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「どうするの?あなた無理やり軍隊に入れられちゃうわよ?」
「どうするって、嫌に決まってるだろ」
基地を出た二人はすぐに話し合った。
あまり大声で言うと周りに聞こえてしまうのでやや小さな声で。
「それにしても驚いたわ。あなたを軍隊に入れるって」
「何でだ?いくら俺が宇宙船のパイロットだからといってどこの馬の骨かも分からないんだぜ。そんなにオリドは人が足りないのか」
「私にも分からないわ。ただ何となくだけど、あなたの存在自体が脅威なんじゃないかしら」
「脅威…?」
デュンベルンはよく分からなかった。
なぜ、自分が脅威となり得る存在であるのか。
シャンテは答える。
「異星人っていうのはそういうものよ。どんな力、技術を持っているのか分からないでしょ」
そういえば長官は知りたそうに自分の事を聞いていた。
そういうことだったのか、とデュンベルンは納得した。
「あなたを手放したくないのは確かね」
「やっかいなことになったな…」
デュンベルンの答えは決まっていた。
「助けてもらって何だが、ここで死んじまったら本末転倒だ。すまないが俺は断るぜ」
特に今、何かしたいことはない。
だが、思い入れのない国のために死ぬのはまっぴらごめんだった。
「そう…。そうよね、あなたがこの国のために尽くす意味はないものね」
シャンテはやや元気のなさそうな声だった。
「無理に付き合うことはないわ。長官には私から言っておくから安心して」
「…」
そうは言っているものの浮かない表情のシャンテにデュンベルンは気になっていた。
「…大丈夫なのか。それで」
「どうして?」
「さっきワイオレンに圧力かけられてただろ?俺が軍隊に入らなかったら...」
デュンベルンにだって分かっていた。
「だ、大丈夫よ。それはあなたが心配することじゃないわ」
「…」
デュンベルンは考えたようにしばらく黙っていたが、答えが出たのか口を開いた。
「この国、いやこの星の歴史を教えてくれ」
「え、デュンベルン…それって…」
「とりあえず軍隊に入るか入らないかはそれを聞いてからだ」
シャンテはそれ以上何も問うことはしない。
デュンベルンの親切心を無下にすることはどこか失礼な気がしたからだ。
「あなた以外と優しいのね」
微笑むシャンテ。
少しデュンベルンは照れた。
「分かったわ。この先に私の行きつけの飲み屋があるの。そこで話しましょう」
デュンベルンとシャンテは一軒のバーに入った。
時間は昼、この時間にはあまり人はいない。
「じゃあまずは何から話そうかしら」
シャンテはしばらく考えると。
「私たちガント人もあなたと同じ宇宙人。ってところからかしら」
「私たち…じゃあシャンテもか?」
「そうよ」
「…」
衝撃に言葉を失うデュンベルンにシャンテは続ける。
「私たちガント人は住む星を求め、宇宙をさまよっていた。
総員は詳しくは分からないけど、町ができるくらいの規模の大船団だったわ。
ずっと協力して生きてきた私たちだったけど問題があったの。
有限資源の限界よ。住める星もなければ有限資源が増えることもない。
それで行われたのは口減らし」
「…」
「口減らしをされたのは私たち。私たちは"宇宙の捨て子"だったの
突然別室に入れられたと思うと、その部分は本体から切り離された」
「残酷だな」
「そうね。でも、神は私たちを見捨ててなかったわ。
この星に辿り着いたのは本当に奇跡だったのよ。
本当に運がよかった。この星は私たちにとって十分に住める星だった。
でも、住める星には当然生き物がいる。この星には精霊という原住民がいた。
この星に住んでいた精霊は私たちに対して何を求めるでもなく、優しくしてくれた。
しかもそれだけでなく、私たちに精霊の加護を与え、精霊魔術を教えてくれた。
こんなに国同士が栄えているのもすべて精霊魔術があるからこそなのよ」
「精霊魔術…それってどんなものなんだ?」
「例えば…」
シャンテは空のグラスを左手で持つ。
「見ててね」
そう言ってシャンテは右人差し指をグラスに向ける。
すると…
チョロチョロと人差し指から水が出てきた。
「おお…」
「これが精霊魔術よ。ちなみにこれは人によって違うわ。
私の場合は水の精霊の加護を受けた水霊術よ」
「すごいな。こんな力を持っているだなんて」
「すごいわよね。でも、この力を持ったガント人はさらに強い力を求めるようになった。
人々は精霊の力を悪用し、この星を無理やり自分たちのものにした。
この星をガントと名付け自分たちがこの星の祖であるガント人と名乗り始めたの」
「ずいぶん自分勝手だな」
「どうしても力を示したかったのね。自分たちが宇宙の捨て子であった過去に縛られ、この星での存在を明確にしたかったんでしょう。
もちろんこれには精霊は反発したわ。だけど、いつの間にか精霊には手に負えないほどガント人の力は強くなっていた」
「…」
シャンテは続ける。
「それに見かねた精霊たちは次々と私たちの前から姿を消していった。
ガント人が住む国から遠く離れ、人のいない場所でひっそりと暮らし始めたの。
さすがにそれを危惧したオリド共和国を含めた各国は精霊との共存を図るため、精霊の悪用をしない条約を締結したわ。
しかし、それに反対する国もいたわ。それがダイゼル・ゾル帝国。
ダイゼル・ゾル帝国は精霊によって発展してきた大帝国。
精霊によってなりたっているからこそ賛同出来ないのは当たり前よね。
まあ元はといえば私たち全人類の問題ね。それに振り回されている精霊はたまったものじゃないわ」
「それでオリド共和国は精霊のためにダイゼル・ゾル帝国と戦争中って訳か」
「そうよ。私たちは先祖の行ってきた過ちを正さなければならない。あれだけ自分勝手なことをしてきたんだもの。
これ以上、そんなこと許すわけにはいかないわ」
「なるほど」
デュンベルンは納得したように頷く。
「一通り聞いたところの感想は、精霊はガント人の争いに巻き込まれた可哀想な奴らってとこだな」
「それは十分分かってるわ。さっき言ったように精霊は私たちに関わったせいでこんなことになっている。
だからこそ、この争いを終わらせて精霊と共存していきたいの」
「こんなことを言っていいのかは分からないが、その考えには賛同できないな」
「…」
「所詮シャンテの言っていることはガント人としての考えだ。その中に精霊が言ったことはあるのか?」
「…」
「ないだろうな。精霊はガント人と共存する気などない。これだけ自分たちの星をかき乱されているんだ。
もう関わってほしくないくらいガント人が憎いことだろう」
「それは…」
「まああくまで今のは俺の客観的視点だ。俺が精霊だったらこう思うってだけだ」
「…」
デュンベルンははっきりと言う性格だ。
それに対してシャンテは反論しなかった。
「素直な意見ありがとう。あなたみたいな中立的な存在がこの星を平和に導くのかもね」
シャンテは感謝の言葉を述べる。
とはいえこれだけのことを言われてややシュンとしていた。
こうしてしばらく気まずい空気が漂っていると。
ドオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!
「な、なんだッ!?」
大きな爆発音が外から聞こえてきた。
シャンテは音の場所を感じ取る。
「近い…広場からかしら」
シャンテは立ち上がる。
「あなたはここで待ってて」
「おい、まさか一人で行くのか?」
「止めないで、この国を守るのが私の仕事よ。いいからあなたはここで待ってて」
「お、おい!!」
シャンテはそそくさと店から出て行く。
デュンベルンも追いかけようと思っていたが。
「お客さん、お金」
「あ…」
この星に来て間もないデュンベルン。
もちろんお金など持ち合わせていない。
「シャンテえええええええええええ!!!!
金置いてけええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」