涙
────これで最後と言ったな、あれは嘘だ。
本当にすみません。前回『誓いは水に流れる』を投稿したところ、今までの中で最多のPV及びUAを頂くことが出来たので、嬉しくて投稿してしまいました。
「おい勉強しろよ」と思った人達。本当にその通りです。返す言葉もありませゆ、ごめんなさい。
Twitter始めてみました。
@scalret_bird
────体が燃えるように熱い……
息は絶え絶え、60近いこの老いぼれの肉体にはやはり負担が大き過ぎたか。
額に滴る汗を拭おうとした瞬間、その滴がジュッ、と小さな悲鳴をあげながら蒸発していく様を眺め、フッと皮肉そうに笑う。巨大化した男の3倍はありそうな矢を一太刀で切り裂き、さらにその3倍以上の巨人の攻撃、それにこの灼熱の炎は、ジリジリと老いた体を蝕んでゆく。
早く行動しなければ、また直ぐにあの前腕が矢を装填しこの体を射抜かんと襲ってくるであろう。全身鱗で覆われたこの体では、あの矢に攻撃されたところで致命傷にはならないが、後の腕のあの巨大な斧が問題だ。どちらか一方を頂くならばまだしも、両方はもうこの体では耐え凌ぐことは難しいだろう。
翼を広げて、空気の壁を蹴る。
巨人は装填を諦め、拳を硬める。予想外の行動ではあるが、龍たちに指示を出す。
『────拳を燃やせ!!』
空気の様な声だったが、どうにか反応し8つの炎の球すべてがとぐろを巻いた幼竜へと姿を変える。すると直ぐに大きさが大人へと代わって迫り来る拳に向かって飛んで行く。
1体の龍が拳に潰される。
続けてもう1体。さらにもう1体。巨人は男も同じ末路に歩ませようと、迷い無く勢い良く拳を向けてる。あと、数メートル。しかし、変化が起きたのは拳ではなく巨人の肩だった。肩と胸が分裂し、重力に逆らわず落ちて行く。しかし、地面につく時にはそれは巨大なススとなっていた。
「拳を燃やすだけでいいって言ったのに……」
今まで疲れていた表情が目立っていた老騎士に初めて、小さな笑顔が零れる。しかし、状況は変わらない。勢いを殺せずにいた巨人はそのままこちらに倒れ込んでくる。必死に後ろの腕の斧をこちらに向けようと頑張っているが、バランスが取れず、斧が明後日の方向へ行っている。
「お前らも大変だな…今楽にしてやるからな」
老騎士は囁く。ランスのような剣を両手持ちに切り替え、ギュッと力を込める。すると、今まですすの中にいた8体の龍たちが8枚ある刃に1枚1枚入っていく。巨大化されていた剣の刃に龍の尻尾の様な炎が現れる。刃渡りはもはや10メートルはあるであろう。
「木の巨人よ、お前に俺の最大の誠意を込め、この剣で断つとしよう」
家々の屋根がその件から放たれる熱量に耐えかね、発火する。巨人の表面化はもはや焦げ、炎があちらこちらに現れる。
「────アン・ザライズ・ヴォーティガン!!!!!」
巨人の首は瞬時に跳ねられる。首から下は計り知れないほどの大きさの龍が巨人の体に巻き付き、目を開けられないほどの閃光を放ち、その後、建物が跡形もなくなる程の爆風が空気を襲う。静まり返った村には大きなクレーターが顔を出していた。
全身にドッと疲れが迫り来る。ゆっくり着地した後に地面に座り込み、『起源再臨化』を解く。急に押し寄せてくる寒気に耐え、重い腰を持ち上げる。
すると、背中の方から老騎士の名前を呼ぶ1人の男がいた。
「流石だな、ブロム」
クレーターの中央から聞きたくもない声が響く。
「グラナ……」
どうやら、巨人の中にいたらしく、防具や髪は所々焼けているが、致命傷は1もないらしい。フラフラな体に喝を入れ、剣を構える。だが、先程あのような大技を召喚したのだ、グラナの方も疲労困憊の様だ。
「まさか、アレを倒す奴がいるとはな、流石にグラン帝国の軍帥はそこまで甘くないか…」
「なんだ、今更怯えたのか、自分の切り札があんなこてんぱんにやられてしまって、怖気づいたのか」
「まさか、むしろ興奮したさ、俺と同等に戦える人間がここにいるなんてな!!」
グラナが10メートル程あった幅を踏み込みだけで狭める。
ギィィ────ン、と刃と刃がぶつかり合い、鍔迫り合いへと持ち込む。身長はブロムの方が10センチほど大きいので、地の利はこちらにある、しかし先程の影響だろうか、体全体に今までのようなキレがあまり見られない。それでも何とかブロムが押し込み、グラナは体制を少し崩す。しかし、奴も雑魚ではない。咄嗟に地面の砂利を掴み、ブロムに投げつける。手で目を覆うその隙にグラナは曲剣を握り、詠唱を唱えた。
「リーヴ」。緑色のロープの様な草がブロムの両手を拘束する。そのまま老騎士の腹を貫かんと、刃を立てる。しかし、グラナはどこかで甘く見ていた。
────このグラン帝国軍帥ブロムの力を。
まず、回し蹴りでグラナの腕を弾き、その後自ら剣を手放し、その状態で、今度は前蹴りで顎を狙う。怯んだ隙に胸ぐらを掴み、ほおり投げる。背中から落ちたグラナが立ち上がろうとした時、追い討ちに属性術を放つ。
「ファックル・バラヘル」
すこし、濁った青い炎が奇妙な声をあげながら飛んで行く。咄嗟な行動が出来ないグラナだったが、どうにか曲剣でそれを防ぐ。しかし、『燃焼』の力をもつこの技は、グラナの曲剣を灰へと変えた。
落ちていた剣で縄を斬ったブロムがグラナに向って斬りかかる。それを防ごうとグラナは腕をクロスするが、そんなもの豆腐のように抵抗なく斬れる。
「ぎゃああああああ」
左腕を跳ねられたグラナがその場で丸くなる。目には涙を浮かべ、落ちている自分の腕を掴む。震えながらそれを斬られた断面とくっつけるが、それで治るほど人間の体は万能ではない。
何度も、何度もその行動を繰り返すグラナに、老騎士はトドメを刺そうと、振りかぶる。
「嫌だぁぁぁぁぁぁー、死にたくない!!!!!」
人間とは思えないほどの奇声をあげる。老ゆえか、ピクっと1秒の半分ほど、ブロムが動きを止める。それを待っていたと言わんばかりにグラナがガバッと起き、後方へ退く。それとほぼ同時に、握っていた左腕をブロムの方へ投げてくる。
「リーヴ・シュターク・アイムアン・シュランガー」人間とは思えないほどの早口でそれを唱えると、こちらに投げられていた腕が、蛇に形を変え飛んで来る。
「シャアアアアア」
「チッ……あの野郎」
防ぐのは不可能。そう判断したブロムは自ら左手を差し出し噛ませる寸前、舌を掴み思いっきり引っ張る。その後、余裕を持って大振りで切り裂く。そして直ぐに再び構える。
緊張が背筋を這うが、何も動く気配はなく、いくら探してもグラナは見つからなかった。
***
セアと共に登山をしていた俺はあることに気づく。
────ここは帝国森林。グラン帝国最大の山岳地帯でもある。
つまり、どの山に軍の兵舎があるか定かではないのだ。まさかの盲点に今頃になって気づき頭を抱えていると、後から、きゃっ、と可愛らしい悲鳴が響く。
「セアどうかしたか?」
すると、頬をぷくーと膨らましたセアがゆっくり葉っぱの上にいる軟体動物に指を指す。
「な、ナメクジが……」
顔を真っ青にセアの頭を優しく撫で、安心させる。すると、上目遣いにセアが「子供扱いしないでください」と苦言を漏らす。さあ行こう、と力一杯踏み込んですぐに今度は俺が頭を蜘蛛の巣に捕まった。そして頭から垂れてくる5センチほどの蜘蛛。
俺は悲鳴をどうにか押し殺したが、その場に尻餅を着く。
「ん、もうなんですかヒロ」
しかし、俺の頭から垂れている蜘蛛を見つけると、糸を掴みそのまま森の方へほおり投げる。
「ヒロもう大丈夫ですよ」
「あ、ああ」
恥ずかしくて彼女の顔も見られない俺に、セアは小さく微笑んでから山を登っていく。俺は自分の頭を軽く掻いてから立ち上がる。
それから寝床となる洞窟を見つけ、食料を調達した。昔本で読んだ木の実とよく似たものを見つけ、毒味をして何も無いと感じたので、セアにも渡す。
その後1人で山を降り、大きな岩を持ち上げ川と接している岩にぶつける。鼓膜が破れるかと思う程の音が去り、そこからプカプカと魚が浮いてきた。
それを捕まえ、山を登る時に焚き火用にと、薪となる枝も拾う。この魚の捕まえ方は、岩肌に潜んでい魚に対し岩と岩をぶつけると、その衝撃で魚が失神するという、サバイバル技術だ。
「ヒロ今すごい音しましたけど、何かあったんですか?」
顔を真っ青にしたセアがこちらを見てくる。俺は、ニッと笑い先程捕った魚を見せる。
「大漁、大漁!!」
まだ少しピクピクしている魚を見せると、引きつった笑顔を見せながらセアは喜んでくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「なんだよ、ナメクジ食べるよりは全然美味そうだろ?」
「あれは食べ物ではありません!!」
ムキになっているセアに向かい、昔読んだ小説のシーンを話す。
「そういえば昔読んだ本にあったんだけど、魔術でナメクジを食べさせる技を放ったら、逆に跳ね返されてそいつの口から沢山のナメクジが……」
「きゃあああ!!」
と、叫んだ後に大振りのビンタが俺の頬に炸裂する寸前、左腕で担いでいた薪を手放しそれの手を掴む。
「止めないでください!!」
「あ、わりぃ」
その後違う方からのビンタは素直に頂いた。
「いたたたた、まだヒリヒリするんだけど……」
俺は右頬をスリスリと擦りながら漏らす。それをギラギラした目で睨んでくるが、正直あまり怖くない。
「あー、悪かったって、そんな怖い顔するなよ。それよりナメ……じゃない魚食えよ、捕りたてだから美味いぞ?」
「今何か言いかけませんでしたか?」
「……べ、別に何も言いかけてねぇーよ?セアさんの聞き間違えではありませんか……?」
「ヒロ、知ってますか?あなたって嘘つく時大抵敬語になるんですよ?」
「え、じゃあ、セアが敬語使ってるってことは、いつも俺に嘘ついてるってこと?」
「こ、これは生まれつきです!!私はちゃんと言ったではないですか、ヒロの場合と!!」
耳に響くその声に謝りながら俺はもう一度頭を掻いた。
その後、どうやらセアが洞窟の中を掃除してくれていたらしく、細かい石などがほとんど無く俺はそこには腰を下ろし眠る。セアも俺の隣で仰向けに眠る。すると、直ぐに俺に背を向けた。
外では、聞いたことのない獣の遠吠えなどが響く。俺はバックから木剣を取り出し、それを抱くようにして胡座をかく。焚き火の灯りが消える。辺りには夜が侵食していき、それとともに名もしれぬ恐怖がのしかかってくる。
「────………こ、来ないで……いや……」
セアが寝言を漏らす。どうやら今日の村の出来事が夢に出ているのだろう。彼女の頭を軽く撫でてやると、ビクっと怯えたように体を震わした。
「悪い、起こしちゃったか……」
「いいえ……少し安心しました。あの……」
セアが口ごもる。暗くてシルエットしか見えないが、何かを言うのか迷っているようだった。
「あの、つ、続けてもらっていいですか……?」
「え…?」
多分今ここで灯りが灯したら、俺の顔は紅葉の花のように紅いだろう。何も返事をしない代わりにそっと頭を撫でる。
「……ヒロは怖くないのですか、あの人達が……?」
今まで言うまいと我慢してきたのだろうか、なにかに耐えるように言葉を選びながら、話し始める。
「……ん、賊の奴らか……かっこ悪いかもしれないけど、やっぱり怖いかな。正直、今でも震えが止まらねぇーよ。だって本当につい1秒ぐらい前まで話してたんだぜ?それが、目の前で……しかも2人も。俺はあの人たちの名前も知らなかったのに……」
「………」
静寂が洞窟を支配する。今まで気にしていなかった、風の音が妙にうるさく感じる。
「そうだったんですか……わ、私もヒロと会う少し前、兵士の人が私を庇って亡くなってしまいました。おかしいですよね、1人の兵士があんな5人もの人を倒せるはずがないのに……だんだん体の中から血がなくなって、それでも這いつくばりながら、私を守ってくれました。それで、私に兵舎の所を教えてくれたのです……」
腹が立った。彼女がこんなにも辛い体験をしていたことに。そしてなにより、それに気づかなかった俺自身に。
「あの時、私何も出来なかった。輝属性で治療も出来たはずなのに、怖くて、口が動かなくて。なのに、逃げるための足だけは、いつも以上に動かせたんです。背中の方から、多分あの人の断末魔が聞こえました。それでも、一刻も早くこのことを忘れようと、私あの人の血を全て流して、それならきっと忘れられるんじゃないかって、そう思えたんです」
最低ですよね……、彼女そう自分を言い捨てた。俺はこのやるせない気持ちをギュッと堪え、下唇を軽く噛む。
なにか、言わなくちゃ、そう思って浮かんだ言葉をそのまま口にする。
「────人間なんてそんなもんさ」
それはこの世全てを否定しているような、そんな言葉だった。
「自分が第1。それが人間。なんだよイイじゃんか。俺たちは神でも無ければ聖人でもない、タダの人間だ。俺たちはそんな大それたもんでもなければ、人から慕われるような奴でもない。それで何が悪いんだよ。人間には手が2つしかない様に、助けられる数も決まってきてしまう。セアの事を救ってくれた兵士さんも助けて欲しいからじゃないだろ?セア、お前に生きて欲しいから、庇ったんだ」
ししょーいやもしかしたらアル兄とかソラの方がもっとかっこよくていい言葉を言えるはずだ。でも、俺にはこういう言葉しか話すことが出来ない。言い終えてから、少し気恥ずかしくなった。
「なんかヒロって時々最低なこと言いますよね……」
「ああ、人間だからな」
俺は痛いところを突かれたが、痩せ我慢でニッと笑うと、セアは撫でられていた手を握り、それを自分の頬に当てる。
「なら私の1個目の手はもう決まってますね……」
────あぁ、俺もだ。
心の底からそう思うのに、口には出せなかった。まだ力不足の俺だけど、せめて彼女だけは守ってみせる。そう思いながら、もう1回頭を撫でる。その後セアは直ぐに静かな寝息を歌い始めた。俺はそれを確認した後にそっと瞼を閉じた。
月は沈み、やがてまた陽が昇る。木漏れ日、小鳥たちのさえずりで目を覚ます。欠伸をし、まだ重い瞼を持ち上げる。
「ふぁ〜」
隣を見ると、セアが珍しく綺麗な姿勢で眠っている。でも、目の縁には涙の後が残っていた。頬をつんつんと突っつくと「んにゃん」と奇妙な声を漏らし、眠いのか目をつぶったまま上半身をムクっと起こす。
「お、セアおはよ」
「んにゃ……んにゃ」
バタ、とまたその場に倒れ眠り始める。どうやらこれからが本番だったらしい。その後、セアは15分ほど眠ってから覚醒した。昨日残していた魚を焼き、朝食を食べさせる。食べ終わったら、また山を登り、兵舎を探さなければならない。10歳の少女には難しいかもしれないが、それしか生きる術は今のところ存在しない。重いリュックを2つ持ち、俺たちはあるはずの希望を探して歩き出す。
今回、僕の少し腐った人生観が少し炸裂してしまいました……w
こ、これで本当に受験まで書かないと思います……あと、2話ぐらいでこの章は終わるので、もしかしたらやっちゃうかもなー……




