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十七話

 死神との日々は惰性で生きているようなものだ。初めて会った日に死んでいたかもしれないのに、何も変わらずに過ごしている。


「周りにひずみが生じたりしないの?ほら、私が死ぬことで誰かと誰かが出会うかもしれないとか、あるでしょ?」

「残念ながら人生の全体の流れはそんなに変わらないよ。例えば君の葬式で出会うはずの人たちは、どこか別の場所と時間で会うだろうね」

「運命はかえられない?」

「人間が鳥になろうとしてもなれないけれど、飛行機に乗って空を飛ぶことは可能だよ。可能性のある範囲でならばいくらでも変えられる。現に今、君はこうして生きているわけだし」


 確かに自分は生きている。ただ死神に頼るなんて方法は常識の範囲では無いと思う。


「私が誰かと結婚して子供を産むことは、絶対にあり得ないってことだよね」


 結婚はともかくとしても、卵子に異常が無かろうが健康体であろうが、死んでいるはずの人から子供が生まれるなんて絶対にありえない。生まれたとしたら、その子供はもともと誰から生まれるべきだったのかと言う話になる。


 女性として生まれた時から持たされる、大きな選択肢。周囲の環境によるところも人生に多大な影響を及ぼすところも男性の比ではない。

 その選択肢がつぶれてしまったのは、残念なような、ほっとしたような気分になる。

 仕方がないと誰かに対しての言い訳にだってなる。


「やっぱり女性として子供は欲しかった?」


 死神は簡単に言ってくれるけれど、男性としての目線だ。


「出来ない事を悔やむよりはって今は思うけれどね。この先寂しいって思わないでいられる自信はないかも」


 上手に説明できないのが分かっているから、返す言葉もひどく適当なものになる。


 結婚観だの将来像だの、女友達ともそんなに話さない。生命の誕生とは対極にある死神にこんなことを話すなんて。

 疲れているのかもしれない。いろいろと考えすぎなのかもしれない。


 死神は骨だけの指を同じく骨だけの顎に暫く当てた後、なぜだか大きく頷いた。


「死神との子供が出来た事例が無いかちょっと調べてみるよ」

「………え?」


 死神は五円玉を持って消えた。

 ふんわりぼんやりとした結婚観を語っただけであって、別に死神とどうこうするつもりは全く無かったのに。


「私、そんなつもりで言ったんじゃない……」


 一人、部屋で呟いた言葉が響く。

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