五話
「子供の頃はさ、大人になったらお花屋さんかケーキ屋さんになって、素敵な人と運命的な出会いをして結婚して子供産んで、おばあちゃんになって死ぬものだと思っていた」
それが今では毎日死神と日付が変わるのを待つ日々となってしまっている。
「大人になって一日をやっと生き延びるのが精いっぱいだなんて、思ってもみなかった」
仕事を終えて疲れた体で帰って、食べて、眠って、朝になったらまた出勤して。休みの日にも何らかの用事があって。五円玉払って死神に寿命を延ばしてもらって。充実していると言えば言えるのだろう。なんていうか……生きている為に生きているのだから。
けれど、思い描いてた未来とは違う。薔薇色とまでは行かなくても、いろんな困難が待ち受けても、くじけることなく毎日が送れるものだと思っていた。
死神に五円玉を渡しながらふと思う。
どうして私、死神に人生相談しているんだろう?こんな事友達や家族にも話したことないのに。考えるだけ無駄な事だ、誰かに言っても結局は自分次第なのに、と思って希望や理想を口にすることはほとんどしてこなかった。
死神は割とどんな話をしても静かに聞いてくれる。……分かった。髑髏で表情が見えにくいから安心して話が出来るのかもしれない。普通の人間が相手なら、相手の反応が怖くてまともにこんな話できないもの。 せっかく会ったんだからそう言う暗い話は止めよう、とか何か悩みでもあるの?とかきっとそんな答えが返ってくるに決まっている。
死神はいったいどんな反応を返すんだろう?少し考えるそぶりを見せた後、私にこう聞いた。
「ご趣味はなんですか?」
「何よ、藪から棒に」
「お見合いの練習。僕には君の夢をかなえることなんて出来ないからね。」
やはりこの死神の頭の中は少しばかり恋愛寄りらしい。今の会話からどうしてそうなるのか私には理解できなかった。
皮肉を込めてこう切り返す。
「趣味は五円玉を集める事です」
「変わったご趣味ですね」
「―――誰のせいだと思っているの?」
怒りを含んだ声で返せば、死神はそっぽを向いて鳴らない口笛を吹いている。唇が無いのだから当たり前だ。
「素敵なご趣味ですねって返せばいいのに。五円玉が欲しいってあなたが言ったから集めているのに」
「そう言われると照れるね。僕の為に集めてくれているんだ?」
「集めないと死ぬから集めているだけなんだけどね」
「うん、わかった。ツンデレってやつだね」
ダレカシニガミノコロシカタオシエテクダサイ。