帰還
なるがうすです!!
いやぁ〜最近は色々ありました。自分が大好きなロックバンドのライブへ友達と行ったり、誕生日を迎えたりと本当に色々……
俺は深い眠りから目を覚ました。床は硬く匂いは木と人間の匂いが混ざったような独特な感じ。もっと眠っていたい欲求を抑えて重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
「おはようございます。ヒロ」
まず耳に入ってきたのは凛としいるが、どこか幼げさを捨てきれていない雰囲気を残す少女の声だった。
「ふぁ〜おはよーセア。風邪は大丈夫なのか?」
目を擦りながら昨日までの熱に魘されていた光景が脳裏に浮かび、俺は体の中で手招きしてくる睡魔を一旦吹き飛ばして俺は瞼の重量を軽くした。
「はい……お陰様でまだ頭がクラクラする時がありますけど、熱はもう下がりました」
話しながらまさかセアに起こされる日が来るとは……と内心少し悲しくもあり、嬉しくもあるこの気持ちは穏やかに混ざりあって中和した。周りを見渡すと部屋にはたくさんのシュラフが一つだけグチャグチャになっているものもあるが肝心な人が俺達以外に一人もいない。俺は回転の遅い頭をフル回転させて我ながら自分の鈍感さに殴りかかりたくなった。
「セア、アル兄とソラは!?」
緊張している俺とは裏腹に、彼女はゆっくり顔を綻ばして頷いた。
「大丈夫ですよ。二人とも無事です。まぁ、今朝ヒロを運んできた時は正直焦りましたが、今は外で元気に警備をしてくれています」
俺は何故かセアに対してはとても弱くなってしまう。強気になれないというか、守ってあげなくちゃと思うのに、支えて欲しいとも思ってしまう。その感情に対してどう向き合えばいいのかわからず、俺は「ちょっとあいつらと会ってくる」とセアの頭を優しくポンポン叩きながら部屋を出た。
***
あの時、ヒロの体から真っ赤な着物みたいなものが現れて、僕は恐怖しか感じられなかった。まるで猛獣をまじかで見ている様な感覚。今でもあれを思い出すと鳥肌が立つ。
────ヒロとどう接すればいいんだろう?
悩みながら、小さく長いため息をつきながら双眼鏡を覗く。昨晩とは違く、今の森はまるで何かの予兆かのように静寂に包まれている。たまに鳴いている小鳥のさえずりがうるさい程度に。
「おーいソラー」
屋根の上から一生懸命警備をしているのに、後ろから呑気な声がして僕はビクっと体を猫のように震わしてしまった。本日何度目かのため息を混ぜながら双眼鏡から目を離す。そこには無邪気に笑う黒髪の少年が、何も無かったかのように立っていた。
「なんだよヒロ脅かさないでよ」
僕が控えめに言うと、ヒロはニガムシを噛んだような表情をしながら僕の隣で胡座をかいた。僕はまた双眼鏡に目を向けて言葉を探す。ヒロも何も思いつかないのか喋ってくれない。この状況が正直気まずくまたため息を吐きそうになる。
『お前らいつもはもっと話してるだろ』
どこからともなく聞こえた猛禽類の様な甲高い声に、驚き飛び跳ねながらも抜刀をして周りを見渡した。
「ば、馬鹿、出てくるな!!」
ヒロは焦ったように何もいない場所に叫んでいる。僕は内心首を傾げるも警戒を強くした。
手には冷や汗が滲み出て、頭では昨晩の光景がフラッシュバックする。
────目の前でヒロの右手がグチャグチャに踏み潰され、お腹には深々と突き刺さっていた剣。なのにそれを見ることしか出来なかった僕────
僕は呼吸の間隔がだんだん短くなるのを感じなからもそれを抑えようと深呼吸をする。やがてヒロが苦笑しながらこっちに顔を向けてくる。
「なんだよヒロ。また何かやらかしちゃったの?」
ヒロは言いづらそうに目線を逸らして唇を尖らせる。そこからは鳴りもしない口笛が無音を奏でていた。これは彼の嘘を隠している典型的な仕草だ。
「ソラ……あの……怒らないで聞いてくれよ?」
ほら来た。何を言い出しても驚かないと、空に輝く太陽に誓って僕は頷いた。
「マズイ場合は本気で怒るから安心して」
目だけをそっちの方へ向けて手早くそう言ったが、どうやら相当深刻なのかそれを無視され、ちょっと唇を尖らせる。
「じ、実は……俺……」
『コイツ俺のテイマーになりやがったんだよ!!』
いきなりヒロの右肩から真っ赤な鳥が現れて僕は尻餅を着いた。
「ば、馬鹿だからお前出てくるなって言っただろ!!」
ヒロはその真っ赤な鳥に指をさしながら注意をしている。僕は文字通り目が点になってしまい、少し意識を別世界に飛ばしてしまったが、直ぐに帰ってきて立ち上がろうと四肢に力を入れた。
「ななな何でお前が俺のことテイマーって教えちゃうんだよ!!俺が勇気振り絞って言おうと思ってたのに……」
肩を落としながら、嘆くヒロを見て僕は吹き出してしまった。
「おいソラ。笑うことはないだろ。こっちは真剣に困ってるんだよ」
ヒロは猫のように毛を逆立たせた。すると、身体の周りから薄く真っ赤な羽織が現れて僕は少し後退りをしたがすぐに消滅した。僕はそれを確認したら安心してしまい一息ついた。
「そんなのしらないよ。そんなことより……」
僕はいつもの様に顔を引き締めて少し睨むようにヒロの目を見て怒ろうとする。すると、彼も直ぐにそれを察したようで、背筋をピンっと伸ばして申し訳なさそうな顔を作る。実際コイツはもう怒られなれているので、瞳の奥で面倒臭い。と嘆いているのも目に見える。
「テイマーってどういうこと?」
夏の少し暖かい風が僕達の間を気持ちよさそうに抜ける。
ヒロは顔ではほら来た。と得意げの顔をしていたが、口は飴玉でも入っている様に口籠もらせていると、後ろのハシゴが新たな来客を招き入れた。
「そいつが言っていることはほとんど本当だぞ、ソラ。嘘といえば俺が入っていないだけだが……」
白髪の少年が猫のような瞳で僕達を眺める。ヒロの方を見るとニガムシを五匹ぐらい噛んだような顔で顔色が蒼白になり始めている。
「本当ってことはヒロ本当にテイマーになっちゃったの?」
「はい……」
シュンと小さな箱に入るように肩身を狭くしながらそう呟いてきて、自分の耳を疑った。
「……俺もだけどな……」
どうやら太陽との誓いを守れそうになかった。ヒロとアルが同時に言いづらそうに頷いた時、僕は顎が外れそうになるぐらい叫んでしまった時、近くの大杉から数匹の野鳥が逃げるように飛び立っていった。
***
ランタンを灯してコウモリがギィギィと鳴く暗い洞窟の中をゆっくりと歩く。初陣をつい数時間前に終えたこの体に鞭打って洞窟の最深部で男の所へと向かう。
ようやく着いたそこで報告するべきことを淡々と説明したが、どうやら彼は初めのことしか耳に残っていないらしい。
「本当に炎のテイマーが見つかったんだな?」
漆黒の外套を身にまとい、フードも被った男が洞窟中に低い声を震わせた。さっきまでうるさかったコウモリの叫び声が怯えたように収まる。
「ええ。これは『グラナ』様には教えた方がいいでしょうか?」
俺は昨晩の地獄絵図のような惨劇を思い出し、声を震わしながら聞く。
「もちろんだ。あいつも喜ぶことだろうな。『殺したテイマーの今度は子どもを殺せることが出来るのだから』な。」
低い笑い声が響く。遂に我慢出来なくなったのか、コウモリ達が洞窟から逃げるように抜け出して行った。俺はその羽音を聞きながら昨晩の地獄を思い出した。
────帝国森林の中に明かりをともしている家がある。
そう聞いて俺達は十人でその家に向かった。ほどなく例の家の近くまで着いたが、突然目の前にエレクロックが飛んできて、視界を奪われた。必死に耳を澄ますがそこから聞こえるのは誰かの悲鳴と森林を駆け抜ける足音だけだった。目が回復し、真実を受け入れるために瞳に光を入れる。
そこで見えたのは、血だらけになっている仲間と、その付近に立つずっと俺より年下のたった二人の少年だった。俺は呼吸を整え盾を構える。心の底で信じてもしない名も無き神に祈った。こっちに来させるな、死にたくない、と。しかし神は俺直ぐにを裏切り、嵌めようとした。森の中から矢が飛んできて俺の盾に傷をつけられる。
────狙撃!!
そう叫ぼうとした時、法螺貝の咆哮がそれを制止させた。幸いにも麓の仲間達が援軍として来てくれた。これは今朝聞いた話なのだが、どうやらあの時投げられたエレクロックの光で異変に気づいたらしい。そこからの展開は早かった。我を失った勇気ある少年がジーラさんによって返り討ちに合い、その後無惨にも腹を剣で深々と抉られ、右手をグチャグチャに踏み潰されていた。あの光景は俺でも目を背けたくなったものだ。その後少年達は全員拘束されことは済んだと思い込んでいた。
しかし、地獄はそれからだった。ジーラさんに殺されかけていた少年が突然真っ赤な羽織のようなものを纏い、刹那彼を吹き飛ばしたのだ。あの時の少年の無邪気に笑う真っ赤かな顔と瞳は今でも鮮明に思い出せる。俺達はたった一人の少年の笑顔に恐怖をかられ、後退することになったのだ。
しかも、最悪な状況は止まらなかった。どうやらグラン帝国軍最上位階級『軍帥』の称号を持つ男。ブロムが率いる帝国軍が今日か明日ぐらいにここ、ゼティー村に到着すると報告も聞いた。直ぐにこんな村出て行きたいという気持ちでいっぱいだが、目の前に堂々と座っている彼に命令するほどの権力も力も持っていない俺は、ただ賊の犬になるしかない。
そう悲しく自分に囁いた時、低い声がまた洞窟に反響する。
「グラナの奴は今どこにいる?」
俺は何も考えずに、「帝国森林の木でハンモックに揺られながら昼寝をしています」と応えるとフッと笑い言葉を続けた。
「明日あの村に総攻めをかける。グラナにはそう伝えておいてくれ」
分かりました。と応え、背中で悪魔のような笑いを聞きながら、俺は光が差し込む方へ歩いていった。
そういえば、僕練習のために色々な小説書いてみようと思います。
その第一回が『悲しみの仮面』です。
────ごく普通のサラリーマン幸太の悲劇を書いた短編小説です。
個人的に邪道を意識して書いてみました。
暇があったら読んでみてください。兄には緋色の鳥よりこっちの方が面白いと言われてとっても複雑な気持ちなのですが、つまらなくはないと思いますw