六話
「ねえ、もしかして彼氏とかできた?」
昼間、久しぶりに会って食事をしていた突然の友人の質問に、飲んでいたラズベリーソーダが気管支に入って咽てしまった。なんでそう思ったのか聞いてみる。
「いや、何となくだけど雰囲気が変わったと言うか、表情がほんの少しだけ柔らかくなった感じがするから。服装や化粧は……あんまり変わらないか。で?本当の所はどうなの?白状しなさい」
にやけた顔で迫る友人。昼間なのに何だか酔っ払っているように見える。死神彼氏、毎日十分間の逢引き、なーんて。……いやいや、そもそも彼氏じゃないし、逢引きでも無いし。顔はイケメンどころか髑髏だし、大きな鎌持っているのは武器の不法所持だし、なんだか古そうで野暮ったいフードつきの汚らしい服を着ているし。
「答えるのに時間がかかるっていう事は、まだ微妙なとこ?」
「恋愛対象ではないけれどまとわりついてくる人ならいる」
ストレートに死神との関係性を表せたと我ながら思ったのだが、友人はそれを聞いて眉をひそめた。
「それって……ストーカーじゃないの。大丈夫?」
考えてみれば最終的に殺されることが決定しているのなら、確かに死神は立派なストーカーだ。こちらの迷惑も考えずに夜遅く表れて一方的に自分の要求を突き付ける。見返りとして私は寿命を延ばしてもらえているし、夜のほんの少しの時間を彼に奪われているけれど迷惑行為と言う程でもない。
「今のところ特定の場所でしか会わないから大丈夫だと思う。変な事はされていないしおしゃべりしているだけだし」
自分の家と言う、最終防衛地点すら乗り越えて本拠地の中に踏み込まれてしまっているわけだけれども。更に金銭の要求をされているわけだけれども。……あれ、これって恐喝?居直り強盗?
「何かあったら……何にもなくても連絡ちょうだいよ。あんた、結構抜けているところがあるからすごく心配なんだけど」
「あはは、大丈夫だよ。ありがとう……ねえ、五円玉持ってる?両替してもらってもいいかな?」
「いいけど、どうすんの?」
「んーっと、おまじないみたいなものかな。五円玉集めているの」
「いいよ、五円くらい上げるよ。御縁があるといいね」
良いのか悪いのか分からない御縁なら最近できた。自分で続けることも断ち切ることも出来る御縁だ。
断ち切れないでいるのは果たして自分の命が惜しいだけなのだろうか。……こんな事を考えるようになってしまったという事は少しずつ洗脳もされているのだろうか。