第三夜
プロットを考えながら文を書くこの無謀さたるや・・・
今夜もまた、常夜の町に来ていた・・・という訳ではない。
今日は、ベアトリクスと会った事で常夜の町について少し興味が湧いたので、放課後に取り敢えず常夜の町について何か知る手掛かりがないか市立図書館に来ていた。ベアトリクスが本当に実在の人物かどうかなんて調べようがないからね。
目ぼしそうなものを粗方調べて図書館を出ると、もう辺りは暗くなっていた。案外と時間が掛かってしまったが、連絡は入れたので心配させる事は無いだろう。
「しかし"不思議の国のアリス"とか久しぶりに見たな・・・。」
夢を題材にした作品では一番と言っていいほどに有名な作品だろう。様々な二次作品も出ていることだし。最も、あの夢の参考にはならないだろうなとは思いつつ見たとは言え、やっぱり参考にならなかったのだけど。
僕は帰り道をトボトボと歩きながら、今回の調査について考えを纏めてみる。
結果からいうと、判った様な判らない様な、と言った感じだろうか。この曖昧な表現になった理由は夢判断の本を見つけたためだ。
夢判断に照らしてみると、夜の町と言うのは状況によって違ってきたりするけど、例えば孤独感の現れだったり新たな出会いの暗示といった意味合い等があるらしい。
「まあ、友達は多いとは言い難いしある意味当て嵌まる・・・のかな?」
夢の中とはいえ出会いもあったし。しかし、どうにもしっくりとはこない。
僕が見た夢の内容を夢判断に照らし合わせると、概ねネガティブなベクトルを持つ夢とされている様なのだが、感覚で言えばポジティブなものの様に思うし、何となくだけど"それは正解ではない"とも感じている。夢が精神世界であるなら、この感覚というのは精神論として無下には出来ないと思う。
そうなると、この夢判断の結果は正しい解釈になるのか、と言う事については"懐疑的"といった程度に留まってしまう。
つまり、判った様な判らない様な、と言った考えになってしまうわけだ。
・・・それはそれとして、だ。
「この道、こんなに長かったかな?」
この通りは確かに長めの一本道ではあるが、ここまで長い道だっただろうか?
電柱の街灯と左右の民家の所々から漏れる明かりが日常を匂わせているだけに、先を凝らして見ても曲がり角が確認出来ない不自然さが、徐々に僕の胸中に不安感と恐怖感が這い寄りながら纏わりついてくる。
意図せず段々と歩みが早まる。やがてそれは小走りになるほどなった頃、先の方で人影が見えた。まだこの道に終わりが見えないが、少しホッとする。
「あ、あの、すいませ・・・」
声を掛けようとしたが言葉に詰まる。途中で気付いたのだ。その人影はユラユラと揺れていて、その上人の輪郭をしてるだけの存在なのだと。
僕はその事に気付いた瞬間に足を止めた。その影はその場を動かなかったが、思わず後ずさる。理由は分からなかったが、何となく危機感を感じ踵を返して戻ろうと瞬間、何かにぶつかり思わずよろけてしまった。
「痛った!いきなり何するのよ、お兄ちゃん!」
ぶつかった相手は一つ下の妹の日和だった。
「あ・・・れ?日和?何してるんだ?」
「それはこっちの台詞なんだけど?門の前でボーっとしてるし、呼んでも反応しないから殴ってみようと近づいたら、いきなり振り向いてぶつかって来たんじゃない。」
日和はやれやれと言った様に答えた。
門の前?言われて横を見ると自宅の門の前だった。僕は軽い衝撃と共に混乱する。ボーっとしてた?さっきのは白昼夢だったのか?それともまさか立ちながら夢でも見ていたのだろうか?仮に夢だとしても、いったいいつの間に?疑問は尽きないのに答えを導き出せそうにはない。そんな中、どうにか"ともかく混乱しながら正常に思考出来る筈もないか"という考えに至り、ひとまず先ほどの奇妙な事については保留とすることにした。
「はぁ・・・で、何で気付かなかったら殴ろうとするんだよ。」
「お兄ちゃんの教えだけど?」
「へー、それは何処のお兄ちゃんなのかな?部活の先輩とか?」
呆れた様な目を向けながら軽口をたたいていると、荒んだ精神が急速に落ち着いてくるのを感じた。日和は「ん!」僕を指差すが、そんな教えを授けた覚えは無い。
「ほらほら、忘れた?私が幼稚園の頃に耳の遠くなったじーちゃんに、聞こえないからってお兄ちゃんが殴って言う事きかせたっていう、あのレジェンドをさ~。」
「おい、嘘言うなよ!うちの爺ちゃんは耳が遠くなるどころか86になっても地獄耳じゃないか!しかも剣道の有段者で未だに鍛錬を欠かしてないから、殴りかかろうものなら逆にボコボコにされるだろ。」
あはは、と日和は笑いながら僕の背をポンと叩くと家に入っていく。日和はよくこうして判りやすい嘘で場を盛り上げたりする。ただしその時によくするドヤ顔がわりとウザイのだけど。
・・・もしかして、自分でも気付かぬ内に何か心配させるような顔になっていて気を使われたのだろうか?これはそのうち兄としての威厳を回復させる必要があるかもしれない。まだ無くなってはいない筈だし。・・・手遅れかもしれないけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付くと、僕は椅子に座っていた。手前には小さめのテーブル、隣にはタワー型の灰皿が備え付けられている。ガラスなのかアクリル板なのか知らないが、透明な仕切りで区切られた小さな一室の中だった。辺りは暗く窺い辛い、人気の無い常夜の町。
「喫煙スペースってやつかな。何でこんな所に・・・。」
個人的には、寧ろ近づきたくもないくらいに不快に感じる場所だった。ここはタバコの臭いはしないようだけど。
扉を開けて喫煙スペースを出ると、直接野外に出られた。野外に設置された喫煙スペースだったようだ。そんなのもあるんだな、と思いつつ僕は早速町を散策することにした。
今度はビルも幾つか見られるし割と都会の様だったが程々に田舎っぽさも残っているようで、大通りから小道に入っていくと結構大きめの畑も見られる。途中、幾つかの分かれ道を適当に曲がっていて思ったのが、丁字路やら三叉路など三又に分かれているものがやけに多い。
一体この町はどうなってるんだろうと思うと、町の全体像が浮かびかけたので慌てて頭を振って無視することにした。折角なので直接見て回りたいからね。
そういった訳で、大通りではなく裏路地を主に回っていると公園を見つけた。それ程大きいわけではないが、狭いと感じる程ではない。
公園では大体6~8歳くらいの大きさの子供の影達が遊んでいた。砂場で遊ぶ短髪の小さい子、ブランコを漕いでる女の子らしいスカート姿の子、ハンドボールサイズのボールで投げ合う少年らしき子達もいる。影姿という点を除けばどれもよく見られるような光景の筈なのだけど、何故か奇妙なものを見た気分になる。
そんな事を感じながら見ていると、一番手前の砂場で遊んでいた子供が僕に気付き近づいてくる。一瞬だけ身構えたが、すぐに一緒に遊びたいだけなのが分かったので安心して待った。
声は聞こえないが無邪気に"一緒に遊ぼうよ"と言っているのが分かるのだけど、どう反応したものかと思い戸惑っていると不意に背中を押される。振り返ると前にいる子より少し大きな子が、いつの間にか背中を押していた。いつの間に、と思ったら今度は前にいる子が手を取って引き始めた。
「何を・・・探検ごっこ?」
しきりに"探検ごっこしよう"と言ってるのが分かるのだが、よく分からない。いや分かろうとはしてるのだが、伝わってくるのは只管"ワクワクする事をする"と曖昧な事だけだった。少なくとも悪意は感じないので、具体的に何するんだろう、といった好奇心が膨らんでくるのを感じる。それに一つ考えもある。前にベアトリクスが紅茶とケーキを創り出した事を憶えていたので、それを子供たちを楽しませついでに何か作り出せないか試してみたいのだ。夢なのだから強く思えばそうなる筈だ。いや、前例はもう見たんだし、"筈だ"ではなく"なる"と断言できるか。
そんな事を考えていたら、それが分かったのか公園で遊んでいた子たちがワラワラと集まってきた。どうやら僕の考えが伝わったようで、みんなで一緒に念じて探検ごっこをするらしい。手を引いていた子は手を放すと、公園ではなく道路の先を指差して走り出した。早速始めるようだ。
集まってきた子たちと一緒に先陣を切った子を追いかけて曲がり角を曲がると、目の前に木製の階段が現れた。ギョッとして周りを見回すと、いつの間にか室内にいた。かつては華美であったろう壺や絵画にシャンデリア。ここは朽ちた洋館の入り口を入った場所の様だった。誰か屋敷探検みたいなことを思い描いたのだろうか。
「・・・あれ?人数が減ってないか?」
周りには辺りを見回している子達がいるが、どう考えてもさっきの半分くらいしか居ない。他の子は何処に行ったのだろう?そう思った矢先、残りの子は別館に居るのが分かった。館の上の階の奥にのみ別館に通じてる渡り廊下があるらしい。
そういう趣向なら、やはり分からない事は分からないままにするように、と強く念じて皆に言い聞かせた方がいいだろう。・・・伝わったかな?無事伝わったらしい。今は別館にいる子たちがどの辺りにいるとかは分からなくなった。
「じゃあ、僕たちも探検開始としようか。」
そう声を掛けると、子供たちはワクワクが抑えきれなくなった様で、ピョンピョンと飛び跳ねたり辺りをキョロキョロ見まわしたりと忙しなくなってきた。
よく3話で何か起きたり首が取れたりしてるので、取り合えず何か起こしてみました。(あれ?それはアニメの話でしたっけ?)
それで一体何を起こそうか、と考えた結果・・・中々思いつきませんでした。==:
しかも途中で切っておかないと突出して長い話になりそうになる程、望外に風呂敷が広がってしまうという・・・。うーん?^^;