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嘆き。

大変、本当に長らくお待たせしました。受験終わったら書こうって思っていたけど、こんなにも長くなるなんて……w

さて、読む上で注意点が1つあります。それはこの話の序盤にある所なのですがもしかしたらR18になってしまうかもしれないです。もしも、「これまずいんじゃね?」と思ったら感想でもTwitterのDMでもいいので教えていただくと嬉しいです。


Twitter

@scalret_bird

それではどうぞ!


────私は昔から心にポッカリと穴が空いていた。


家族の貴族階級はちょうど真ん中の第3級。私はそこの家系の4姉妹の末っ子として生まれた。

子どもの頃の私は何不自由ない生活を送っていた。しかし、年を重ねていくにつれて不満に思うことが露わになった。それは、結婚相手だ。今より約10年程前の()()()()が終了するまでは結婚の目的は、両親たちの金と地位の道具でしかなかった。それは例えどんなに嫌な相手であろうと、従わなければならない。そういう規則であった。

 私は14歳の時、自分よりも10歳ほど歳上で、第2貴族の男性と結婚することが決まった。

結婚により見事両親と私たちは富と地位は手に入った。それは皆から祝福され、幸せな家庭と周りからは見えていた。

いや、実際にそうだった。彼は年下の私をよく気遣ってくれて、家事に戸惑う私を優しく支えてくれた。それでも、胸の奥底に眠るこの空虚な気持ちが消える事は無かった。

別に彼が嫌いという訳では無い。でも、好きという訳でも無かった。どちらかと言うと、年上のお兄さんというのが妥当な位置であろうか。その気持ちに知ってか知らずか、彼はどんな時でも笑顔で優しく私の名前を呼んでくれた。


「マリー……」


────彼の優しい笑顔がいつも私を狂わせる。


それはまるで愛犬を可愛がるのように。


結婚してから2度目の秋が来た。


初めて抱かれ、処女膜を破られた。それからというもの彼は自分の子どもと会うのを楽しみに待っていた。


────でも現実はそんなに甘くは無かった。


私は1度として着床はしなかったのだ。何度も繰り返しても結果は同じ。医者や占い師の所へ赴き原因を探ったが、理由はわからなかった。しかし、1つだけあることが分かった。それは、『私たちは子どもを授かることが出来ない。』ということだった。


子どもを諦め始めてぐらいからか、彼は少し帰るのが遅くなった。別に興味は無かったが、憂鬱な夕食の話の種にでも、と一度聞いてみたことがある。しかしその返答は「あ、あぁ……まぁ、ちょっと…ね…。」とだけ言って理由は教えてくれなかった。

彼の職業に関しては知らなかったし、興味もなかった。まぁ、どうせどこかで浮気でもしているのだろう。

日を重ねるごとにこの気持ちは大きくなっていく。そして、ある日家を掃除していると、彼の書斎の奥から綺麗なムーンストーンのネックレスを見つけた。

────あぁ、やっぱりか

特にショックに思うことも無く、私は呆然とそれを眺めていると、ある感情が沸いてきた。


────この2人の吊り橋のような愛を永遠のものにするために……


「私があなたを殺してあげる(幸せにしてあげる)


突然湧き出てきたその感情は、私の気持ちが楽にし、何かいけない薬でも飲んだような高揚感が体を蝕んでゆく。この気持ちに抗おうとすらも思わなかった。

 その日のうちに専用の服とナイフを買った。夜になるのが待ち遠しく、太陽が鬱陶しかった。


午後6時。いつもは日が変わるぐらいに帰ってくるのに、今日に限って彼の帰りは早かった。

そしてまたあの笑顔を見せてくる。

「ただいま。マリー」

何故か今日はいつもより少し顔が明るく、とても嬉しそうだ。

「ええ、おかえりなさい」

私は片手で髪の毛をクルクルいじりながら応える。

「ところでさぁ、マリーほ今日ってなんの日か覚えてる?」

突然投げかけられたその問いに戸惑いながら首を傾げる。

「えぇー、ま、まぁ、そうだよね。いつも家事とかで忙しくて覚えてられないか……」

彼は頭をポリポリかきながらあれがあった自分の書斎へ足を運ぶ。


私はゆっくりと隠しておいた包丁を取り出す。


「今日の為にいっぱい残業して買ったんだ、それでもちょっと借金しちゃったけど、去年はバタバタしてちゃって質素なものしか買ってあげられのかったからね。2年連続で結婚記念日のプレゼントがああいうやつは流石に悲しいかなって思ったから、そのムーンストーンのネックレスにしてみたんだけど、気に入って……」


彼の言葉を聞いながら包丁で大きなその背中をなぞる。「え?」という声を無視して両手に力を入れる。


あ、そうか今日は結婚記念日だったんだ。まぁ、いいかな。


この両手に弾力のあるやわらかい皮膚を裂き、肉をえぐり、骨を砕く感触がリアルに伝わってくる。

返り血が部屋に、壁紙に、そして、私の心に色彩を与えてくれる。


「────なん……で………!!」


這いずりまわり、私から逃げる彼の襟首を掴み馬乗りになる。


何度も何度も、包丁がなまくらになるまで刺し続ける。真っ赤な愛が私とあなたを包んでいく。今まで感じたことのない幸福感。初めて知った。これが本当の『愛』なんだと。

遺体を仰向けにしてから私は唇を奪い、頬を舐め、ギュッと抱きつく。服を引きちぎり、彼と私は裸体を見せ合った。しかし久々の私の裸体だというのに、それはなにも反応を示してくれない。

「あ、あぁ、そっか寒いのねあなた。」

私と彼の服を被せ、マッチに火を付けて彼にそれを投げる。異臭を漂わせながら炎は家中へと広がっていき、彼はもう黒い何かにしか見えない。

私は寝巻きを着て、彼が私を包んでくれるのを待った。

 しかし、突然「パリーン」という耳障りな音とともに侵入者が入ってきた。

「誰かいませんか!!」

ガラスを割り窓から入ってきた男性。年齢は私より少し年下か、ブカブカのロングコートに最小限の武具、背中には剣を備えるその姿はグラン帝国軍の軍服だ。

私は煙を多く吸ってしまったせいか、その場で咳き込んでいると彼が私を抱き上げて家から出そうとする。

「まってまだ私の夫が……」

「どこにいる!?」

辺りにはいつも通りの家具の他に、1つ見覚えのない家具があった。丸焦げになった人形の芸術品。それを見て心の底から湧き上がってくる感情を届けようと、その名を叫ぼうとした瞬間、言葉に詰まった。


────あれ、あの人の名前はなんだっけ……?


そのままどこか知らない場所に運ばれて行く。しかし火事でたくさん煙を吸ってしまったせいか、私は意識が朦朧となっていき、やがて気を失った。




目を覚ますとそこには帝国軍の軍服を着た男性2人と女性が1人いた。

「あ、目覚ましたか。どこか悪いところはない?」

優しそうな少女が私に水を手渡しながら話してくる。しかし私はどうしたら良いのか分からず、とりあえず首を縦に振った。

「えーと、マリー・ミゼルさんでいいのかな?」

近くで羊皮紙とにらめっこしていた少年が、文字をあまり読めないのか頭をポリポリかきながら一生懸命に話始める。だが、あまりにもかたことだったため、話が全く進まない。

「」

新たに出てきた少年は骨太で、しかしどこか儚げな白髪の少年がだった。彼は無表情のまま淡々と話を進める。

「残念ながらあなたの旦那さんはあの火事で亡くなってしまいました……」

5~6分程マニュアル通りの様な事を淡々と、彼は1度も表情を変えずにそう言い終わると、胸ポケットから煙草を1本取り出し、窓の方へ向かっていった。

ミーンと蝉の鳴き声がやけにうるさく感じる。そのうるさい静寂を破いたのは先程投げ飛ばされて伸びていた、1人の少年だった。

「本当にごめんなさい。俺たちがもっと早くあの火事に気づいていれば……旦那さんは亡くならずに済んだのに。あの、本当ににごめんなさい!」

たっぷり10秒ほど頭を下げてから、ゆっくりと頭を上げてきた。その瞳は自分の無力さを嘆くような、鋭い目をしていた。しかし、私はこの10秒間の間ずっと不思議に思っていることが1つあった。


────なんで、この人は頭を下げているのだろう?


そんなどうでもいいことを一生懸命にする彼に私は興味を持った。


「貴方のお名前はなんですか?」

すると、焦った様に目を泳がせながら再び頭を下げた。

「あ、ごめん、なさい。そういえば俺らの名前を言っていなかった。俺の名前は『カンダル』。んで、そこでタバコを吸っているのが『ダオス』。最後にこの娘が『リリィー』。みんな貴族じゃないから苗字は無いけどよろしくお願いします、マリーさん。」


彼は綺麗な歯を見せながら、手を伸ばしてきた。私はそれをゆっくりと掴み私も「こちらこそよろしくお願いします」と言った。

これが私と将来私の旦那となるカンダルとの出会いだった。


***


俺はど思い切ってフードを引き剥がす。しかし、そこには見慣れた顔の女性が俺の名前を呼ぶ。


「ヒロくん……」


この瞬間俺は何が起きたのか全く分からなかった。ただ、何もかも嫌になって、信じられなくなって、落ちていたレイピアを逆手に持った。両手で柄を握り潰してしまうのではないかと思うほど強く握り、その刃を彼女の首に穴を開けるために、殺すために振りかぶった。


「ああああああああぁぁぁ!!!!!」


────もう、何もかも嫌だ、なんであなたがここにいる。マリーさん。


しかし、彼女の喉の前で俺の腕は掴まれ、レイピアは止まった。


「この時代にもなって、ガキが人を殺す様なんぞ見たかねぇーよ」

2メートルを超えるのではないかと思ってしまうほどの背丈に、丸太のような腕。全く老いを感じさせない老騎士が俺の腕を掴んだ。

「わりぃーな、遅れちまった。金髪の嬢ちゃんが泣きながら、おめぇーを助けてくれってせがんできてよ、逆になだめるのに時間食っちまった。」

「ブロムさん。俺はどうすればいい?」

俺はその老騎士の名を呼んだあと、半ベソかきながら頭を預ける。それをギュッと一瞬抱きしめてくれてから、次にマリーさんの方を見た。


「ったく、こりゃあ俺はカンダルになんていやーいいんだよ。それに、これでいつも以上にリリィーの墓参りも顔出ししづらくなっちまったしよ」


ブロムさんは俺を肩に担ぎ、マリーさんを拘束具で拘束してから乗ってきた馬車に乗せた。

馬車に乗るやいなや、涙で顔をグチャグチャにしながら、セアが俺に抱きついてきた。

「ヒ、ヒロ、どこか怪我してませんか?大丈夫ですか?」

もう離さない。といわんばかりに強く抱きしめてくるセアに俺も一瞬の抱擁をした後、頭をポンポン軽く叩き耳元で、大丈夫だ。とだけ言ってセアと離れる。

たったこれだけの行為だったのに、泥沼の中あった俺の心はだんだんと癒されていくのを感じる。辺りを見回すと、俺たち以外にもバロン村から逃げてきたのであろう人たちが数人ちらほら見れた。


「いいねぇー青春だねぇー。まさか、ウチのテイマー様は彼女持ちだったなんて、凄いねぇー」


ブロムさんがニヤニヤしながら俺を見てくる。俺は、そんなんじゃないよ!と反論したが聞いてもらえなかった。


「じゃあ、まぁ、本題に入るとすっかねぇー……」


ブロムさんが首をコキコキ鳴らしながらマリーさんの方を見る。椅子に座らされ、両手は後ろで固定。足もベルトで椅子の脚と拘束されている。

彼女はずっと俯き頑なに口を開こうとしない。その顎を掴み、無理やりブロムさんの目と合わせる様に持ち上げる。


「いや、ずっとおかしいなって思ってたんだよ。なんで賊なんざが我ら帝国軍の装備を整えているのか不思議でよ。あとえーと、そうだ、どうしてバロン村が賊たちに占領されていたかだ。だからよ、俺は足りねぇー頭を一生懸命働かせて考えたんだよ。そしてようやく分かったんだよ。つまりお前らはゼティー村を、襲う前にバロン村を襲ったか、同時進行で襲ってたんだろ。そして、逃げたガキどもを安心させるためにあえて軍の装備をすることで味方だと思わせた、と。」

長舌をしてブロムさんが乾いた口の中を唾で潤してからまた話を進める。

「そして鍵になってくるのはてめーだよな、カンダルの嫁さんよ。あんたがいれば誰だって安心するぜ。ましてや、ガキどもからすればてめぇーはこいつらの母ちゃんみてぇーなもんだろ?」

ブロムさんは、全く酷いことするよ。と毒を吐き、葉巻に火をつけ、一服し始める。


静寂が訪れ、妙に馬車の音が耳障りに感じる。少しづつ空気が重くなり、やがて膨らんだ風船のように張り裂けそうなほど息苦しい雰囲気になっていく。


その緊張に針を指したのは、今まで沈黙を貫いてきたセアだった。

「どうして?ねぇ、なんで、なんでマリーさんがこんなことをしたのですか?ずっと…ずっと信じてきて……と、とてもいい人だと、そうだと、思っていたのに………!!」

嗚咽を漏らしながらも、芯の強い声で心に呼びかける。

「────あなたのせいで私の目の前で人が殺されました。あなたのせいでヒロの目の前で二人もの方々が亡くなりました。あなたのせいで多くの人が亡くなり、またその死を嘆き、苦しんでいる人がいます。なら!ならせめて!!何故、どうしてこのようなことをしたのか、それだけでいいのです。ただ、それだけで……教えてくださいますよね……いえ、教えなさい、マリー!!」

目に涙を浮かべながらセアはマリーさんを睨みつける。10歳の少女とは思えない程の鋭い目。それがマリーさんの口を動かした。

「………気づいて欲しかったの。私はここにいるよって。あの人いつもあなた達のことしか見ないじゃない?昔の様に、ううん、昔以上に、あのリリィーなんて目じゃないくらいの愛が……そう、そうね、私は欲しかったのあの人の愛が。おこぼれじゃない、濃縮された私だけの為に作られた愛の蜜。ただそれが欲しかっただけ。ただ、それだけなのよ?」

ニコッと笑いこれで分かってくれた?とでもいいたげな表情を見せてくる。その目に悪意はなく、その口は真実を告げていた。

だからこそらこの時俺は本当に思ったのだ。

────この人は狂っている、と。

全身の毛穴が開く感覚、と言えばいいのだろうか、それとも心臓を食いちぎられる感覚、なのだろうか。例えようの無い『恐怖』が俺の全身を駆け巡った。

セアは数歩後ずさりしてから、ヘタリとそこに座り込む。ブロムさんも苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「そういえば、なんで私が怪しいって思ったんですか?ノラさんとの会話を見たのはヒロくんだけのはずなのに」

表情を変えないまま、彼女は首を傾げる。どうやら本当に自分は正しいのだと信じているらしい。

「あぁ、これは嬢ちゃんから聞いたんだけど、彼女襲撃される当日に、大熱だったそうだな。そんで質問なんだけど、いいよな?」

「答えないといったら?」

「そんな、分かりやすい質問するな。この場でお前を殺すだけだ」

すると、マリーさんは不敵に笑う。それなら今すぐにでもやってみなさいよ。と言わんばかりの笑みだ。ブロムさんは少し考えてから、やっぱりやめた。と訂正する。

「もしも、応えてくれたらにしよう。その場合もう1度カンダルと会える権利をやろう」

マリーさんは3秒ほど悩んでから、首を縦に振る。

「……分かりました。応えましょう」

深くため息をひとつついてから、ゆっくりと話し始めた。


「結論から言うとか、入れましたよ。まさかはじめにそこをついてくるなんて思いませんでした。ブロムさん軍帥なんてやめて探偵になったらどうです?」

フッと小さくブロムさんが笑う。

「生憎頭を使うのは性にあわなくてな。これは単に道場院を調べた兵士がゴミ箱の中から猛毒のビンを見つけてな。」

────猛毒……?

確かに凄い熱だっけど、死ぬほどではなかったはず……

「えぇ。だからヒロくんが私にセアちゃんの熱が酷いと言ってきた時はびっくりしましたよ。なんで生きているのかに」

セアが俺の手をそっと掴んでくる。その手は恐怖に耐えるように震えていた。俺は小さく力を入れて、大丈夫。と囁くと、はい。と頷く。

「子どもの前でそんなこと言うのはどうなんだ?しかも張本人が目の前にいるのに」

「今頃隠す必要も無いでしょ?ねぇ、セアちゃん」

「てめぇ!ふざけんなよ!」

俺は余りにも無情過ぎる発言に激怒し、マリーさんを殴ろうとしたが、セアがそれはダメだと首を横に振った。

「本当に威勢がいいですねヒロくん。私あなたのそういうところ大好きでしたよ」

ゾッとすることを言われ、頭から怒りの熱がスーっと引いていく。


「話を続けますね。そのあと私はみんなに薬を買ってくると嘘を言って村を出ました。グラナさんとワラキアさんに合流して、避難用のツリーハウスの位置なども教えてから、私はまた道場院へ戻りました」

「じゃ、じゃああの時ツリーハウスを襲ってきたのは偶然じゃなくて……」

「えぇ。私が指示しました。そこに、()()()()がいると。」


────え?


「待ってくれ、その時は俺はまだテイマーに何かなってない!なのに、なんでそれを知ってるんだよ」

「あれ、ヒロくんはリリィーのこと知らないんだっけ?」

俺は初めて聞いた人の名前に首を傾げる。

「リリィーなんて知らない、そんな人。それに、なんで俺がテイマーなのと、その人に関係があるんだよ」

「リリィーはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、カンダルとダオスの幼馴染」

「母さん……?」

「ええ、そうよ。もう死んでしまったけど」

そして、遅れてもう1人の聞きなれた人の名前を聞いた。

「ダオスってよく、道場院に遊びに来てくれる人だよな?それと、ししょーが……」

ええ。とマリーさんは頷く。ダオスさんとは、骨太でいつもどこが悲しそうな目をしている男性だ。ししょーとの幼馴染とは聞いたことがあったが、それがもう1人いたなんて初めて聞いた。

「そして彼女は……」

「マリー。そこまてまだ。俺はカンダルとダオスにあまりリリィーのことは話すなと口止めをされている。これ以上話すとこの場で首を斬り落とすぞ」

「怖い怖い。そんなに怒らなくても。分かりましたよ。では話を続けます」

「ヒロ。彼女がなんでお前がテイマーになるか知っていたかは今度じっくり話す」

俺は小さく、分かった。とだけ言ってその後のことは言及しないと決めた。


マリーが周りをキョロキョロし始める。

「あのー私どこまで話しましたっけ?」

呑気な声がこの緊張した空気を和らげていく。正直嬉しくはないが、少し助かる。

「ツリーハウスを襲われたって所までだ」

ブロムさんが腕を組み、面倒くさそうにそう答える。

「あぁーそうだった。えーと、はい。私はテイマーになってしまったアルくんの『絆詛』で勝手に動かされてしまった私は村まで動かされます。そこで、ソラくんたちのお願いでブロムさん。あなたを見つけて、仕方なく道場院にグラナさんとワラキアさんがいることを教えました。そこからはあなたがたの方が詳しいですよね?」

「あぁ。あの時に気づいていたら……いや、それだったらヒロたちが死んでいたか……」

ブロムさんが厳しい顔でブツブツと独り言を言う。

「な、なぁ、フェニクス?」

俺は誰にも聞こえないように体の中にいる鳥の属性獣に話しかける。

『どうしたヒロ?まさか、また絆詛が何か聞くんじゃねぇーだろーな?』

「ッ!」

俺は図星過ぎて言葉に詰まる。

『お前今、あ、まずい!っておもったろ?』

「べ、べ、別にそんなこと思ってねぇーよ!」

俺は少し声が大きくなってしまい、馬車にいた全員が俺の方を向く。

「どうかしたかヒロ?」

ブロムさんが珍しく眉毛を八の字にしながら聞いてくる。すると、俺の右腕が真っ赤に燃え、さっきまで話していた属性獣が現れる。

「すまんブロム。今ヒロに絆詛のこと教えようとしててな」

ブロムさんは頭にハテナ文字が5つほど出してから、お、おう。と少し引き気味に対応する。

「なんだよ、まさか忘れちまったのか?」

「いや、すまん。フェニクス。そうだよな、ヒロがテイマーならおめぇーもいるよな」

少し困惑気味なブロムさんをほおっておいて、属性獣が『絆詛』の説明を始める。

「まぁー絆詛って言うのは自分と同じ属性を持った種族の者に対して行使できる絶対命令権だ。もう忘れるなよ」

俺は約束はできないので、あやふやに返事をする。


フェニクスは俺との会話が終わると、いつもの右肩の真っ赤な刺青に入って行った。

俺がそこから移動しようとすると、マリーさんが欠伸をしながら、「最後に」と言って言葉を発する。

「最後に、村に居る人達ですべてじゃないですからね。ちゃんと周りを見ないとだめですからね……」

マリーさんの不敵な笑みに、ブロムさんはなにかに弾かれたように顔を上げ、周囲の兵士たちに指示をし始める。

「周囲警戒。すぐに他の奴らとも合流するぞ!!」

「彼女は!」

「目隠しと口を塞いで馬車の後方にでも置いておけ!」

ピリピリと緊張の稲妻が俺らを貫く。どこから敵が来るのか分からない恐怖はまるで蒼ざめた馬と一緒に走っている感覚だ。

「ブロムさん、ここには居ない他の人達は今どうなってるの?」

声が震えるのを我慢しながら聞くと、彼は口の中で舌を数回転がしてから俺の質問に答えた。

「あぁ?そりゃあ、予定通りの経路をいろいろな方法で逃げさせてる。馬に乗せたり、馬車で逃げたり、地竜も数匹呼んでいるけど、生きてたどりつけるのは五分五分がいいところだな。グラナは抑えたとしても他に、ワラキアの場所もわかってないっていうのになぁ」

ブロムさんは珍しく深いため息をついた。もう一本葉巻を取り出し火をつけ始める。煙はユラユラと上空へ飛んでいき、消えていく。

「ブロム軍帥前方より数人の敵兵あり、ここから大体1キロ弱ぐらいです。どうしますか!!」

それは突然の報告だった。騎手が鞭で馬たちを動かしながら彼らを見つけたのだ。

「向こうは俺たちのこと気づいているか?」

「いえ、そういう感じには見えません!」

「ああ、分かった。1頭馬貸してもらえるか?」

馬車は5頭の馬で1両を引っ張っていた。

「やっぱり、1度バロン村によって生存者を探してから行くか!2手に別れよう。戦闘班と救出班に。お前たちにこいつを頼む。俺とここの兵士の4人で一度バロン村に行って、2から3頭の馬借りてくるから、お前たちはここで待っていてくれ」

そう言ってブロムさんは馬車を止めさせるように指示した後に、俺を兵士に渡そうとした。俺はブロムさんの鎧を掴みイヤイヤをする子どものように首を振る。

「俺ブロムさんと一緒に行動したい…」

「ダメだ」

「行く!」

すると、ブロムさんが小さくため息を吐いてから、無言で俺の腹部に拳を入れてくる。

「────ッ!」

1度は膝をつき倒れ込んだが、再びよろめきながらも、立ち上がりブロムさんの鎧にしがみつく。この時どうしてこのような行動をしたのか定かではないが、心の底で俺ではない他の誰かが『もっと戦いたい』そう言われ、強制されている気がした。

「坊主これは遊びじゃない。お前も目の前で見ただろ?人が死ぬんだ。それに、俺はあまり人の命を秤にかけるのは趣味じゃあねぇーけど、今やお前の命は普通の人間の10倍以上の価値がある。なぜかわかるか?」

「……?」

俺は分からない、と首を傾げる。

「お前は今テイマーっていう、人間以上の存在、いや、力を持つ者になってしまった。もしも、お前がグラナやワラキアに殺されたら、今まで保ってきたグラン帝国の平和が脅かされることになる。それは断じてならんことだ。だから、お前は戦うな。いや、戦ってはいならん」

「なんで、俺が戦いたいって分かったの……?俺一言もそんなことは……」

ブロムさんはふぅーとため息をつく。

「……まぁ、だからそういうことだ」

ブロムさんはいきなり「やれ」と言って周囲の兵士を俺羽交い締めにして動けなくする。

ブロムさんは他4人の兵士を連れて、一人づつ5頭いた馬に跨る。それと共に馬と馬車を繋げていた綱を斬り、風を駆けていく。

俺は拘束を解かれてから、絶対的な凛々しい背中を見つめながら、ふぅー。とため息をつく。

「……ヒロ………ブロムさんの真似ですか?」

セアが俺の顔を覗き込むように、上目遣いで見てくる。俺は彼女の頭を軽く撫でてから、ボソッと、行きたかったなぁー。と言葉を零した。すると、頬を膨らましたセアが丁度ブロムさんに殴られた場所ピンポイントの所をツンツンと指で突っついてくる。

「なんだよ?」

俺が少し訝しそうな表情をすると、彼女が満面の笑みでいえいえと首を振った。

「ヒロはまたブロムさんにあの強烈な拳を頂きたいなんて、ちょっと気持ち悪いなぁーって思っただけですよ」

ふふ、と小さく笑うセアの頬に、うるせぇーよ、と言いながら優しくつねる。

俺を拘束していた兵士たちが、馬車を降りてから周囲の警戒をしているが、森林が欠伸をしているのではないかと思うような僅かな風の音を残して、静かだった。今が真夏だと忘れてしまう静かさが逆に俺を不思議がらせる。

「セア……」

俺が話しかけようとすると、セアが分かっていますよ、と言っているかのように、ニコッと微笑む。

「お腹がすいたんですよね。そうだと思って私まだ木の実を残しておいたんですよ。あまりお腹の足しにはならないと思いますが、どうぞ」

「どうぞじゃねーよ!」

そういえば、朝飯以来何も食べていないことを思い出すと、今まで気づかなかった腹の虫たちが暴れ始める。俺も何か食べようかな、と思い自分のバックを取り出し中身を探ると、1枚の紙切れを取り出す。なにかな?と思って取り出すと、先日セアから貰った手紙だった。

────全部何もかもが終わったら読もうかな。

そう思いながら、気づかれないように元の場所に戻す。

空を見上げると、夕方の6時頃だろうか、太陽が森林によって欠かれていたが、すぐ近くに真っ黒い雨雲も見える。どうやらまた、雨でも降りそうな天候だ。俺もバックから拾った木の実を取り出し何粒か口へと運ぶ。

「結局お腹減っているではありませんか……まぁ、いいですけど。では、ヒロは私に何を聞きたいのですか?」

俺は気を取り直して口を開く。

「今って夏だよな?」

「そうですけど、どうかしましたか?ついにこの暑さで頭の方までトロトロになってしまいましたか?」

セアが何か楽しそうに毒舌を吐いてくる。

────こ、こいつ。

「違う!いや、そうじゃなくて、いくらなんでと静かすぎかいか?普通もうちょっと虫とかがうるさく鳴いてると思うんだけど……」

それを言った途端、セアが、あ、確かに……と言葉を零してから、目を閉じ耳を澄ます。その姿はまるで創世記に描かれている海の女神『リオアナ』のように美しかった。

「あんまりジロジロ見つめないでください。その、恥ずかしくなりますから」

セアが真っ赤になった耳を手で覆いながら俺を横目に睨んでくる。

「あ、いや、すまん。悪気はなかったんだけどな。で、どうだ、やっぱり変だよな?」

「ええ、いくら何でも静かすぎますね。でも、雨も振りそうだしその影響じゃないんですか?」

その瞬間、眩しい雷光と共に凄まじい雷音が鼓膜を刺激する。俺はびっくりしてビクッと体を仰け反らしただけだったが、セアは俺の体にガシッとしっかりしがみついてくる。

「あ、す、す、す、すみません」

そして、自分が何をしているのかに気づき、セアは離れながら再び顔を真っ赤にする。今度は申し訳なさそうに頭を下げてくる。俺はそれを、いいよ、と言って流したが、多分周りから見たら俺の顔もセア同様に物凄く赤いだろう。なんだろう顔がとても熱い。


雨がポツポツと降り始め、土と雨の独特の匂いが鼻腔を刺激する。雷も所々で鳴っているが、先程のようなとても大きな雷は降ってこない。

動かない馬車に2人肩を並べて座りながら、セアが話し始める。

「ヒロ。ソラやアルスロットそれに道場院のみんなは大丈夫でしょうか?」

心配するように雨を眺めがらセアが話しかけてくる。俺は一度セアを見て微笑みながら、あいつらなら大丈夫さ。と言った。特にあの2人にはししょーがついてる。何も心配することは無い。

「そう。あいつらなら大丈夫。俺たちがそうだったように、道場院のみんなはこんなところでくたばるような雑魚じゃない」

俺がニッと笑うと、ふふ、と口元を指で抑えながら、そうですねと言ってセアも笑った。

「早く全部終わってお風呂入って、オムレツ食べたいです。そして、また、いつか道場院のみんなで稽古やお勉強をして……」

そうだ、あの眩しい日々をまた取り戻すことがあと少しで出来るんだ。そう思うだけで、心が澄んでくる。

「そして…後は何したいかな?ヒロは何をしたいです……え…?そんな…いや………いや!」

いきなりセアが震え始め、座ったまま逃げようとする。俺は彼女を落ち着かせるために肩を掴むと、縋るように抱きついてくる。涙を流し、息が荒い。俺は何故こうなったか分からず、あたりを見渡し、見つけた。今まで何も無かった薄暗い木々の影。



────そこに絶望が立っていた。




「グラナ……」

何故か左腕は消えているが、それでもあの鼻先まで隠れる深緑のフードのポンチョはまさしく、俺たちにとっての絶望に他ならない。

「なんで……」

────足音も何も聞こえなかった!

────奴の足元には足跡は無く、彼の周りに馬はいなく、たった1人ポツンと立っている。


「なんだ、ブロムの野郎はいないのか……」

離れているはずなのに、耳にネットりと残るその声。

兵士の人たちが剣を構え、俺らに対して「逃げろ!」と叫んでくる。俺は必死に頷き、震える足に鞭打って、セアの手を引きながら馬車から降りようとする。

すると、セアの方が震えがひどいらしく、その場で倒れてしまう。俺は彼女を抱きかかえて降りようとした瞬間、背中で兵士たちの悲鳴が聞こえた。


────グラナの背中から生えた6、7本の緑色の蛇の形をした弦が一気に彼らの体を貫いていく。

「────に、げろ!!」

俺は彼らの雄叫びを背中に受けながら、彼女の手を引く。その時、詠唱が聞こえた。


────リーヴ・シュターク・アイムアン・シュランガー。


大蛇の術。それは目にも止まらぬ速さで兵士の骸を喰らい、馬車を喰らい、俺たちに牙を向いた。


間に合わない。そう感じた俺はせめてセアだけでも、と思い彼女を外へ投げようとした。しかし、その時脳裏にブロムさんの声が蘇る。


『もしも、お前がグラナやワラキアに殺されたら、今まで保ってきたグラン帝国の平和が脅かされることになる。それは断じてならんことだ』


分かっている、セアの命と国なんて比べるまでもない。そんなもの。そんなこと分かってはいるんだ!


その瞬間、セアの顔が近づいてくる。優しくしっとりとした感触と音が頬と耳に伝わる。顔を真っ赤に染めたセアが涙を流している。




「────絶対に、絶対に生き延びてくださいね、ヒロ。私はあなたのことが大好きです」



彼女は俺に白いエレクロックを押し付け、詠唱する。

「────へブリング・ショット」

黄金色の渦が風属性のエレクロックと衝突して暴風を生み出す。馬車の壁と屋根を吹き飛ばすその暴風に抗うことも出来ず、俺を馬車から吹き飛ばされ、地面に転がる。


時間が静止する。俺の目に映るあらゆる色彩が灰色へと変わっていく。全ての絶望が俺に降りかかる。


「────セアアアア!!!!!」


俺は馬車に伸ばす。届くはずの無い手を、叫びを、怒りを、そして自分の未熟な力に対しての憎しみを。


馬車は跡形もなくなり、その残骸がセアはもう戻らないと俺を嘲笑うようにそう告げていた。


遂にセアが亡くなってしまいました。この小説を投稿してすぐの頃から読んでくださっている方だったら、ご存知だと思うのですが、実は昔あらすじにセアが死ぬこと書いていたんです。あの頃は若かったなぁーw

でも、いざ書いてみると結構ショックですね。セアはこの小説のキャラクターの中でも個人的にお気に入りな方だったので……

次回はもうちょっと短くなると思います。

決して語らねぬ緋色の鳥14話『嘆き。』読んで下さり、ありがとうございました!

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