衝撃想起
わたしは居酒屋の玄関先で不覚にも気を失いそうになってしまったが
若く愛想の良さそうな女性店員を目の前に、
わたしは正気を取り戻し、平静さを保つように少しコートの襟を正しながら
ゆっくりと後ろを振り返った。
全体的に薄汚い印象の年齢不詳の女が案の定、
わたしの真後ろに立っていた。
彼女は悪意の無い薄汚れた無邪気な笑みを
わたしに向けている。
そして、手には わたしの置いてきたコンビニ袋を携えていた。
( はぁーーーーっ。 変なのに、付きまとわれてしまったなぁ・・。 )
その女性の薄笑いを浮かべた顔は
わたしにとって 恐怖から、
何か腐れ縁のような疎ましさへと変化していった。
それは店内の照明で、コンビニの時よりも直感的に
霊的なモノや犯罪めいた感触をすべて払拭していたからだった。
『 う~~~ん、イイ匂~~~い。 ねぇ、おじさん。
おでん食べるの? 』
( きみには関係の無いことなんだけど・・なぁ。 )
どうしたらいいのだろう?
『 お客様、どうかなされましたか? 』
『 い、いえ。 』
『 あいにく、カウンターはすべて埋まってしまっているので、
奥の座敷になりますが・・・御案内してもよろしいでしょうか? 』
『 お、お願いします。 』
『 では、こちらにどうぞ。 』
『 ねぇ、わたしもいい? 』
少し甘えた声が わたしの背後から届いた。
( やはり、おねだりするよなぁ・・・ なんとなく、そんな気がしたけど )
『 まったく・・・どういう、ぅ? うん?! ぁあ! 』
『 ? どうしたの? 』
わたしは奢るにしても、一言文句を言ってやろうと
その女性の顔を改めて見たのだが・・・驚いてしまった。
いや、正確には・・・
彼女の首筋を見て、ビックリしてしまったのだ。
それは、
彼女の左鎖骨の上から左首の背後まで伸びるアザというか、
傷痕が見て取れたからだった。
それは、
わたしにとって 忘れもしない中学時代の淡くも儚い恋の記憶を
否応なく想起させるモノだった。
~つづく~