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七話

「死神ってご飯は何食べているの?」

「ご想像にお任せします」

「ああ、人の生き血をすすったり魂を(むさぼ)り食ったりしているのね」

「違う、断じて違う!」


 こちらがからかうと物凄く素直な反応が返ってくるのがとても楽しい。相変わらず髑髏であることには変わりないのだが、最近はそれを補って余りあるほどの言葉とジェスチャーで返事をする。大きな鎌を振り回すのはやめてほしいけれど不思議と部屋の中に被害は出ない。


 試しにお茶を出してみた。日本大好きと言っていたからコーヒーよりも緑茶が良いだろう。幸い実家は緑茶産業が盛んな地域にあるのでたくさん送られてくる。死神は少し戸惑った後、湯呑みを両手で持って飲んだ―――


「まあ、こうなるわよね。うん、予想通り」


 上下のあごから入って行ったお茶は骨しかないすっかすかの首元を伝って、死神の服を盛大に濡らしながら床に広がった。


「ごめんなさい」

「不可抗力でしょう?試してみたかっただけだから気にしないで」

「でもせっかくよそってくれたのに、無駄にするわけには行かないよ」


 空っぽの目が心なしかしょんぼりして見える。

 取り敢えず乾いたぞうきんで床を拭こうとするが、ローブの端からお茶がぽとぽとと滴を落とす。


「その服洗うから脱いで。家でこの時間に洗濯すると近所迷惑になるからコインランドリーで洗ってくるわ」

「え、いいよいいよ。こんな時間に女性に外を歩かせるわけにもいかないし。お風呂場で絞って帰れば何とかなるよ」

「なら、せめて手洗いで洗って絞って返すわよ。ほらさっさと脱ぐ」

「え?いやああぁああ」


 裾を掴んで持ち上げて脱がせようとしたら、大腿骨のあたりを服の上から押さえて必死に抵抗している。布から出ているのは勿論骨だ。


「もしかして、女の子だった?僕っ娘?」

「男だよ!だからこんなに必死に抵抗しているのに!なんて破廉恥な!」


 破廉恥って……。骨ばかりの相手に言われても、何て言えばいいのか。服から手を放して、謝ることにした。


「ごめんね?」

「しくしく、もうお婿に行けない」


 骨の両手を自分の顔……髑髏に当てているのだが、隙間だらけの手から眼球のない穴がこちらを見ている。責任取るとか婿に来いと言うのを待っているのだろうか。その手に乗るかと別の返しを探す。


「洗って行かないなら早く帰らないと風邪ひくよ」

「え、あ、うん。これはこれで心配してくれているという事で僕は嬉しいよ」

「あはは、それは良かった。……お休み」

「うん、お休みー」


 乾いた笑いが口から洩れた。何だかどっと疲れた気がする。

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