四話
テーブルの上に五円玉を置いて、時には眠い目をこすりながら毎日死神を待つ。朝出勤する時間を考えるともう少し早くしてほしいのだが、万が一ぎりぎりまで用意できなかった時のことを考えると言い出せなかった。
いつも通り死神はチャイムも鳴らさずに部屋の中に現れる。
「なんか……旦那さんの帰りを待つ新婚ほやほやのお嫁さんみたい」
「死神と結婚した覚えはありません」
「冗談だよ、そんなに怒ることないじゃないか」
死神に対して殺意が湧いた。実は現れるのを待ちながら、ちょっぴり……本当にほんの一ミリ程度だけそんなことを思っていたりもしたのだが、そんな状態を作り出した本人に言われると無性に腹が立つ。
「君とは長い付き合いになりそうだからね。冗談くらいは言える仲になりたいと思っているんだよ」
その言葉に違和感を感じた。死神の中では、私はまだまだ生きることが決定しているのだ。
「寿命ってそんなに簡単に伸ばせるものなの?もしかして私は騙されているのかな?」
死神は悲しそうに首を振った。……悲しそう……ただの髑髏に私は何を言っているのだろう。
「嘘だと思うなら、五円玉を渡すのを止めてみるかい?」
「でもそうして私は死んでしまったら、結局本当かどうかわからないじゃない」
「うん、君にはそんな試すようなことしてほしくないな」
明日の分の五円玉を渡しながら、私はため息をつく。つまらない人生だと思いながらも、少しばかりの疑念を持ちながらも、毎日渡している私は何なんだろうとも思いながら。
「結局のところあなたを信じるしかないのよね……」
「信じてくれて嬉しいよ」
骨の手で両手を握られた。性別はやはり男性なのか、骨だけなのに私の手よりも大きい。けれど。
―――どう反応すればいい?照れればいいのか、恐怖に怯えればいいのか分からなくて無言&無表情になってしまっていたらしい。
「ごめん。今のセクハラだった?」
「セクハラも何も……骨だし」
ときめけと言われても無理がある。死神はぱっと手を放し私の顔を覗き込んだ。だいぶ慣れたこの顔でも間近で見ると少しだけたじろいでしまう。
「死神の中でもイケメンと言われるんだけど、僕を見て何とも思わない?」
「いい出汁が取れそう?」
「君は人骨で出汁とるの?」
「いや何となく言ってみただけ」
斜め上を行く返し方だ、と死神は笑った。どうやらお気に召したらしい。
「なんだか今のって夫婦漫才みたいだよね」
髑髏のくせに何だか頭の中がお花畑になってしまっているようだ。