プロローグ
プロローグ
俺、飯田夏樹は最近成人したばかりの社会人。俺の働いている会社がここ【有馬商事】だ。
そこそこの規模の企業で賃金もよかったが、そこにはある秘密があった。それはこの企業が根っからのブラック企業だということだ。上司の気分次第で解雇されたり、減給されることは日常茶飯事。悪いときは暴力はもちろん、危うく殺されかけることもあった。
でも俺は頑張って働き、貢献していた。
そして、いつも通り俺は会社に向かった。この会社では一番したっぱが一番早く来ていないといけないので、通勤時間の1時間前には必ず会社にいるようにしている。
「おお、飯田。今日も早いな」
そう言って声をかけてきたのは俺より一年早く入社した先輩の西山啓二だ。この先輩だけは俺を気遣ってくれるので、好きな先輩だった。
俺はいつも通りあいさつを返した。
「先輩、おはようございます。今日は随分早い通勤ですね。」
そう、西山先輩がいつも来る時間帯よりも、30分ほど早かったのだ。
それを聞いた西山先輩は顔をしかめた。
「それがな、明日から中東地域に転勤になったんだよ。だから、自分の机を整理しに来たわけ。でもさ、あまり行きたくないんだよね。なんかこう嫌な感じがするというか」
でも、この会社では転勤というのは海外進出を任されるという凄いことなので俺は嬉しくてこう言った。
「気のせいじゃないですか?入社1~3年の先輩が大事な役目を任せて貰えるなんて凄いことじゃないですか?」
「そう......だな。」
先輩はまだ浮かない顔をしている。そして、黙々と机を片付け始めた。
しばらくしてすべての片付けが終わり、先輩がドアノブに手を掛け出ていこうとした時、先輩はふと思い出したようにこう言った。
「夏樹。どんなことがあっても折れるな。前を向き続けろ。そうすればいつか解決策は見えてくる。これだけは覚えておけ。......じゃあな」
「先輩。今までありがとうございました。その言葉大切にしていきます」
それを聞くと先輩は少し嬉しそうに会社を出ていった。
~~~~~~~~~~~~
1ヶ月後、俺はとても後悔していた。
西山先輩が転勤した後、今まで少なくなっていたいじめという言葉では生ぬるい程の暴力。
休む暇すら与えられず、酷使される日々。それでいて賃金は雀の涙ほどしか貰えない。
そんな職場に嫌気がさして、つい先日、会社を辞めたのだ。
そこまでは良かったのだが、そこまで頭のいい大学に行っていない俺は、就職難の時代で仕事がそう簡単に手に入るものではなく、公園で日々の食事もままならない程に困窮していた。
(......もう長いこと食事をとっていないなぁ......)
もうすでにお腹の減りを感じることも無くなり、立ち上がることすらできない。栄養不足で回らない頭から出てきたのは、ああ......俺はこのまま死んでしまうのだな......という諦めと絶望だった。
そして、命のタイムリミットが近づいてくる。
死神が一歩一歩近づいてくる。
時間が、死神が目の前に。
(望めるのなら......もっと普通に......暮らした......かっ......た......な......)
しかし、俺の最後の望みはついには叶えられる事はなかった。