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シャンテは音の鳴る方へ走り込む。
そして、足が止まった。
「こ、これは…」
シャンテの目には…
人を裂き、建物を壊す巨大なトカゲ。
手には大型のサーベル。
街を暴れまわっているのはこれだった。
「リザードナイト…!?なぜあれが…!!」
「ハァハァ…」
呆気にとられた表情で光景を眺めるシャンテ。
デュンベルンはようやくシャンテに追いついた。
「なんだよあれ!!!!」
「あれがダイゼル・ゾル帝国の生物兵器リザードナイトよ」
「リザードナイト…!?」
「そう、パラキナ族を遺伝子改造した改造生物よ」
「遺伝子改造…、それは生命のあるべき形を無理やり組み替えたってことか?」
「ええ、そういうことよ」
「酷いな…これがダイゼル・ゾルのやり方なのか」
パラキナ族。
その言葉の意味をデュンベルンは理解できていなかったが、
生命あるものを無理やり遺伝子改造することに関して大きな怒りを覚えていた。
「あなたは帰って、ここは危険だわ」
「シャンテ、お前は」
「決まっているでしょ」
シャンテは前に踏み込む。
「あのリザードナイトを倒すわ」
「待て、お前一人じゃ無理だ!!あんなの!!」
「何度も言わせないでよ…言うこと聞いて!!」
デュンベルンの呼びかけに応じることを止めるシャンテ。
シャンテはリザードナイトの前に立ちはだかる。
「こっちよ」
右足を引き、左足を前へ。
右手を後方に引き…
「アクアショット!!!!!」
思いきり右手を前方に放出した。
「ググウウゥゥォオオオッッ!!!!!」
後頭部に直撃した水霊術に反応したリザードナイトはシャンテの方を見る。
シャンテの目的はこれだ。
こちらへ注意を引き、周りへの犠牲を避ける。
後は目の前のリザードナイトを倒すだけ。
「…」
リザードナイトと戦うシャンテ。
それを見てデュンベルンは戦いに参加できないことを悟っていた。
シャンテの言われた通りここは逃げるしかないのか…
そう思っていると。
「…あれは」
シャンテが戦うリザードナイトの先に。
長いつばの帽子を被った女性がいた。
それは今朝シャンテと合う前に道を尋ねてきた女性。
「いけねえ…助けないと!!」
デュンベルンの足は前に動いた。
「ちょ、デュンベルン!!」
それに気づいたシャンテはデュンベルンに声をかける。
「言っちゃダメ!!危ないわ!!」
「でも、助けねえと!!」
シャンテの警告を振り切って前へ進むデュンベルン。
行く手を阻むのはリザードナイト。
「ちょっと!!」
リザードナイトはデュンベルンに気付き、
巨大なサーベルを振り下ろす。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
デュンベルンは思い切りリザードナイトの股下に飛び込んだ。
サーベルが地面と衝突する。
その反動で飛び込んだデュンベルンの身体は前方に一回転する。
幸い立ち上がれたデュンベルンはリザードナイトを通過する。
「グウゥ……」
リザードナイトはそれを追いかけようとするが。
「させない!!」
シャンテの眼は茶から蒼へと変化する。
巨大な円盤の刃がシャンテの右手から出現する。
「アクアブーメラン!!!!!」
シャンテが放った水の凶器はリザードナイトの右腕を捉えた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
リザードナイトの足が止まる。
「おい、大丈夫か!!」
デュンベルンは帽子を被った女の元へとたどり着く。
「あら、先ほどのお人じゃありませんか」
女は帽子を深く被っていた。
そして、この状況がないかのように振舞っている。
「ああ、そうだ早く逃げるぞ!!」
「先ほどはありがとうございました。おかげで探していた場所が見つかりましたよ」
「そんな呑気なこと言っている場合じゃねえ!!お前は目の前にいるあの化物が見えねえのか!!」
「化物…?」
女は首を傾げる。
「"リザードナイト"のことでしょうか」
「ああそうだ、って知っているのか!?」
「知ってますよ、だって」
女はそう言って帽子から顔を見せる。
「私のペットですから」
「なッッッッ!!!!!!???」
デュンベルンは呆気にとられる。
「あ、あなたは…!!!!!!」
その時、シャンテは女の顔を見て声を上げた。
「ダイゼル・ゾル帝国一の魔女、カミラ・ヴァルニエ!!」
「おや、もうリザードナイトを倒してしまったのですか」
シャンテの後方には動かなくなったリザードナイト。
カミラはそれを見て感心していた。
「なぜ、あなたのような人物がここにいる!!」
「ちょっと下見をしに来ただけですよ。変なことはしていません」
「敵国であるということを忘れているようだな」
シャンテは右手親指を立て、人差し指を前方に向ける。
「止まれ!!お前を国家不可侵罪で捕まえる。動けばただですまないと思え」
「はあ」
カミラは一息つき。
シャンテを目を見つめる。
すると。
「ッッッッッ!!!!???」
「これでもですか?」
シャンテに問いかけるカミラ。
シャンテは何故か体が動かない。
「シャンテ!?」
「今日はこのくらいにしておきます。また、会いましょう」
「消えた…」
呆然とデュンベルンはその場に立ち尽くしていた。
壊れた建造物に巻き込まれた人々の無残な姿。
「なぜあの女がこの国に…どうやって…なんのために…」
シャンテは呟いていた。
だが、すぐにデュンベルンの顔を見て、決断する。
「とりあえず、基地に向かいましょう。話はそれからよ」
「あ、そうだな」
二人は足早に基地に戻ろうとする。
すると重い鎧を身に纏った20代後半の男が前方から走ってくる。
「遅かったですね…」
「スタイン騎士団長」
シャンテが名前を呼んだ男は続ける。
「何があったかお聞かせ願えますか」
シャンテは先ほど起こった出来事を事細かく話していく。
「何と…」
スタインは言葉を失くした。
「これは由々しき事態ですね。バルバード少尉、私たちは現場検証をしますので申し訳ありませんが基地の方に戻り、状況報告を依頼してもよろしいでしょうか?」
「私もちょうど報告に行こうと思っていたところです。快く引き受けます」
スタインはチラッとデュンベルンの方を見るが、特に何も語らなかった。
街の人々は騒ぎが収まったことに気付いたのか。
皆外に出て様子を見ていた。
デュンベルンがこの星に来て1日後の出来事だった。