夕飯思案
わたしは、その女性に只ならぬ不気味・不愉快さを感じ、
黙って、その場から・・・・・ゆっくりと離れた。
そう、コンビニ袋はそのままにして・・・。
( そんなに欲しかったら、くれてやるよ。
でも、なんか怖いし 関わりたくない。 そう、会話もしたくない。 )
わたしは彼女から無言で背を向け 駅の方へ向かって歩き始めた。
そして、思い出したかのように ゆっくりと歩幅を狭め 携帯電話を再度取り出し、
わたしの恋人である 「 樋田なつみ 」 に電話を掛けてみた。
しかし・・・数度の呼び出し音の後に、すぐ留守番電話サービスに繋がった。
( なんか、留守電になるのが早いな・・・ )
彼女とは1カ月前に帰郷した際、
互いに愛し合い、そして 派手な喧嘩をした。
わたしは彼女をないがしろにした覚えはないが、
深い愛情と将来像を示さないと・・・女性は不安になるらしい・・。
彼女の場合は、人一倍心配性で淋しがり屋だった。
わたしだって、寂しさに慣れているつもりはないので
お互い様だと思っていたが、何処か温度差があるようだった。
わたしは あと数年後にでも・・・そう、仕事が軌道に乗ったら
彼女をこちらに呼び寄せ・・・結婚も視野に入れた考えもあるのだが
所詮、絵に描いた餅なのだろうか・・・。
もう一度、電話を掛け直してみる。
しかし、結果は同じだった。
「 ぐ~~~~~っ。 」
自身のお腹の音に、少しげんなりしながら
わたしは 久しぶりに夕飯も外で済まそうと思い立った。
さっきの何かヤバい奴のお陰で、
自身の夕飯が無くなってしまった訳だし・・・
再度コンビニに入るのも・・・バカげている。
( はぁーーーーーーーっ。 なんか調子が狂うなぁ。 )
あ、そうだ。
おでん!!!
そうだ、おでんでも食べて帰ろう。
アツアツのちくわにコンニャク、そして味の染みたバクダン・・・。
飲み物もビールじゃなく、少し贅沢に冷酒を頼もう。
そうしよう。
う~~~ん。
なんか仕事の疲れや、その他のイヤなことも 癒されそうだ。
そう思うと、自然と駅へ向かう足取りも軽く 早歩きになってしまう。
えーーーーっ、と・・・
たしかこの辺に、家庭料理風居酒屋で、
暖簾に「 おでん 」 の文字も記載されていたお店があったはずなんだが・・・
あ、あった。 あった。
空いているといいな。
わたしは、勢いよく店の引き戸をスライドさせる。
『 いらっしゃいませ!! 』
( お、大将の調子の良い声・・・。 なんか感じのいい店だな。 )
『 2名様、奥へどうぞ!! 』
『 へっ!? 』
( 2名様? )
わたしは、その言葉に
瞬時に全身が凍り付くようなイヤな悪寒を感じ、
振り向くのを躊躇してしまった。
( も、もしかして・・・・。 )
『 おじさん。 これ、忘れ物だよ。 』
わたしの背後から聴こえる、
その身に憶えがある声と、コンビニ特有のビニール袋を揺らす音に
わたしは振り返ることも無く、卒倒しそうになってしまった。
~つづく~