弱者の知恵
先週憎き中間考査が終わり、息抜きに書きました。
「勉強しろよ!」とは言わないでください……(泣)
「ここも違うか……」
薄々気づいていたが分かってしまうと余計に落ち込んでしまう。
「そんなに落ち込まないでくださいよ」
彼女は頬をプクーっと膨らませる。俺は小さくため息を吐き、大きく息を吸い込む。「よし!」と気合を入れてから彼女の頭を撫でる。
「悪いなセア。もう大丈夫だ」
ニッと笑いを見せるとまだ幼さを残したまま優しく微笑む。しかし、その顔には不安そうなのがまじまじと感じられる。
「もう、不安なのが顔に出ていますよーほら笑って」
俺の両頬をつねりグイッと上げる。
「ふぁ、ふぁかったぁからぁ!」
ヒリヒリする頬を擦る。正直不安なのは変わらないが弱音などセアの前で絶対に見せたくない。その硬い気持ちがやる気を出し、どうにかいつもの顔に戻った。
「そうそう、ヒロはそういうキリッとした顔の方が似合いますよ。あんなニョホニョホされたらどういう反応すればいいのか分かりませんよ。それにここは帝国森林なんですよ、そんな簡単に見つかるはずないじゃないですか」
────くそ……正論を言いやがって……!!
「分かってるよ、ただやっぱりきついなーって思ってなというかニョホニョホってなんだよ」
アハハと笑いながら言うが、セアは俺の袖をギュッと掴むだけだった。俺は違う方の手でセアの頭を優しく撫でる。
「行こっか」
「…はい……」
────バロン村の襲撃から5日が経過している。これでもう3つ目の山を制覇しているが、未だに当たりの兵舎は見当らない。
一応頂上から見える景色でそれを見つけられるかどうか見回す。すると、隣の山の頂上に白い木製の大きな家を見つけた。
────あれはそうなのかな……?
「フェニクス、起きてるか?」
右肩に話しかけると右腕全体が炎に変わり、翼の形になって最後はそこからヒナと成鳥の間のような真っ赤な鳥が現れる。
『呼ばれて燃やされ誕生したぜ!久しぶりの登場お前ら忘れてないかい?』
「誰に話しかけてるんだよ?ンなことより、あれの山頂に白い家見えないか?」
『どこ?見えないからちょっと飛んでくるなー』
そう言い残し目標の山の1個右の山に向かって飛んでいく。
「そっちじゃない!1個左!!!!!」
『そんな大声で言わなくても俺とお前は痛覚と味覚以外の感覚は繋がってるんだから聞こえるって……ちなみにこれ俺お前の心に直接話してるから外から見たらお前1人が叫んでるだけにしか見えないからー』
────え?
ぎこちない動作でセアの方を見ると、上目遣いで疑う様なもしくは心配するようにこっちを見てくる。
「ヒロ、相当疲れてるんですね……詠唱なしで炎の鳥さんを作って飛ばしたのは素直にすごいと思いましたが、その後いきなり叫ぶのはビックリしました……」
「あ、いやこれは……」
「今日の料理は私がやりますよ。ヒロはゆっくり休んでいてください」
「あぁ、大丈夫だよ。さっきのはあの鳥と話していただけだから」
その時俺らの上からやや大きめの鳥が1羽空に飛んでいき、左にいたセアの目の前に糞を落とした。
「……私に鳥さんの糞を落とせと頼んだのですか?」
────怒ってる……恥ずかしい寝相を見られたぐらいメチャクチャ怒ってる……
「いや、こ、これはただの偶然だからち、違う」
ジト目になったセアが小さくため息をついた後に「そうだと信じますよ」と言って前を向く。
『ヒロー誰か居そうだけど、敵か味方かは分からない』
「はぁ。あれが軍のやつなら味方に決まってるだろ」
『でも、人が少なすぎる気がするんだよなァー』
「そりゃ今は村で戦いがあるからじゃないか」
また俺がフェニクスと話していると、セアが頬をふくらませる。
「…またブツブツと独り言を……」
「あぁ、ごめん。いやさっき送ったあの鳥からの報告きたみたい。あそこの建物やっぱり兵舎らしいけど、どうやら人が全然居ないんだって。だから怪しいって言われて」
「なら一度行ってみたらどうですか?」
俺も「そうだな」と頷き兵舎へ行くことを決意した。
兵舎の近くに着くまで丸1日かかった。フェニクスには空から見張っているように命じて慎重に下山しまた登った。
『ヒロ、後ろの方から馬車っぽいのが来てるんだけど……』
「え……ブロムさんたちかな……?とりあえず兵舎で待っていた方が見つけやすいよな」
『そうだな』
「どうかしたのですかヒロ?」
キョトンとした顔をするセアが俺の瞳を覗いてくる。
「あぁ、後から馬車が迫って来てるらしい。多分グラン兵のやつだと思うけど、兵舎で待っている方が楽かなって思ってそのまま行っちゃおっかなって思ってたところ」
「そういうのはちゃんと私にも言ってください。何事も一人では決めない!」
昔からセアは子どもというか、どこかお母さんっぽい所があるんだよなぁ、と考えているとふと、脳裏にマリーさんの顔が浮かびそれと同時に、あの奇妙な光景が思い出される。
雨の日、台風でも来たのかではないかと心配する程のだったがそれなのに、マリーさんは突然姿を消した。見つけるため俺は小便ついでに村長宅へ向かった時、そこの裏で彼女とバロン村で襲ってきたノラと名乗る人物が話していた。やはり2人にら何か繋がりがあったのか……でも……
マリーさんを疑う本能と、そんなことするはずが無いと言っている理性が喧嘩をする。もしかしたら馬車に乗る前にそのことをブロムさんに言えばあれ程の犠牲者は生まれなくて済んだかもしれない。
「見えてきましたよ!」
セアの声で俺は意識を自分の世界から戻された。
「あ、あぁ。フェニクス、どうだどっちかに動きはあったか?」
『まぁ馬車に関してはずっと動いてるけどなぁー……ヒロ、兵舎に1人いた。でも様子が少しおかしい、凄くお前達のこと警戒してる』
「は?」
唐突過ぎるその発言に思わず馬鹿そうな声が漏れる。
「変な声出さないでくださいよ、全くもう……また小鳥さんですか?」
「あぁ、悪いな」
『まぁ、俺が普通に話せばいいだけなんだけどな』
「出来るのかよ!」
今までセアに気を使いながら話していた俺が馬鹿みたくなり脱力する。
「セア聞こえるか?」
俺には聞きなれたフェニクスの声が耳に入ってくる。
「ヒロ、私誰かに話しかけられています」
「大丈夫それがずっと俺が話していた鳥だから」
腑に落ちないと顔に大きく書いてあるが、ぎこちない動作でコクリと頷く。
「よし、ヒロそれにセア、今どういう状況かというとだな、兵舎の中にいた兵士なんだけど、さっきまではがお前たちに気づいて警戒していたが、今はもう殺気丸出しでお前達を射抜こうと弓で狙ってやがるぞ」
「え?」「はい?」
唐突な発言に変な声を上げる。そんなはずは無いと思いながらも、一応セアを庇いながらしゃがむ。すると、「ガシ!!」と音が響き、先程まで俺の頭があった場所を見てみると、そこには矢が刺さっていた。セアの手を握り木の影へと誘導する。
「セア、兵舎の方に目くらまし頼む。それが終ったら赤い鳥の指示を聞きながら馬車のほうへ向かえ!」
「え、でもヒロは?」
不安そうに上目遣いでこちらを眺めてくるセアの頭をゴシゴシ少し荒く撫でる。
「大丈夫!ちょっとアイツに喝入れてくるだけだから。それが終ったら直ぐに俺もそっちへ向かう」
「でも……」
────まぁそうなるよなぁ。
俺は少し迷ってからギュッとセアに抱擁する。
「────ッ!」
恥ずかしさを押し殺してそれを続ける。
「わ、私はヒロが心配です……だって」
セアは顔を真っ赤にしながら俺の胸に顔を埋める。その頭を今度は優しく撫で、耳元で囁く。
「俺は死なねぇーよ。大丈夫、必ずアイツを倒してお前を迎えに行くから」
セアの頭を俺の胸から引き剥がし、目を合わせてニッと笑う。
「か、帰ってきたら必ずその……先日ゼティー村で渡したあの手紙読んでくださいね」
セアは涙で濡れた目元を拭い、優しく微笑む。そして背中から属性弓を取り出す。息を吸い、吐く。キリッと引き締まった顔が詠唱を始める。
「────ヘブリング・フラッシュアウト……」
弓の弦に黄色く丸い球体が現れる。それを掴み引っ張ると楕円形の形になり、兵舎に向かって放つ。
鈴の様な音が響き、そして5メートル程飛んですぐにバースト。眩い光となる。
「行けッ────!」
セアは山を下山し俺は登る。狂者の羽衣を羽織り、属性剣技をする。体と刃が灼熱の炎の様に真っ赤になりながらひたすら足を動かす。
「見えた!」
手で目をおおっているフードを被った弓兵を見つけた。
────大体あと10メートル……
視界治した弓兵と目が合う。それは俺を嘲笑うように黄色い目をしていた。否、奴は無地の仮面をしているので、ここからでは良く見えない。ならば気がしたの方が真実か……。
腰のポーチから紫色、つまり雷属性『エレクロック』を取り出す。
「ファックル・アロー」
左腕の上に炎の弓と矢が生成される。ほぼ同時にエレクロックを投げ、それ射抜こうと狙った瞬間。
エレクロックは矢で破壊され、ただのガラスの破片となった。
「────嘘だろ……」
確かにそこまで離れていないが、それでも15センチ程のエレクロックをしかも固定されていないものを射抜くなど常人の出来る技ではない。
「遠距離は絶対に負けるな……」
走りながら狙いを新たに定め、「ショット」と詠唱すると、「ボウッ」と耳に少し篭った音が響き腕には僅かな反動を残した炎の矢が弓兵へと向かう。
しかし矢はサラリとかわされる。矢は後ろの兵舎の屋根をかすり空へと消えていく。しかし、弓兵は実物の矢を再び俺を狙い放つ。それを横に跳ねてかわしてすぐに足を動かして距離を縮める。弓兵が俺の剣の間合いより少し離れた場所に来た瞬間、ジャンプして全力で斬りかかった。
「ハァァァァ!!」
「……」
弓兵は無言で弓を手放し腰のレイピアを抜刀し、弓兵から元弓兵へと姿を変える。そして俺の一撃を防ごうと漢字の『一』の様に剣を構えた。木製の「ガシッ」という音と、金属製「カァーン」という音が響く。手から腕へと痺れる衝撃が伝わってくる。しかしそれは一瞬だった。
弓兵がそのまま衝撃を吸収しながら体を崩し、やがてサッカーのオーバーヘッドキックの様に俺を上に蹴り飛ばしたのだ。
勢いは消えぬまま俺は背中から樹木にぶつける。すぐさま痛みで蹲る体に鞭打って、木剣を杖のように立ち上がり、再び構える。
頭を上げると弓兵も輝属性の属性剣技を放つべくレイピアの刃が黄金色に光っている。俺はもう1度構えて斬りかかろうとするが、元弓兵のまるで数本の刃が同時に迫ってくるようなまでの連撃に圧倒され、なんとか致命傷を防ぐのでやっとになってしまい、頬や肩などに浅い切り傷を負う。
「くっそ……」
俺は一度引くべく全力で後ろに跳ねるが、そこでもまた胸に新しい傷を作ってしまう。なんとか距離を離すことには成功し、着地の瞬間足を少し滑らしてしまい、片膝と片手をつく。
────地面が結構ぬかるんでる……
もう1週間程の前のはずなのにやはり相当すごい雨だったせいか、未だに地面が泥に覆われている。
足でどの程度地面がぬかるんでいるか確かめたが、想像以上に深く、10センチ弱はありそうだ。そこから足を抜き、硬い頭で簡易な戦略を立てる。
「一か八かだな……」
元弓兵はそれの異様な言動に首を傾げていたが構え直し、剣先を向けてくる。
息を吸い、最も簡単な属性術を放つ。
「ファックル!」
炎の玉が奴の方へ飛んでいくが案の定弾かれる。しかし俺の目的は元々それではない。
空いた手で『石』を掴み地面に埋めながら後ろに逃げる。そのまま新たな属性術を詠唱する。
「────ファックル・アロー!!」
再び左腕に炎のボウガンと矢が作られる。元弓兵は俺の方へ真っ直ぐ走ってくる。
────昔ししょーにこのような言葉を言われたことがある。
『もしも自分よりも遥かに強い相手の出くわした時、何が最もと重要か分かるか?』
あの時の俺は分からない、と答えた。するとししょーはイタズラする少年の様な笑顔を見せてこう言ったのだ。
『「────それはずる賢さと生きてやるっていう執念深さだ」』
俺は狙いを定める。
「さぁ、勝負といこうか元弓兵!!」
「………」
「ショット!」
「ボウッ」という音を立てながら炎の矢は飛んでいく。しかし今回の目標は奴ではない、先程地面に埋めた石だ。元弓兵は少し走る速度を緩め当たるはずのない矢をかわそうとした。矢が地面に触れた瞬間、刹那の炎の後に水色の海へと姿を変え、やがて凝固した。
俺が埋めたものは『水色のエレクロック』つまり属性術を当てたら氷属性へと姿を変えるものだ。
足を固定され身動きが出来なくなった元弓兵目掛けて横から大振りで斬りかかる。しかも、属性術を放った後に茶色のエレクロックで剣を大剣へと変えたものだ。防ごうにも変な体制で固定されて、身動きもとれないことにはもはや、それを出来る可能性は皆無だ。
「たぁぁぁぁ!!!!!」
「………」
最後まで無言だった元弓兵はそのままボロ雑巾の様に吹き飛ばされ、5メートル程で近くの樹木に体をぶつけた。攻撃を受けた右腕は変な方向へと曲がり、もう剣も弓も使えないことが目に見えてわかる。息を切らしながら、俺は奴の首元を掴み頂上まで引きずりあげ、最後はほおり投げた。落下したらすぐに元弓兵は這いつくばりながら逃げようとしたが、その足を掴み今度はこちら側に引きずりフード脱がし仮面を奪う。
バキッ、ガシャ!!
乱暴に剥がし、俺はようやくその声を聞くことが出来た。
「……ヒロ…君………」
「────ッ…………マ、マリーさんなんで………」
────それは時間が止まったような感覚だった。
遂にこの章は次の話で完結となります。どうしてマリーさんがヒロたちに剣を向けたのか、これからヒロとセアはどうなってしまうのか。そして、最近全く出番のないアルスロット(ヒロの双子の兄)とソラ(ヒロたちの親友)は無事なのか!?などなど分かると思います(分からないと完結できてないだろ!!)。
よろしくお願いします。




