怒りを露わに、ドローススは悲し気にこの世を憂う。
その所作に一切の曇りはない。
彼等は本気でレクレスを信じている。
コイツ等は本気でそんなことを言っているのか?
仲間の死に対して、なんの感慨も無いのか。
そればかりかこの少年のイカれた判断に、賛美を送っている。
(なんなんだこれは……? まともな奴はいないのか!? ――いや)
――――俺が、おかしいのか? 俺が狂っているのか? 俺の方が人間として間違ってるのか?
3人の冷淡な視線にたじろいでしまう。
呼吸は荒くなり、鼓動の早まりが全身に嫌悪感を抱かせた。
ほんの一瞬だけ、思わず自分に自信がなくなる。
本当におかしいのは自分ではないのか、と。
その様を見てワザとらしく大きなため息を漏らした勇者レクレス。
ドローススとテネシティに目配せし、両脇からグリフォを羽交い絞めにさせた。
「な、なにをする離せ!」
「グリフォ……残念だよ。君はとっても賢いし、あの2人に比べれば有能だった。でもね……?」
直後、レクレスの強烈なパンチがグリフォの腹部に直撃する。
彼の攻撃威力は並ではない。
内臓が抉れて口から飛び出しそうな感覚に陥った。
「ぐが……ッ!?」
「いいか? 僕はいつだって正しい。その正しい僕の言うことが聞けない奴はクズだ。……僕は誰もが幸せに、そして正しく生きられる世界を常に追い求めている。でも、君達がやっていることはそんな僕の足を……平和を願い僕に全てを託してくれた人々の足を引っ張る行動なんだ。……これはお仕置きだよ。クズって身体に叩きこまなきゃ懲りないから」
温和そうな表情が悪意でニヤリと歪む。
拳や蹴りがグリフォの顔や脇腹、足に勢いよくめり込んだ。
両脇で彼を羽交い絞めにしている2人は、当然の報いだと言わんばかりにほくそ笑んでいた。
一体どれほどの時間が経っただろうか。
体中から血を流し、骨の至る所は砕け、折れているのがわかった。
もう一歩も動けないグリフォをゴミのように放り、侮蔑の言葉を吐きながら3人は去っていく。
事実上の追放処分である。
「……ぁ、……ぅ」
仰向けに転がりながら空を見上げると、雨雲がこちらに流れてくるのがわかった。
雷鳴を唸らせながら、一滴また一滴と雨を降らせていく。
泣きっ面に蜂……だろうか。
雨を凌げる場所などどこにもない、そればかりか探しに動くことすらできない。
次第に雨脚は強まっていく。
朧げな意識に沈みそうになると同時に、目から大粒の涙が零れていった。
「……誰か、誰か……ッ」
――――その日降りしきる雨は、あまりにも重く冷たかった。
倒れ伏した身体から流れ落ちる血が、泥と水溜まりに交わっていく。
意識が落ちる一瞬、奇妙な色をした雷が近くに落ちるのが見えた。
人の姿が見えたような……。
「ほう、コイツか。憎悪の度合も申し分ない……。"材料"としちゃ上出来だ」
2018'10'18
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