十三話
「お見合い受ける気、無い?」
会社で上司に言われた言葉は理解するのに時間が掛かる言葉だった。
「え……っと、私どこかのご令嬢でも何でもありませんけれど」
父はしがないサラリーマン、一応課長らしいがほぼ年功序列で着いた役職だ。新人に教えるのがうまいから出世せずにいるんだと豪語しているが、後輩に追い抜かれたのを落ち込んでた時もあるくらい本当に只の一般人。
「このご時世でお見合いなんて重役の子供か、親御さんが熱心な場合くらいしかありえないと思っていたんだけどね。取引先の会社の社長の息子さんが……」
上司曰く、何度も見合いをしているのだが決まって相手の方から断れるらしい。そんなの私だってお断りだと言いたいけれど、軒並み同レベルの規模の会社は話が回っていて相手にされず、一段階下のうちの会社に来た話だという事だ。
会社同士のパワーバランスを考えるとお見合いの後で相性が悪いと断ることは出来ても、お見合い自体を断ることは出来ないらしい。
「本当にどうして私なんですか。ただの事務なのに」
「社長には娘がいないと油断していたら、独身の女性社員くらいいるだろうと言われたそうだよ。なりふり構っていられないらしくてちょっぴり脅しも入れられた」
嫌な予感しかしない。第一、社員を守るための上司が社員を利用してどうするというのだ。
「頼む、顔を立てると思って。嫌だったら断ってくれてもいいしそれで会社に居づらくなるようなことにはさせないから。どうせ付き合っている男性もいないんだろう?」
―――嘘も方便。私は死神の顔を思い浮かべ、きっと彼なら協力してくれるだろうと期待を抱いて答えた。
「今の言葉、セクハラとパワハラですね。いますよ、付き合っている人」
「へ?」
上司は有り得ないくらいに驚いている。私が異性と付き合っていることがそんなにおかしいだろうか。
「うそぉ。孤高の人って感じで色恋は一切関係ありませんって感じなのに」
フレンドリーなのがこの会社の個性だが、それにしてもこれはちょっと。そんなふうに思われていたのに少しショックを受けつつ私は不満を口にした。
「失礼な。とにかくお断りします」
「え、本当に。名前は何て言うの?」
そう言えば聞いた事なかったな。惚気も照れもない事務的な口調で私は答えた。
「プライベートに踏み込まれるのは嫌なのでノーコメントで。なりふり構わないなら相手から嫌がらせを受けるかもしれませんから」
こういう鉄壁じみたところがお堅い印象を付けるのかもしれないと思った。




