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弱かった落第生が強く逞しくなるにはそれ相応のバックストーリーが必要だ。


秘められていた力が目覚めた。裏切られて死に際に悪魔と契約した。なんてのは良くある話で諸君も耳にした事があるだろう。


『心優しい少年』を演じる俺には前者である『秘められし力』ルートが相応しい。後者は悪落ちの一種だしな。


そこで、俺は『秘められし力』ルートのストーリーを考えた。


何故魔法適正、並びに魔力保有量が低かったのか。どうすればその力に目覚める又は気がつくのか。


昨晩俺が考えに考えた結論は――



「『ニガヨルモの葉』は特に魔力に対する反応が――」

普段魔力量を抑えている俺だが、座学においては学年トップクラスだ。

魔法適正と魔力保有量こそ少ないが本人自身は優秀でがんばり屋、と言う年上のお姉さん好みしそうなステータスを得るためだ。

しかしこれがまた周囲の嫉妬とやっかみを良い具合に増幅してくれるので手抜きをするわけにはいかない。

優しくて勉強好きでがんばり屋。けど苛められっ子とか母性本能ダイレクトアタックだろう。……多分。

ちなみに魔法を殆ど用いない薬草学でも俺は勿論学年トップの成績を叩き出している。


「この時『ミコットの種の粉末』を――」


授業の内容は凡百の魔法使い達にとっての必須アイテムである『マジックポーション』の精製方法だ。

自分の総魔力量の10%程でしかないが、魔力を急速に回復させるポーションだ。

因みに人体に影響は少ないが毒薬の一種で乱用すれば目眩や吐き気を覚える。

無論、人類最強の俺には無用の薬物だ。1日中上級魔法を放ち続けても総魔力の一割も減らせず、六時間の睡眠で完全回復してしまうからだ。


さて、こんな初歩も初歩な授業なんて聞くだけ無駄だ。

俺にとっては体育の後、昼食と昼休みを終えた後の国語の授業並みに退屈で眠気を誘う授業なのだ。……む?国語ってなんぞや?まっ良いか。


あくびを堪え、分身・・の俺へと同調線(テレパシーライン)を繋ぐ。

片目を瞑ると、瞑った目から映像が映り込む。

そこに映り出されたのは、王都の大通りにそびえ立つ立派な建物。

『冒険者ギルド』の本部だった。





「同調線は良好。さて、作戦開始と行こう……かのぉ」

藍色のとんがり帽子とローブを纏った老人が、身の丈程の杖を突きながら『冒険者ギルド』の扉を開いた。


汚く、無頼漢がたむろしているイメージを持っていた冒険者ギルドだが、本部故か、王都に構えているからか建物の中は清潔で、役所のような雰囲気に包まれていた。


「不良冒険者に絡まれるイベント、ってのは無さそうだな」

残念そうに呟いた老人はコツッ、コツッ、と杖を突きながらギルドの受付へ向かう。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」


受付嬢が軽く一礼して尋ねてくる。これまた美人で胸がデカイ。


「今日は聞きたい事があってのぉ。……魔物を討伐したのじゃが、冒険者ギルドに所属しておらんと報酬は貰えんのかのぉ?」


へそまで伸びる長い白髭を撫でながら老人が尋ね返すと、受付嬢は少しだけ驚いた表情を見せるとすぐに手元のファイルを開いた。


「討伐依頼が出ている魔物に関しては基本的にギルドに所属してない方にも出ますが、ギルドに所属してない場合、その報酬は良くて半分。対象によっては更に減る可能性があります」


「ふぉっふぉっふぉっ。それは当然じゃの。ギルドは信用第一じゃからな。ギルドの人間で無い者が勝手に討伐したとあっては依頼主も冒険者達も良い顔をせん」

「ご理解して頂きありがとうございます。それで、お客様はどのような魔物を討伐なさいましたか?」


「ボルケーノドレイクじゃ」

「へっ?」


「確か火竜山脈のボルケーノドレイクの討伐がギルドにて発令されておったじゃろ?当のボルケーノドレイクを仕留めた後でそれを知ってのぉ。無視を決め込んでも良かったのじゃが、危険地帯で無駄に人足を働かせるのも酷じゃと思って報告に来たのじゃ」

「えっ。……あ、あの、討伐証明などはお持ちですか?」

「ドレイクの額石で良いかの?それともドラゴンハートの方が良いじゃろうか。流石にここでドレイク一頭を丸々出すのはアレじゃし……」

「す、少しお待ち下さい!」


受付嬢は顔を真っ青にして受付から離れて行った。



……さて、これで強くなる事への布石、そのフェイズ1は成功だ。


強くなるために必要な事。

それは『修行』である。

今も昔も、物語の主人公達はより強くなるために修行を行って来た。

そして『修行』に欠かせないもの、それは少年少女を導き鍛える『師匠』の存在だ。


『師匠』は強ければ強い程良い。そして謎であれば謎であるほどなお良い。(過去に活躍していた偉人……だったら良かったが、俺が産まれてこの方大きな争乱は起こってないので残念だがそこら辺は諦める)



そう、俺は『修行』のために先ずは『師匠』を作り出す事に決めた。


この老人は俺が作り出した『分身』だ。保有魔力の2割くらい使って作り出した『分身』は魔法も扱うし半分独立した思考を持つ。

そんな『分身』に更に『幻惑』の魔法を掛けて老人の姿に変えたのだ。


個人的に『師匠』には年上の美女が良かったのだが何が悲しくて変装した自分に欲情しなくてはならないのだと考えた末、王道の老人魔導師、と言った姿に至った。


そして王道な『師匠』像を作り上げた俺は『師匠』の実績作りに奔走した。

お手軽簡単にその強さと規格外さをアピールするにはどうすれば良いのか?


その答えが先程出た単語、『ボルケーノドレイク』だ。


翼は持つが飛翔より陸上に特化した火竜は古来より厄災の象徴とされて来た。

そのボルケーノドレイクが大陸の北西に位置する火竜山脈に現れたと知ると、俺は直ぐ様火竜山脈へ転移し、風の魔法の真空波で一刀の元首を叩ききって絶命させた、と言うわけだ。

……勢い余って山脈の一つも叩き斬っちゃったけど。


「お待たせ致しました。ギルドマスターの元へご案内させていただきます」


「ふむ。あいわかった」

受付嬢の後をついて行くと、受付の奥に案内された。

おそらく応接室だろう。


「こちらです」

受付嬢が応接室のドアノブを捻ると、高そうな調度品の数々と、やたら高そうなソファーが置かれた部屋が俺を出迎えた。



「貴方が、火竜山脈のボルケーノドレイクを討伐したと言う……」


「ガンダ……――ガンダルヴァと名乗っておるしがない老人じゃ」

ヤバいヤバい、肝心要な『師匠』の名前を考えてなかった。

偉大な魔法使いっぽい名前を咄嗟に思い浮かんだ俺グッジョブ。


「しがないご老人がボルケーノドレイクを討伐、ですか。にわかには信じがたい話ですな」


「うむ。当然じゃな。ボルケーノドレイクと言えば小国なら一体で滅ぼす程の竜。口頭で言って信じれる物でも無い。討伐証明には何を見せれば良いのじゃ?」


「……り、竜の額石を」


「うむ。少し大きいでな」

そう言って虚空へ手を向けると、魔法陣が現れその次の瞬間、大樽程の大きさの翠の結晶が現れた。


「こ、これは……!確かに竜の額石。それもこれだけ大きく美しいのは初めて見ました」

「これで信用して貰えるかのぉ?」


「!……無論、信用させていただきます」

「うむ。ま、念のため斥候を送るが良い。こやつが一体かどうかもわからぬし、地形が少し変わってしまったからのぉ」


「ち、地形が」

地形が変わる。その言葉の通りの光景を想像したであろうギルドマスターの顔が青くなる。


「してギルドマスター殿よ。報酬の件じゃが」


「適正報酬が金貨100万枚を想定しておりました。ガンダルヴァ殿はギルドに所属しておられませんので本来では50万枚以下の支払いになってしまいますが……事が事です。今回の一件、火竜山脈の調停は国家の大事。それを成して頂いた恩人であるガンダルヴァ様には一律金貨100万枚を――」


「ああ、報酬の件に関してじゃが、金銭の類いは要らんのじゃ」


「で、では何をお求めで?我がギルドで用意できる物ならば、最大限努力致しましょう」


「うむ。そう言ってくれて有難い。……儂が探し求めておるのは……後継者じゃ」


「こ、後継者?」

「うむ。この見てくれ通り儂は魔法使いじゃ。儂が長い年月を掛けて練り上げた魔法、その後継者を探しておったのじゃ。……そもそもボルケーノドレイクもその旅の最中邪魔だったから討伐したに過ぎんしのぉ」


「お任せ下さい!国中から優秀な魔法使いを選考し」

「否。むしろ逆じゃ」

「……逆?」

「うむ。魔法もろくに扱えぬ魔法使いを探して欲しい」


まるで矛盾や謎かけのような奴を探せと言われ、ギルドマスターは困惑顔になった。


「正確には、四大属性が扱えない魔法使いに限定して欲しい」


「四大属性と言うと、『水』『風』『火』『土』の?」

「うむ。……我が秘奥の魔法を扱うには、属性魔法の素養は邪魔になる」


「ガンダルヴァ殿の魔法とは一体……」


「『時空魔法』……時と空間を支配し操る禁忌の術法じゃ」


ギルドマスターはガンダルヴァが放つ剣呑な雰囲気にゴクリと唾を飲んだ。



『時空魔法』とは、四大属性である『水』『風』『火』『土』に含まれない全く別種の体系魔法。

時の進む速度、空間を支配し操る魔法。


この魔法は強力無比であるが、この魔法属性を持つ者は他の体系化された魔法を操る事が殆ど出来ず、無能の烙印を押される事が多い。





と、言う脳内設定である。

実際は俺の天才的才能と有り余ってしょうがない膨大な魔力を使ってゴリ押しした結果『時の進む速度』と『空間』を操作する事が出来ただけだ。

無論俺は四大属性の魔法も使えるし他の隠し種はまだまだ存在する。


まぁ、これで俺が今まで魔法を殆ど扱えて居なかった理由と、そんな俺を育てる『師匠』の存在にリアリティを付与する事が出来たわけだ。

後はどう『ガンダルヴァ』と俺が会うかだが……とりあえずガンダルヴァには一、二ヶ月くらいはそこらを探す振りをしてもらおう。ポッと見つかったんじゃロマンが無いしな。





それまでは気楽な苛められっ子ライフを過ごすとしよう。

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