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語るは道化、愚かしや

作者: 銀狼

 私という人間は非常に厄介なもので、どうにも世間一般の感覚とは反りが合わないようなのです。小説や漫画を(たしな)みますが、周りの者とはとんと趣味が合いません。どのグループにてもそれなりに振る舞うことはございますが、どうにも素の自分とは程遠いように感じてならないのです。

 そんな私でございますので、恋愛というものには本当に縁が無い。経験? 物語の世界にて数多の追体験をしてございますが、現実ではただの一度も。

 そんな身の上ではございますが、最近ちいと事情が変わりまして。(うつつ)の世に少しばかり気になるお方がいるようなのです。

 本来この身は幻想の世界に在らず、ただ現に在るのみ。いい加減現に生きねばならぬかとも考えるのです。そう考えると、これは良い機会ではないかと。幻想の世界のその外へ出る、良い機会でございましょう。

 嗚呼(ああ)、しかし、思い返せばこれまでの人生、現の麗人と関わることなどさしてなく、ましてや己から声をかけることすらありませんでした。

 お近づきになれればと思うことはあるものの、中々機会に恵まれず。そんなある時のことでございました。同僚達との食事の席にて、私も()の麗人も早めに席につきまして。ここはちょっと攻めてみようかと彼の麗人の隣に何食わぬ顔で腰を下ろしたのでございます。

 そんな程度と思われるかもしれませんが、私にとっては一大事でございました。泰然自若としているように装いながら、内心穏やかならぬ一時でございました。

 しかしふと思うのです。そうして己で己を御しきれぬ感情というものは、(いささ)か私の手に余る代物ではないのかと。人間を辞めかけているかもしれない自覚がないではないですが、私もまだ人間でございます故、恋愛したくない必要ないとは申しませんが、しかしどうにも違うような気がしてならぬのです。

 例えば物事が順調にいったとして、彼の麗人と付き合うことが決まったとして。きっと私はそこで満足してしまうでしょう。その先はありません。冬の夢からの目覚めの(ごと)く、ふっと熱が冷めてしまうことでしょう。

 夢物語の大恋愛がしたいわけではございません。見てる分には面白いですが、いざこの身に降りかかるとなったならばまぁ間違いなく鬱陶(うっとう)しく感じられることでしょう。

 しかして現実を見たならば、成して空しく感じられるのもまた自明なのでございます。何だこんなもんなのかと、覚めてしまうのが見えているのです。

 やはり私には、恋愛など向いておらぬのです。手の届かぬものに恋い焦がれ、遥か遠くの夢を見る。

 さながら私は、道化の愚者でございましょう。

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