四年後
それから4年ほどたち、すっかり少年になった俺は空を見て、黄昏ていた。
「あー、暇だー」
今は両親二人による魔術講座が行われている。
両親曰く俺は魔力は驚くほどあるのだが、出力はそれほど無いらしく高位の魔法は使えない。
それと比べて俺の妹は優秀で、俺ほど魔力はないが、一般の魔法士よりも魔力が多く、出力の方もそこそこあるので将来有望とされていた。
さらには俺が生まれた家は孤児院をも運営している有力な魔法士一族だったので、いじめ等もあった。両親はどちらにも優しくしてくれているが、叔父や祖父などは俺に冷たい態度をとる。
「なぜ、我が家に出来損ないが産まれたのだ。産まれて直ぐに処分してしまえば良かったものを」
それが叔父が俺に会って最初に発した言葉だ。
祖父も叔父ほどではないが腫れ物を見るように接してくる。
最近は妹もだ。いつも俺に期待満ちた目を向けて
「お兄ちゃんは私より凄いんだからもっと自信もってよ。」
と言っていたのに無視ばかりしてくる。それは俺の秘密の特訓を見られてしまった時からだ。
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ある日の夜、俺はこっそりとベッドを抜け出して広場で研究をしていた。
出力の弱い俺でも使えるような魔法を作り出そうとしたのだ。あいにく、俺の使える魔法はそれに適していたので作るのは簡単だった。
「う~ん。もう少し発動効率を上げないと構築に時間がかかり過ぎてしまうな。」
今、研究しているのは水の中級魔法の【雨】だ。この魔法の基礎は初級の【水球】で、これを分割。広域に広げることで出来る。
この魔法を中級たらしめているのは分割の操作なので、最初から雨の粒を作ってしまえばいいと考えたのだ。
魔法の原理自体は簡単なもので
物を物たらしめている【本質】これがあることで全ての現象は起こっている。
例えば、雨であれば雨を降らすのは雲でその雲は《雨を降らすもの》と定義されているのだ。
魔法とは、イメージを魔法陣によって補強。それを【本質】に上書きすることで、現象を起こさせる。というものなのだ。
そして、魔法によって付けられた傷や、損傷は人や魔物などの動物でなければしばらくすると消える。
それは、世界の復元力が働くからだ。
魔法による現象は偽りの【本質】であり、不都合が生じるので、真の【本質】に戻ろうとする。この力が世界の復元力だ。
だが、それにも例外が存在する。魔法には強さの段階として 《初級》《中級》《上級》《超級》《神級》《神滅級》がある。一般的な魔法士は中級が出来れば一流と見なされる。
一部の魔法士には上級を扱える者もいるが、数は少ない。上級まではかろうじて復元力が働く。しかし、超級以降になると復元力は働かず偽りの【本質】が真の【本質】とされる。
つまり強い魔法を使う為には【本質】を上書きするほどの出力と干渉力が必要になるのだ。
で、話を戻そう。
結論から言うと雨の粒を最初から作るのには成功したが、魔法陣が複雑になっていて発動に時間がかかる。これでは魔法士にとって致命的な結果をもたらしてしまうことは明白だ。
「次は雨粒をランダムに配置してみよう。そうすれば多少は簡素化出来るはずだ」
俺は魔法を使った。すると、ガタンと後ろから何か物を落としたような音がした。後ろをおそるおそる見るとそこには妹のテレシアが居た。
「......」
「....その魔法陣見たことないんだけど......効果をみると【雨】よね。なんで中級魔法が使えないはずのお兄ちゃんがその魔法を使ってるの?それも大全に書いてある魔法陣とは違う魔法陣で」
俺は正直に答えるべきか悩んだ。ここで全てを話してしまえば俺は異端として叔父に殺されてしまうかもしれない。もう一度妹を見た。
「......」
妹は真剣な目で俺を見ていた。そこにあったのは知りたいという好奇心。そして、一種の決意のようなものも感じられた。それは俺が持っていないものであって、とても眩しく見えた。
「わかった。全部話すよ。だけど、これを他の人に言ったら俺は多分殺される。それでも聞くか?」
妹は少し躊躇ったが、俺に誓ってくれた
「私《テレシア=ヘルメス》は我が名に誓い話を他言しません」
これは魔法士にとって一番の誓いになる。名前による誓いだ。これを破ると魂に傷がつきその罪が神によって断罪される
「わかった。場所を変えよう」