緋色の鳥
お久し振りです!!
今回の学年末考査なんとか赤点無しでクリア出来て、一安心している、なるがうすですw
来年度から受験生なんでもっと投稿する期間が広がるかもしれないですが、皆さんに、そして自分が気に入るようにもっと小説も頑張っていきたいと思います。
それではどうぞ!!
あれから二日が経過し、三日目の夜になるために日が傾き始めた。
村からは、朱色を背景にモクモクとのぼる黒煙が一つ、また一つと増えていく中で、無情にも食料は減少し続けている。水に至っては明日ぐらいで限界だろう。
セアの風邪は二日前に比べれば低くなったが、三十七度と三十八度を行ったり来たりしている状況でまだ油断は出来ない。
黒煙を数えているうちに夕日は力尽き、夜空に満月が俺らを嘲笑うかのように輝いている。
俺は夜空の星を眺めながらまだ幼かった頃、満月の時毎回ししょーが話してくれた話を思い出した。
『昔の人はな、満月を《豊かさ》の象徴として信じていたらしい。お供え物を祀ったり、農作が無事に成功する事を願ったりもしていらしい。まるで満月が神様みたいだな。俺は何回見てもあんなただ丸いだけのやつの何がカミサマに見えるんだか知らねぇけどな』
耳にししょーのあの凛々しい声が響く。
あの時は、それでも満月は偉い存在だと信じていた。何か特別な力を持つ存在として。
でも、今の俺らからすると絶対に違う。月とは夜の象徴。つまり恐怖と不安の塊。そしてなにより地獄の象徴だ。
いつ賊達がここを見つけて襲いかかってくるか分からない。その恐怖に怯え、毎晩体を震わしている子がこの屋根の下にはいっぱいいる。
────ししょーでも、軍でもどっちでもいい。早く助けに来てくれ!!
俺はウッドハウスの屋根に登り、持ってきた双眼鏡で辺りを見渡す。助けが来ていないか、それとも賊がここを見つけて襲いに来ていないか。期待と不安という名の圧に身体中が押しつぶされそうになる気持ちを抑えようとするが、上手くいかずレンズ越しに視界が小刻みに震える。
深呼吸をしてそれを落ちつかせて、ここへ向かうために唯一ある小道を見てみると、十個以上の松明の光が視界に飛び込んできた。
「────ッ!!」
俺は叫び声を喉に詰まらせながら、俺は屋根を何回も叩き、警告するよう呼びかける。
直ぐにそれに気づいたソラが屋根を重々しい足取りで登ってきた。
「ヒロどうかしたの?」
心配と不安が混ざりあった声。それでも、優しく俺に話しかけようと努力する顔を見て、顔の筋肉が引き締まるのを感じた。
俺が応えようとした瞬間、屋根にもう一人、こっちは無言でやって来た。青い瞳に頭にはフードを被り、そそくさと俺の横でうつ伏せになる少年。双子の兄アルスロットだ。
アル兄は無言で手を出し、俺に双眼鏡を見せるように言ってきた。俺はフードを被っている理由が気になり、聞きながりで手渡す。
「フードなんて被ってどうした?」
すると、一瞬ため息をついてから双眼鏡を覗く。
「俺の髪の毛白だから、夜だと目立つと思ってな」
俺はなんて返せばいいのか分からず、微妙な感じに頷いてから状況を二人に話す。
「村側に十個ぐらいの松明が見えたんだよ。村の人なのか軍かそれとも賊か分からない。でも取り敢えずはみんなに知らせようと思って……」
俺が見えたところ周辺を指差すのと同時に、アル兄が肩をすくめる。
「村の人達じゃないだろう。今も黒煙が上がってるのに、俺たちを探すような余裕はまだ無いはず。しかも、松明の光しか見えないってことは多分服装の色は黒系統だと思う。軍なら大体銀とか、見分けをつけるために派手な色を使うはず。だから十中八九『賊』だろうな。まぁ、礼は言っとく」
双眼鏡から目を離したアル兄はもう一度、今回はさっきよりも重い溜息をした後、俺らの目を直視して続ける。
「ヒロ、ソラ。迎え撃つぞ。十人もいれば、少し位食料も持っているやつがいるはずだ。それにどっちみちこいつらは多分ここを目当てで来てるんだ。だから此処で待っていても、結果は同じだ」
俺は一瞬体がこわばり、見える筈のない松明の方を見た。
心の奥底で、臆病な俺が叫ぶ。
────本当に人を殺す奴らと戦わないといけない。そんなの嫌だ。死にたくないし、怖い……。戦うことはカッコイイと思うし、憧れる。でも、それと同じ、いやそれ以上に不安と恐怖で押し潰されそうになる。それなら戦いたくなんてない……
下を向き俯くとツリーハウスの屋根が見えて、俺の剣士としての心が雄叫びを挙げながら叫ぶ。
────ここで退いたら下にいるこいつらはどうなる?賊が怖いから見殺しにする?そんなの俺が本当に出来る筈ないだろ!!
最後にシュラフで寝ているであろう金髪の少女が脳裏に浮かび、俺は頷いた。
────今セアを救えるのは俺達だけだ!!
隣でソラもぎこちない動作でコクリと頷いてから下に降りる。
俺は避難用のバックからクロカネオオスギ製の大振りの剣をベルトでとめ、薄手の黒い外套を羽織る。ソラは手楯と同素材の直剣。アル兄もその素材の木刀を腰に、ショートボウを専用のホルダーに入れ、肩にかける。
そして、一人三つずつ『エレクロック』を持って俺とソラは地面に降りる。
アル兄は木をつたい、奴らの上までクロヒョウの様に移動する。
三人が定位置に着いたことを見計らって、そいつらの目の前に黄色いエレクロックを投げた。
────エレクロックとは、別名『属性石』。
魔物の体内の器官の一部で、周りがガラス細工の様に透き通った透明をしている。その中心にはそれぞれ『赤 青 紫 茶 緑 白 黄 黒』の八色があり、順に『炎、氷、雷、岩、草、風、輝、闇』の属性の代わりになる。例えば炎で青いエレクロックに触ると、炎が一瞬で水や氷へと変貌する。────投げた黄色いエレクロックに属性術を放つ。
炎属性の基本的な属性術。
「────ファックル!!」
赤い炎が黄色い石に当たった瞬間、炎が太陽のような光へと変わった。
視界を失った賊達の空気がどっと重くなり、それがこちらまで浸透してくる。鼓動が早くなり、息が苦しい。まるではち切れんばかりに引っ張られた糸のような感覚。
それが最大になった瞬間、弦を弾くような、空気を貫くような音が緊張と静寂を切り裂いた。
その音を合図に俺達は隠れていた茂みを賊たちの方へ駆け抜ける。足を射られたそいつが恐怖と痛覚でパニック状態に陥り、持っていた蛮刀で空を斬り刻んでいく。
ソラの手楯がそれを弾きその隙に俺が全力で斬りかかる。
脳まで響く鈍い音が確かな手応えと共に、致命的な大怪我を負わせたことを教えてくれた。
────一人目……
一瞬のような、しかし永遠のようでもあった戦闘。まるで、砂時計をじっと眺めている時間のよう。
稽古の時とは手応えもまるで違う。戦っていて怖いし、気持ちよくない。二の腕あたりからは少し痺れすらある。でも、心の奥底でこの戦いを楽しんでいる自分もいた。
もう、こうなった以上、翌朝には賊達がツリーハウスへ向うだろう。でも、そこで俺達が居なかったら、あいつらは絶対にもう終わりだ。
だったらやる事は自ずと見えて来る。
恐怖を誤魔化すために剣を構え、深呼吸をする。耳を澄ませ、目はカッと見開く。
────馬鹿な俺が出来るのはただ剣を握りしめ、賊たちと戦うことだけだ!!
周りを見渡すと、目が治りそうな相手を見つけた。俺はそいつの方へ全力で走る。
その足音に気づいたのか、こちらを振り向く。必死に目を凝らして俺を迎え撃とうと構えた。
俺は属性剣技を放つために炎を剣に流し込むと、黒光りしていた刃が今は真紅の炎となり、そこにいるのがもどかしいのか、躍然たる勢いで燃え盛る。
それを上段に構えて斬りかかり────しかし、弾かれ俺は体制を崩す。
賊の目が回復したのか細く、でもしっかりとした目は俺の剣をじっと睨んでいた。
「この、ガキィ!!!!!」
その目が剣から俺へと変わり激怒したのか、肌に刺さる咆哮を放ちながら鍔迫り合いへと持って来て、俺を押した倒そうとする。
相手は大人だが、こっちはまだ十二歳の子どもだ。体格が違い過ぎて、ジリジリと押されていく。
俺は淡い期待を胸に、全力で足を吹き飛ばす様な勢いで体を横に飛ばした。それと同時に背中の方から矢が飛んで来て、賊の右肩あたりを射抜く。
ザッ。という音が響き、そいつは悲鳴を叫ぼうと口を開ける。しかし、俺はそれを待つほどの忍耐力は持ち合わせていなかった。
全体重を乗せた払い斬りを右肩に当てて、骨ごと砕く。
俺の淡い期待とは、木の上で狙撃しているアル兄に射ってもらうことだった。これはアル兄がこっちに気づいていないと出来ないし、アル兄が狙撃してくれるかどうかも分からなかったが、信じて飛ぶしかなかった。
────この調子なら時間はかかるけどいける!!
その一瞬でも気を抜いた瞬間、後ろから俺の剣を何かが拘束した。それを振り払うより早く、俺を強引に吹き飛ばす力が働き大樹に背中を強打する。
「グハッ!!」
肺の空気が一瞬で消えるような息苦しさを感じる。それでも頭をあげると、緑色の触手のようなものが五本俺をまた掴もうと襲いかかってくる。
────こいつら木属性か!!
逃げようと足に力を入れた時、足元から木のつるが俺の足に絡みつき体制をを崩しそこに倒れる。
「ファックル!!」
その体勢のまま五、六発火の玉を放ち、襲いかかってくる三本は灰に変わったが、残りの二本が迫ってくる。
もうダメだ。そう感じて目は閉じ、身を丸くする。横からはこちらに迫ってくる足音が一つ聞こえる。
「そりゃぁぁぁ!!」
声の主は触手を手楯で弾き、手を差し伸ばして来る。俺はその黒髪の少年の手を取りながら力強く頷く。そして落ちていた剣を拾い構え直す。
「サンキュ、ソラ。さぁ、かかって……」
ブォォォォォ!!!!!
俺の掛け声は脳にまで響く法螺貝の音でかき消される。
音の方を見ると、大体十五人位の賊が雄叫び上げながらこちらに迫ってくる。
────増援……
ちょっとした高揚感が一瞬で絶望感へと変わっていくのを体で感じた。体から力が抜け、そのまま座り込むのを抑えるので精一杯だった。
悲しくて、何より悔しくて、下唇を噛みちぎれる位に噛んで、隣を見ると、顔を真っ青にしたソラ。そして奥の方には逆に顔を輝かせている賊。
────皆を守らないと!!
二つを見た瞬間に、頭の中の血液が沸騰するような感覚が俺を襲い、属性剣技を構える。
今までの中でもっとも真紅に染まった剣を増援の方へ向け、全力で走る。
「くそぉぉぉぉ!!!!!」
その気持ちを込めた一撃は硬い石に当たったかのように、盾で弾かれ、俺は一瞬バランスを崩してしまった。その瞬きの半分位の時間を奴らは見逃さなかった。
蹴り飛ばされ、倒れたところを蛮刀が俺の腹を貫く。
皮膚を裂き骨を砕く音と、目眩がするような痛みが全身を駆け抜ける。
痛みに耐えるため、そいつの足を掴むが、振り払われその腕を何度もスパイクの入った靴で踏みつけられた。
何度も何度も……。腕から皮膚は破け、真っ赤な繊維とその骨組みが現れる。それでも足は止まらず、もう腕には先程までいた痛覚はどこかに行ってしまった。
原型が分からない何かになってしまったそれを呆然と眺めていると、頭を鷲掴みにされ顔を側にあった木に叩きつけられ、頭蓋骨が軋む音が遠くで響く。
意識が朦朧となり、涙で霞む目でソラとアル兄の二人を追った。
ソラは手楯で攻撃を弾いていたが押し切られて、尻餅を着いた。アル兄は木の上からソラの援護をしていたが振り落とされて、捕まえようとする奴らを落下と同時に賊を踏み潰して森の方へ逃げたが、直ぐに木のつるに捕まりこちらに引き戻される。
心の底で猛獣の如く勢いで叫び、俺の頭を掴んでいるそいつと俺のもう何か分からなくなった棒を交互に全力で睨む。
────クソ!!クソ!!クソ!!!!!
俺が増援の方へ走って行かなかったらと、自分の未熟さを恨み、憎んだ。それは自分を殺してしまいたいほどに……
視力が段々低下していって、今はもう何も見えない。意識もロウソクの残り火の様に朧気になり始めた時、その火を強くするような風が俺の心に響き、怒りがすーっと鎮火されるのと同時に意識の灯火が戻ってくるのを感じた。
『こいつらをねじ伏せたいか?』
ふと、心に響く猛禽類の鳴き声のような声で俺に話しかけてくる。
俺は口が動かないのをいいことに気持ちだけをその声に向けた。
────誰だ、お前……?
『俺は主人に力を与える者。お前は皆を世界を救うほどの力が欲しいか?』
────欲しいに決まっているだろう……世界なんてどうなってもいい。俺はただここにいる皆を守れる程の力が欲しいだけだ。例えそれで今ここで俺が死んだとしても……
ソラとアル兄。そしてツリーハウスで眠り皆の顔を思い出し、空を眺める。
『俺はお前にその力を与えることが出来るが……それはお前の母親との約束を破る事になる。それでもいいか?』
母さんとの約束。その声は確かにそう言った。力を貰おうとするとその約束を破らなくてはいけなくなる。と。
でも、そんなこと今の俺には関係ない。今俺が救いたいのはここにいる二人とツリーハウスで待っているみんなだ。
────顔も知らない母親の約束なんて知るか!!!!!
『フッ。いいのか?これを受け継いだら最後、お前は絶対に一生戦うハメになる。これはお前達を戦いから遠ざけ、平和の為に封印いていた力だった。だか解放すると、あらゆる敵がお前を殺しにかかって来るかもしれない。それでもいいか?』
そいつの言葉を全て聞き流して、ある一言だけが俺の心に残響する。
────封印されていた力って……カ、カッコイイじゃねーか……
『あ、ああ、そ、それがテイマーの力だ』
その力がどんな力か分からない。もしかしたら、この話に乗ったら俺は皆から恨まれて死ぬのかもしれないし、悪魔と蔑まれ、戦の申し子と謳われるかもしれない……でも。
────こいつらを失うのと比べたら、かすれ傷みたいなもんだ!!!!!
今ある気持ち全てをそれにぶつけた。将来この選択を恨むかもしれない。でも、やっぱり俺はこいつらを見殺しになんで出来ない。
『────その気持ちを確かに受け継いだ。良かろう。お前を新たな我が主と認めよう。我が主よ……』
瞬間、身体中が炎に変わる。それが錯覚なのか現実なのか分からない。けど、全く熱くなくむしろちょっとポカポカと暖かく、安心する炎だった。
暖かさで感覚が回復したのに気づき、右手を見ると何事も無かったかのようにそこにはいつもの手があった。
『今回だけのサービスだ』
回りを見渡すとそこはただひたすらに明るく、でも眩しくない空間。その声の主の先に
────緋色の鳥は待っていた
これ書いてて思ったんですけど、僕の小説ってすっごく王道なんですよねw
まぁ、反対に邪道な話なんて書けないんでしかないんですが……
ま、まぁ。これからも宜しくお願いします。