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引きこもり少女と薬の妖怪

作者: あえば

寝ようとしても寝れない夜がある。


そんな時、仰向けになって天井をぼんやりと見ていると、なんだか棺桶に入っているかの様な気持ちになる。

狭い部屋で、身動き一つせず、僕はもう死んでいるんじゃないかと思う事がある。


そんな事を考えていると途端に怖くなって、僕は明かりをつけて何でも良いから本に手を伸ばす。眠気を待つのだけど一向に眠くならない。そうしているうちに窓の外はだんだんと青白くなってきて、小さい鳥のさえずりなんかが聞こえてきたりする。


結局そういう日は寝不足のまま前日いれたコーヒーを飲みながら大学へ行く支度をする。寝ていない身体にとって朝の陽ざしはとても手強く、なんだか太陽の方からいじわるをされている気分になるのだけど、僕も負けじと気怠い足で自転車のペダルを回して、なんとか大学に到着する。こういう日は大抵の授業は寝てしまって、そして期末の直前になって焦ったりするのだ。


千代さんと出会ったのも、こういう日の夕方だった。

彼女は生物学研究科の修士課程の先輩である。授業一通りを睡眠に充てたぼくの夕方の趣味というのは大学研究棟に行くことだった。ここの研究室前の廊下には研究成果の発表ポスター、恐らく学会発表時のポスターが並べられていて、それを眺めるのが僕の放課後の時間の潰し方だった。正直、知識が足らない僕にとってみれば分からないところが大半なのだけど、文章ひとつひとつから滲み出る気迫と情熱が伝わってくる。教科書にない研究成果を拝むことは僕の知的好奇心を大いに刺激したのだ。

千代さんは僕がこうした慣行をしているのを少し前から知っていたらしく、B2程度で珍しい奴がいるのだと感心して声をかけたらしい。


大学の授業が終わると僕は大抵2通りの過ごし方がった。

1つは、そのまま自転車にのってアパートに直行する場合。こういう日はあんまり面白くないからお酒をスーパーで買って、独りで飲む。アルコールで程よく文字が読めなくなるまで本を読んで、それで寝る。


もう1つは、これもお酒を飲むことには変わらないけど、千代さんという先輩と居酒屋で飲む。千代さんは僕が1回生の時にわずかな期間だけ入っていた映画サークルの先輩で、生物学研究科の修士2年にあたる。とても陽気で僕なんかとは全然性格が違うけど、考えていることや感性がなんとなしに似ている気がしてる。千代さんの方もそう感じているかは分からないけど、僕がサークルを止めた後も飲みに頻繁に誘ってくる。


因みにこちらからは誘った事はなかった。忙しそうにしているから誘いにくい…というのは言い訳で、ちょっとビビッているというのが本音だ。だから、いつも誘われるのを待っているばかりだった。


しかし、今日、初めてこちらから千代さんを誘った。これは他でもない、僕にかなりの影響を及ぼす”事象”が舞い込んできたからだった。つまり、僕は人生お悩み相談室を千代さんにしてもらう事としたのだ。


「珍しいね、亮ちゃんから誘われるなんて。」

「まあ、ちょっと相談事というか…」

「おっ、うれしいね。頼りにされてるってことかな~」

「そりゃ、こういう事聞けるの千代さんくらだし…」

「ふむ。3回生になって悩みが増えたかな。で、そのお悩みっていうのは?」

「えー。多分、信じないというか、突拍子もないことなんですが、」

「突拍子もないこと…?」

「はい…」

「…」

「それがですね…」

「はやく言いなってー」

「うちのアパートに高校生の女の子が居候を始めました…」


しばらくの沈黙。そして千代さんが懸念を表明する。


「えと…それは、犯罪的な何かではないよね?」

「あ、違います。遠い…遠い親戚の子です。色々あって、うちのアパートで預かって…と」

「色々ってなんだ。それを詳しく言ってくれないと」


僕は事の顛末をかいつまんで話した。

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