宿営地にて
お久しぶりです。なるがうすです。
一昨日からテストであまり見直し出来てないので、多分いや絶対おかしなところあると思うんですが、投稿させていただきます。
寝心地の悪いテントの中で目を瞑ると、脳裏に一時間ほど前の出来事が浮かび上がってくる。
────明日の早朝、ゼティー村の人達は央都『セルニア』に避難してもらう。故郷を離れるのは悔しく、辛いと思うが、我慢してもらう。
老騎士ブロムが村長宅の前の大広場でみんなの前でそう宣言した。
それから四人一組に分けられテントを配られた。
安物のせいか、風が吹く度に支える骨がギシギシと唸り、眠れたものではない。しかし俺以外のみんなは、イビキなどをしながら気持ちよさそうに夢の中にダイブしている。
もしかしたら、早く寝てしまった方が吉なのかもしれないが、あの宣言を聞いてからどうしてもしたいことが一つあった。
それを胸の奥に押し込むために、小さく溜息をしてから、小人じゃないと分からない程の小さな声で囁く。
「今日でもしかしたら最後かもな……」
確定ではないが、もしかしたら避難してから俺達はずっと央都で暮らすのではないだろうか。
確かにあそこに住めれば、平和で何不自由ない生活が送れるだろう。話に聞く限りだと、農作業や狩りも、専門の職業の人達がやってくれるので、やらなくてもいいらしいし、何より周囲の危険は軍が守ってくれるから、今回のように賊に襲われるということもまず無いだろう。
でも、やっぱり故郷のこの村を離れるのは抵抗がある。俺は急に心細さに包まれ、もう一度じっくりこの村を眺めたい。という欲求に襲われた。
俺はそれに全く抵抗しないで、テントの中からランタンと念のため木剣を取り出し、外へ出る。
ランタンに火をつけて、道場院へ向かうために軽い傾斜を歩く。時刻はもう十一時を過ぎているのに、辺りは虫やカエルが過労営業じゃないかと思うほど演奏の中、汗を拭って坂を登る。
どのくらい歩いただろうか。つい数時間前に死にかけた道場院前に到着したが、耳をすませてもここだけは先程のうるさい程の虫の声もカエルの叫びも聞こえない。
鼻にはツンとくる焦げ臭い香りと血の匂い。その瞬間体が身震いをして少し冷えた体を擦る。
そんな時、帝国森林の方から背中を刺すような、視線を感じてそちらの方へ向き、抜刀する。
何かを警戒するような目線。敵か味方かかも分からない。もしかしたら抜刀するのがそもそも間違いではなかったのではないか……?
今更考えても仕方が無い。
自分にそう言い聞かせ、木剣を構える。呼吸を整え、敵の出方を予測する。
耳が痛くなる程の静寂。それが俺の緊張を強くする。
早まる鼓動とともに、それが最大になった時、シャラン。と鈴の様な音が三つの光の点が蛍となって、宙を舞い、こちらへ飛んでくる。
────属性弓!?
属性弓とは、属性術と弓を組み合わせで、また弦が三本あり、それぞれ独特の音色と、光を放つ面白い武器だ。弓よりも軽く、使い勝手がいいが、弓よりも威力と速さで劣るため、白兵戦になった瞬間ガクンと戦力が下がるのがデメリットだ。
俺はそれに持ち込むために、属性力を刃に込めて浮遊物を爆風で吹き飛ばす。
そのまま自分で出した風圧に抗い、相手の方へ斬り込みに行く。再び属性力を剣へと流し込み、この夜空のように暗かった刃が一瞬で真紅の炎へと姿を変える。
熱気とともに風を、夜を、斬り裂く刃がそれに触れようとした瞬間、ふと背筋に変な違和感を感じた。
若い。というか幼い。俺よりも年下なのは明白だ。肩幅も小さく、何より夜空を照らす月の様な髪にはに見覚えがあった。
気合と根性で、必死の一撃を中止させる。それと同時に訪れる関節の悲鳴を飲み込み、なんとか止めた剣を鞘に納刀する。そして、俺の方に属性弓を向ける儚げな少女にランタンを向ける。
「ヒロ?」
恐怖と怯えの表情を全開にした少女が、俺の顔を覗いてくる。緑色の瞳と目が合い、俺は顔を明後日の方向へ向けながら、あぁ。とぶっきらぼうに答える。
「ご、ごめんなさいヒロ。私てっきり賊の方達が襲ってきたかと思って、その……剣持ってたし………」
「俺の方も怖い思いさせて悪かったな、セア」
セアは何故かモジモジしながらそれに頷いて応える。
「モジモジしてどうかしたんか?」
俺そんなに怖かったのか。と自分の人でなし感をずっしりと感じながら反省をし、長い溜息をついた。
「その……この村離れるのが心細いから歩いていたら……ト…」
いきなり顔を伏せてしまったので、首を傾げてしまう。
「と?トランプでもしたくなったんか?」
「ち、違います!!」
いきなり涙目で俺に叫んできてから、再びモジモジを開始した。
「だからトイレ行きたくなってしまって……でも真っ暗の中行くの怖くて……」
顔を青ざめている俺とは対照的に、セアは羞恥なのか、憤怒なのか分からないような表情でつぶやく。
「お、お前、それならテントの近くにあっただろうが!!なんで行かなかったんだよ」
俺は説教っぽくセアにガミガミ言うと、セアは金色の髪を揺らしながら首を横に振る。
「なんだよ。言い訳なら聞いてやるけど……」
セアはこくこくと頷いてから桜色の唇を尖らせながら、小さな声でつぶやく。
「本当は行こうとしたんですけど、引き返すのが怖くなってしまったので……その…ここまで来てしまいました……ようやく行けると思ったのに、どうして邪魔するんですか!?」
────俺なんで怒られてるんだろう…?
内心大きな溜息をつきながら、どう返そうか迷う。正直に答えるか、それとも上手く流すか。だが、俺の頭では後者の方が出来るはずがないと悟り、道場院を仰ぐ。
「俺も同じだよ。勿論邪魔する気なんて毛頭なかった。でも、明日からこの村を出るのが悲しいから、最後にここを拝もうと思ってな……ってセアお前大丈夫か?」
内股の金髪の少女は、訝しそうな目で、こくこくと頷き道場院へ足を運ぼうとしていたので、俺は邪魔だと思い元の道へ戻る。
「────ま、待ってくださいヒロ」
彼女の手が俺の袖先を掴み、クイクイと軽く引っ張ってくる。仕方なく振り返ると、顔をトマトの様に赤くして俯いている少女が、つっかえながら呟く。
「一人じゃ怖いので、あの…その……一緒に来てもらってもいいですか?」
「まぁ暗いしな。仕方ない……へ?」
夜風に揺られる木々の葉が、音を濁らしたのだろう。俺は耳を疑い、俺の聞き間違いだろうと思い聞き返す。
「だから、トイレの前まで一緒に来てもらってもいいです…か?」
俺は顔の表面から、湯気が出そうになるほど熱くなるのを感じ、道場院とセアを交互に見る。
「こ、こ、怖いなら仕方ないな。あぁ、全くもって仕方が無い。で、でもそれは流石に……」
俺はゆっくりと帰路に戻ろうとした時。またしても、俺の袖先を掴み、先ほどと同じことを繰り返してくる。
「ヒ、ヒロ。ごめんなさい、私そろそろ限界……」
────ええい、なるように慣れだ!!
俺は彼女を力任せに担ぎ、玄関まで走る。そこで靴を脱ぎ捨て、トイレに直行。セアを放り投げ、扉を閉める。俺は肩で息をしながら、閉めたの扉に背をつけ、座り込む。
「……し、死ぬかと思った……」
『楽しそうで何よりだな』
右肩から炎と共に現れた緋色の鳥が、可笑しくてたまらない。という表情をしながら話してくる。
「こちとらマジでヤバかったんだぞ。あいつももう十歳何だから、そういうの我慢してほしいぜ……」
十歳なら仕方ないだろ。とフェニクスが呟くのを合図に、俺は立ち上がり、二階へ足を運ぶ。
ギィと少し錆びて、変な音をあげる蝶番の悲鳴を聞きながら、扉を開ける。
────いつもみんなで悪ふざけをした子ども部屋。
────起床時間になると起こしてくれる振り子時計。
────質素なベッド。
物心ついた頃から何も変わらないこの光景を、もしかしたら一生見られなくなるかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうになった。
次に二段ベッドを登り、窓から緑に生い茂る森を眺める。窓を開けると、少しジメジメした湿っぽい風が頬を撫でる。それを少しくすぐったく感じながら、小さく誰にも聞こえないようにため息をついた。
────当たり前のことがこんなにも悲しく感じるなんて……
『別れを悲しめるということは、そこを大切に思っていたという事だ。だから、そこを大切に思えば思うほど、別れも悲しくなる。でも、それは決して恥ずかしいことでも、ましてや可笑しなことじゃない。少なくとも、さっきのお前よりはな』
「大きなお世話だ」
フェニクスの頭を軽く撫で、そう呟く。
「ヒーローーどこですかーー?」
下からセアの声が響き、小さく微笑んだ。俺にはまだみんながいる。場所は変わっても大丈夫だ。
心からそう感じ、階段を軽快な足取りで降りる。
その後二人で道場院の話をしながら帰路へ向かう。辺りは暗く、不気味な獣の鳴き声などが散々鳴り響いている中で、二人が歩くところだけは、明るく賑やかだった。
ランタンの灯りが消えそうになった時、何とかテントに到着した。
まだ話していたい。心からそう思うが、それだと流石に明日に響く。俺だってこんな時間まで起きていたことなんて、あまり無いというのに、セアなんて特にそうだと思う。
俺達は手を振りながら別れ、元のテントへ戻る。
中はイビキの嵐で、眠る気を削ぎ取られたが、目を閉じてみるとすぅーと眠気に襲われ、そのまま夢も見ずによく朝を迎えた。
「ヒロ……起きて、ヒロ…… 」
「んにゃ、あと五分」
シュラフをドンドンと叩かれ、俺は止む無く目を覚ます。まだ、瞼が重いが、二度寝する気にもなれなかったので、体を伸ばす。
「んーあ、ソラか。どうした?」
何故か久しぶりに会うかのような感じを覚えながら、幼馴染みに朝の挨拶をした。
「うん。おはよう。あとヒロ、言いづらいんだけど……セア起こしてもらっていい?」
彼女の名前を聞いた瞬間、俺はコクリと頷き体を起こす。そのままセアのいるテントへ向かう。
「それよりヒロ」
向かっている最中に、何故かニヤニヤしているソラの目線に嫌なオーラを感じ、変に緊張する。
「昨日は大丈夫だった……?」
それを聞いて、俺は耳まで真っ赤にしながら昨晩の一件を思い出し、しどろもどろになる。
「昨日セアと何にもなかったぞー。本当に、うんそう。絶対」
「……何があったの?僕ただ君の傷のこと聞いたんだけど……」
「────へ?」
傷のこと?
頭パニック中の俺には、そんな単語は今辞書の中に入っていなかった。
「き、傷!?傷ってなんだっけ……あれ?」
「ヒロ、ゲシュタルト崩壊してるよ……意味違うかもしれないけど……」
ソラが更に俺の頭をパンクさせる言葉を使って来る。オーバーヒートした頭を冷やすため、話題を切り替える。
「んなことより、ソラ昨日は眠れたか?」
凄く微妙な表情のソラが、引きつった笑顔でうん。と答え、ヒロは?とこちらに質問を返してくる。
「お、俺は昨日セアと何にもなかったぞ」
そう口にしてから、墓穴を掘っていることに気づき、先程の焦りが目を覚ます。
「ヒロ、昨日セアと何があったの?怒こるからちゃんと話して」
「こ、これって話さなかったら……?」
彼はまるで太陽のように眩しい笑顔を咲かせながら、さも当然のように頷く。
「うん。怒るよ」
────無情だな……
俺は、昨晩の一件を詳細に話した。詳細と言っても、トイレのことは話したら、本当に殺されると思ったので口には出さなかったが……。
「はぁ。なるほど。はぁ。」
頭を抱えながらため息をつくソラを、眺めていると、もしやこのままこっそり帰れるのでは、と悪知恵が働き忍び足でそこから離れる。
「はぁ……って、ヒロ!!」
それは見事に遮られ、少し殺気のこもった目で俺をゆっくりと撫でる。
「まぁ、帝国軍の方達に迷惑にならなかったからよかったけど、もしも道場院に昨日みたいな賊がいたら、もう凄く大変なことになっていたんだから、今後はこういうことはないように気を付けて」
肩を竦めながら俺は、はい。と呟き、小さくため息をついていると、目的のセアのテントについた。そこでは数人の大人が頭を悩ませていたのが、手に取るように分かり、少し口元を緩める。
「ちょっとごめんなさい、とーりまーす」
大人達の間をくぐり抜け、テントの中に入ると、半裸状態のセアが、穏やかな表情で囁くような寝息を鳴らしながら寝ている。
「起きろー、もうそろそろ飯だぞー」
爆睡しているセアの肩を揺すりながら俺は、懸命に起こそうと努力するが、やはり俺の期待には応えてくれそうにはない。
頬をつんつんとつつくと、可愛く微笑む。
────お、そろそろ目を覚ますかな?
懸命に続けると、セアが重そうな瞼を開け、潤っている瞳が
俺とソラを交互に見てから、トマトの様に顔を真っ赤にしながら俺の頬をつねってくる。
「い、痛い痛い」
「またもやこのような辱めを……」
「おぉー、もっと荒れてると思ったけど、やっぱり俺の子どもたちは逞しいな」
聞きなれた声と共に、俺の頭をポンポンと優しく叩くその男性の手を、俺はギュッと掴む。
「今頃になって飄々と帰ってきやがって、このバカししょー!!」
狂者の羽衣を出現させ、全力でししょーに殴りかかる。それを片手で受け止められ、少し表情が曇りながら、再び口を開き始めた。
「状況はブロムさんから聞いた。済まなかったな」
それが助けに行けなくてなのか、それとも俺達がテイマーになってしまった事なのか分からなかったが、とりあえずもう一回殴りかかったが、それも片手で受け止められた。
「飯食ったらもう行くらしい。出来るだけ早く行きたいらしいから、早く食いに行くぞ」
セアはまだ少し頬を膨らましているが、なんだかんだ言って着いてきてくれている。
この光景を懐かしく感じながら、俺達は少し離れた宿営地へと足を運ぶ。
あと、一~二話ぐらいで、第一章終わります。これからの展開頭では浮かんでいるけど、それを書ける実力が俺の右手にあるのだろうか……w
これからもよろしくです。